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#41 思い出の肉じゃが

「ただいま帰りましたー」


「あ、おかえり!」



 謁見や相談を終えたカスミ達が王都の拠点に帰ってくると、レネが出迎えてくれた。



「どうだった、王城は?」


「とても綺麗で緊張はしましたけど、なんだかんだで楽しかったです」


「そっかそっか!」



 それから場所を玄関からリビングに移したカスミは、レネと隣り合って座り、王城でどんなことを話したのかを報告していく。



「正式にパーティーの料理作ることになったんだねー」


「そうですね」


「カスミちゃんなら絶対上手くいくだろうから、心配はいらないね!」


「うーん、私はまだまだ不安が色々ありますけどね……」



 ミーユイアの誕生日パーティーに向けて、王城の料理人達に料理を教えたり、その他にも色々と準備するべきことがあるので、当日までに満足いく形にできるかどうか、カスミは少し心配していた。



「大丈夫大丈夫! カスミちゃんはやれることをやればいいんだよー! 向こうも向こうである程度は調整してくれるだろうし!」


「確かに、そうですね。 私は料理に集中しようと思います」



 カスミが料理さえ完成させれば、盛り付けやどうパーティーに出すのかなんかは王城の料理人達の方が詳しいと思うので、頼れるところは頼ろうとカスミは少し肩の力を抜いていった。



「そういえば、アネッタさんとローニャさんは?」


「二人は手頃な討伐依頼受けに行ったよ。 もうそろそろ帰ってくるんじゃない?」


「そうですか。 じゃあ、それまでに夕食も作らないとですね」


「疲れてない?」


「料理の時間は私にとって休みみたいなものですから、大丈夫ですよ」


「凄いね! じゃあ、私も手伝うよー!」


「ありがとうございます」



 ということで、場所を厨房に移したカスミとレネは、夕食の準備を始めることにする。



「あ、そういえば、うちにあったタイムシフト付きの炊飯器と冷蔵庫はここに置いておいたよ。 明日にでもここのオーブンにもタイムシフトの魔法付けとくからね」


「助かりすぎますっ」


「いえいえ! あ、そうしたら、王城にある厨房にも、こういうの欲しかったりする?」


「うーん…… いや、とりあえずは大丈夫だと思います」


「そお?」


「王城の料理人の方々には、ほぼ一から私の料理を教えることになるので、最初はちゃんと工程を踏んだ方がいいかなって」


「確かに、最初から楽をし過ぎるのは良くないね!」



 レネの言う通り、料理は作るのに時間のかかるものが割とあり、その時間のかかる部分を最初から省略できてしまうと、いざそれが無くなってしまった時に、待ち時間の加減や、並行してする作業の時間計算という技術が身につかないので、便利機能は最初のうちは使わない方がいいだろう。



「でも、他人に教えるのとかあんまり経験ないんですよね」


「私達とかに教えてくれてる感じで良いと思うよ? 王城勤めの料理人ともなると、プライドが高いかもしれないけど、カスミちゃんの料理を食べさせればすぐ黙って教えを乞うようになると思う!」


