10安らかなフェアウェル
それからゼナルはリュークと兄弟のように暮らした。
リュークは母親と二人暮らしで、父親は過労死していた。
『ディス』は皆働かなくてはならない。
父は極少ない給料のためにいくつもの職を休みなしで続け、限界がきたのだ。
職を獲得するのも容易ではない。
だからリュークは薪割りから運ぶまでの仕事と、父がしていた配達業をしていた。
それが、子供の限界だった。
母は綿花摘みと、父の靴屋の下仕事を兼ねている。
ゼナルはリュークの仕事を手伝うようになった。新しい仕事をしたかったのだが、急には受け入れてもらえなかったからだ。
そして余った時間に、二人は剣の稽古をした。
ゼナルの過去を聞いたリュークが、熱心に頼み込んだためだ。
剣は、その辺りでは裕福な家から盗んだ。
してはいけないことだが、ここらでは盗まれた方が悪いという意識が強かった。
リュークはみるみる上達した。
二人で切磋琢磨し、腕を上げていった。
しかしその頃から、リュークは母を心配していた。ゼナルも同じだ。
最近になって、ご飯を食べなくなったのだ。
二人が早く仕事を終え、稽古をして帰り、ご飯を用意していても
「ごめんなさいね、お腹が空いてないの。もったいないから二人で食べちゃって」
そう言って口にしない。
結局二人は空腹から、それに甘えてしまっていた。それが何日続いているかなど考えていなかった………
ある日、母が倒れた。
綿花摘みの途中、急に倒れて荷車で運ばれてきた。
二人は、ちょうど仕事が終わって家に帰ったところだった。
母は痩せほそって顔色が悪かった。
もしかしたらここ最近ずっとだったのかもしれない。正直、変わらない気もする。顔色のいいときなんてないから、わからない。
「ごめんなさいね……」
か細い声。今にも消えそうだ。
「リューク……」
側に座るリュークの頬に手を伸ばす。
リュークはそっとその手を包む。細かった。
「あなたは無茶をするから……心配だわ……でも、そんなところも大好きよ……」
リュークの目が潤む。
変わらずにっこり微笑んでいる。
「どんなときでも……笑っていられる強い人でいてね……あなたの笑顔が一番好きなの」
「…………うん」
満足そうににっこりとし、隣のゼナルを見る。頬に手を伸ばす。
「ゼナル…………来てくれてありがとう…………ごめんなさい、リュークを……どうか……」
「…………、はいっ」
ゼナルは母の手をとり、額の前で強く握った。
また、にっこりと笑い、
力が抜けるように腕を下ろした。
そこからは眠っているようだったので、側で見守るだけだった。
目が覚めることは無かったけど。




