夕陽は約束の
息を切らしながら、俺は病院の階段をかけ上がった。
ある病室にたどり着いて、ノックをする。
しかし、返答がない。
ガラガラとドアを開ける。
中にはいるはずの彼女がいない。
慌てて周囲を見渡す。
ベッドの上のメモを見つけた。
「"月より夕陽がいい。見えるとこに来て。"」
俺は階段をさらに駆けあがって、屋上のドアを開けた。
屋上には眩しいほどの夕陽が見えた。
そこにこちらに背を向けた彼女がいた。
ああ、やっと、会えた。
「何をしてるの?」
そう声をかけた。
「夕陽がキレイだね。」
背を向けたまま、彼女は答えた。
「私、そっちを向く勇気がないかな。」
「どうして?」
「お兄ちゃんから聞いてるでしょ。」
彼女の声が一瞬震えた。
「ああ。」
「それでも受け入れてくれるなんて、夢なんじゃないかって。」
俺も今まさに、同じ気持ちだった。
「夢じゃない。」
だから、後ろから精一杯の愛情を持って、抱き締めた。
ひっく、と彼女の肩が震えて、泣き声がする。
「嫌いに、なってない?」
「ああ。」
「汚いとか、思ってない?」
「過去のことだ。」
俺はそっと離して、彼女をこちらに向かせる。
やはり、夢よりもずっと。
「可愛いな。」
「ひっく、泣き顔の時に、言われても。」
「ごめん。」
「どんな茉莉花だって好きだよ。」
「やっと、聞けた。」
「飽きるくらい言おうか?」
首をふる茉莉花に、俺は優しく正面から抱き締めた。
「大丈夫、もう忘れない。」
「うん。」
「夢だけじゃない。」
顔を見る。茉莉花は涙を拭いて笑っている。
「いつでも会えるから。」
「うん。」
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「はぁ、やっと言いやがった。」
栄一は大きく安堵した。
「暁斗くらいに度胸が欲しかったな。」
「フラれた傷をえぐるのやめろ。」
暁斗は腕組みをする。
共に視界には夕陽の中で互いにみつめあう一組のカップル。
「で、お義兄さんとか呼ばせる気か?」
「やめろよ、気持ち悪い。」
階段を少し下りて、タバコを口にし、火をつける。
その火にタバコを近づいて、暁斗ははぁ、と再びため息をする。
「しかし、今思えばすげぇ話だよな。」
「まぁな。」
「眠り姫さながらだな。」
「お兄ちゃんたち、なにやってるの?」
急に声をかけられて、二人はビックリして振り返った。
先程のカップルが戻ってきたのだ。
「あ、ああ、タバコをな。二人ともいたのか。」
「吸いすぎはよくないよ、お義兄さん。」
「桔梗やめろッ!気持ち悪いだろ!」
あはは、と茉莉花がお腹を抱えて笑っている。
ようやく、眠り姫は心から笑ったのだ。




