#86 なんとも可愛く
サミアンの街を出発して6時間ほどが経った頃。
ガリュウの背から地上を見下ろしてみると、広大な海の姿が見えてきた。
その海と面する地上部分に、沢山の船や建物も確認でき、恐らくあれがハンソンの街なのだろう。
「ガリュウ、あの辺に降りてくれ」
「グル」
そんなハンソンの街から少し離れた人気の無い場所にアネッタはガリュウを誘導した。
教国の時は地形も分からないし、魔法で人がいないか探知したところ、周辺に人がまばらにいたので飛び降りたが、今回は見るからに人目が無さそうな場所があった。
それから少しして、目的の場所に降り立ったガリュウの背からカスミ達は降りた。
「ガリュウさん、今回もありがとうございました」
「グルル♪ ……グル?」
「うん? どうしましたか?」
カスミがここまで運んでくれたガリュウに礼を言っていると、ガリュウが何やらカスミに見て欲しそうにしながら少し距離を取った。
その位置でガリュウが瞑目すると、その体が光に包まれ始め、そのシルエットが急激に小さくなっていく。
そして、その光が収まったかと思うと、そこにはカスミが腕で抱えられそうなくらいのサイズになった可愛らしいガリュウがいた。
「クルっ!」
「わぁっ! ガリュウさん、小さくなれるんですか!」
「クルゥ♪」
パタパタと翼をはためかせながらカスミの元へと飛んできたガリュウを、カスミは出迎えながらなでなでしていく。
「ガリュウお前、いつの間にそんなことできるようになったんだ?」
「クルッ!」
「最近練習した? ……もしかして、カスミと一緒にいたいからか?」
「クル!」
何となくガリュウの言ってることが分かるアネッタ曰く、どうやらガリュウのこの小さくなる力は、最近練習して身につけたものらしい。
「……ドラゴンはプライド高いから、わざわざこんな威厳無い姿になろうなんて思わないはずなんだがな」
「まぁ、良いじゃないか。 カスミのボディガードが増えたと思えば」
カスミとじゃれ合っているガリュウを見て、微妙そうな表情を浮かべるアネッタにクリスタがそう言う。
「魔力も安定してるし、うっかり元の姿に戻るなんてことも無さそうだしな」
「そうか。 ……ガリュウ、カスミと一緒にいるなら色々注意することがある」
「クル」
それからアネッタ達は、ガリュウに人間社会で守るべき最低限のルールを教えた。
まず、無闇に力を振るわないこと。
この小さい姿でも、人間を容易く吹き飛ばせるくらいのパワーがあるガリュウなので、力を振るうのは何者かに害されそうになった時に限り、ちょっと嫌だなくらいの時は威嚇に留めるとまず約束した。
ただし、カスミを害そうとした何者かが現れた場合、即座に半殺しまではOKという物騒な教えを施されており、隣で聞いていたカスミは苦笑いの表情を浮かべた。
あとは勝手に物に触らないとか、一人で勝手にどこか行ったりしないといった、割と厳しいルールを課せられていたが、ガリュウ的には問題ないのか、最終的に「クルル!」と元気よく返事をして了承した様子だった。
「そうしたら、ハンソンの街の冒険者ギルドで従魔登録しないとな」
「従魔登録ってなんですか?」
聞き慣れない言葉を発したクリスタに、カスミはそう質問をした。
「従魔というのは、テイマーが躾けたりした、相棒として人間と共にいる魔物の事を言うんだ。 カスミもたまに街中で魔物を見たことあるだろう?」
「そうですね」
サミアンの街でも時折、ウルフや二又の尻尾がある猫の魔物と共にいる人を見かけたことがカスミもある。
最初は驚いたが、よくよく見るとその魔物達はカスミがこちらの世界に来た時に襲われた魔物とは違い、理知的で穏やかな表情をしており、襲われる心配などは無さそうだった。
「そんな従魔は、冒険者ギルドで所有者登録をする必要があって、登録をすると従魔専用の装身具がもらえる。 その装身具は万が一従魔が暴れた時、マスターと者が念じると締まったり電流が流れて従魔の動きを制限する。 ……ガリュウに効くかは分からないが」
「クル?」
小さい姿になったとはいえ、魔物の中だと最強の種族のガリュウなので、肉体強度が従魔にできるような低級の魔物とは段違いだ。
「まぁ、ガリュウは賢いから、勝手に暴れたりしないだろうし、ちゃんと従魔登録をしてるっていう証明だけできれば良いだろう」
「ガリュウ、もしルールを破ったら全力訓練100本やるからな」
「クルゥ……!」
アネッタのそんな言葉に、ガリュウは首をブンブン縦に振って、絶対にルールは破らないことを示した。
どうやらアネッタとの全力訓練はガリュウにとっては相当嫌なことらしい。
「よし、それじゃあ行こうか。 マリン、案内を頼むよ」
「お任せください」
そんなガリュウとの一幕もあったが、気を取り直してカスミ達はハンソンの街へと歩き出すのであった。
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