「そうだと良いですねぇ……」


「もー、カスミちゃんはすぐマイナス思考になるんだからー。 うりうり〜」


「ふぁぁー、やへへふらはい〜」



 どうしても性分的に不安になってしまうカスミの頬っぺを、レネはむにむにと摘んできた。



「カスミちゃんの頬っぺたもちもちだねー♡」


「あぅぅ〜」


「はい、おしまい! たとえ失敗しても、カスミちゃんの周りには頼れる人がいっぱいいるから、大丈夫大丈夫!」


「……ふふ、そうですね」



 どこまでも明るく元気づけてくれるレネの言葉に、カスミは心がとても温かくなった。


 そのおかげで気持ちもだいぶ前向きになったので、気を取り直して夕食を作ることにする。



「そうしたら、レネさんはにんじんとじゃがいもの皮剥きをお願いします」


「分かった!」



 レネにある程度の作業を任せつつ、カスミは主食に使うオークのバラ肉を食べやすいサイズに切り分け、玉ねぎはくし切りにする。



「あ、玉ねぎって、切ると目痛くやつだよね?」


「そうですね」


「大丈夫? 私がやろうか?」


「いえ、この玉ねぎは、冷蔵庫で冷やしておいたので、目が痛くなる成分が飛びにくくなってるんです」


「へー、そんなことできるんだ?」


「あとは切り方とかを工夫すれば、割とマシになりますね」



 その辺のちょっとした豆知識は、カスミの祖母がまだ存命の時に教えてもらったことだ。


 カスミが両親を喪って塞ぎ込んでいた時、優しい祖母は何かしていれば悲しい気持ちも紛れるということで、料理だったり手芸を教えてくれた。


 そのおかげで、カスミは割とすぐに両親の死から立ち直ることができ、重ねて祖母のことが大好きになった。


 なので、玉ねぎを切る時は優しかった祖母との思い出が蘇り、どことなく温かい気持ちになる。



「皮剥けたよー!」


「あ、そうしたら、これくらいのサイズに切ってください」


「分かった!」



 そんな祖母のことを思い出して温かい気持ちになりつつ、カスミはレネと協力して調理を進めていき、程なくして使う具材を全て切り終えたので、鍋に油を引いて、それら具材を軽く炒めていく。


 具材全体に軽く火が通って油が回ったら、和風の顆粒出汁を溶かしただし汁と、酒、醤油、みりん、砂糖を加えて、落とし蓋をして煮込んでいく。



「あとは大体30分くらい煮込めば完成ですね」


「そんな煮込むんだ? タイムシフト付きの鍋も欲しい?」


「急いで作らないといけない時のためにあれば嬉しいですけど、煮込んでいる間に他の料理ができるので、無くても現状は困らないですね」


「そっか!」



 それから鍋の中身が煮詰まるまでの間に、今日はカブを甘酢で和えたサラダと、ほうれん草の味噌汁をレネと一緒に作った。



「なんかカスミちゃんと料理してると、料理上手くなった気分になるねー!」


「レネさん、教えるとすぐにできて凄いです。 手先が器用ですね」


「物作りしてるからね!」



 料理をあまりしたことが無い人は、普通だったら包丁の扱いも危うくなるものだが、レネはにんじんやじゃがいもの皮剥きを既に包丁でできるくらい、手先がとても器用だった。



「私はあんまり器用な方じゃないので、羨ましいです」


「そうなの?」


「はい。 ちゃんとできるようになるまでに、何回も包丁で指切ったりしました」



 今でこそ料理で怪我をすることは無くなったが、料理始めたての時は何度も手を切ったりしたし、お菓子作りも全然上手くいかなかった。


 ただ、カスミはできないことをそのままにはしたくないタイプなので、人一倍練習をして、遂には製菓のコンクールで賞をもらうくらいの腕になったのだ。



「手先は器用でも、まだまだ知識がないから、これからも色々教えてね!」


「もちろんです。 ……あ、そろそろこっちも良い感じですね」



 副菜などを作っている間に、鍋の中身もしっかり煮えたようで、落とし蓋を外すと、そこにはだし汁がしっかり染みたじゃがいもや玉ねぎの姿があった。



「おー! いい匂い!」


「盛り付けましょうか」



 そんな鍋の中身を盛り付け、カブの甘酢和えとほうれん草の味噌汁、そしてライスを食事テーブルに運んでいく。


 そうして夕食の準備がほぼほぼ済んだところで、タイミングよくローニャとアネッタも帰ってきたため、メンバー全員で夕食が並んだ机を囲んで席についた。



「今日のメインは肉じゃがです。 おかわりもありますので、好きなだけどうぞ」



 カスミがそう簡潔に説明すると、まずは皆、肉じゃがを口に運んでいった。



「ん! 美味しいー! お肉もだけど、他の具材にもしっかり味が染みてるね!」


「美味しくできましたね」



 レネの言う通り、しっかりと煮込まれた肉じゃがは、具材全てにしっかり味が染みていて、非常に良い仕上がりになっていた。



「味は濃い目だけど、なんか食べてて安心するにゃ〜」


「肉じゃがは私がいた世界で家庭料理としてよく振る舞われてましたね」



 ローニャの感想に、カスミはそんな風に答えた。


 肉じゃがはいわゆるお袋の味がする料理の代表格であり、かく言うカスミの肉じゃがも、レシピは祖母から習ったものだ。


 そのため、カスミにとっては思い出深い料理だったりする。



(何回食べても飽きないし、安心する美味しさだよね)



 ビフレストの面々の反応を見て、肉じゃががこの世界でも受け入れられることにカスミは喜びを感じると共に、この世界でも家庭料理として誰かの思い出の味になったりするといいなと、内心思ったりするのであった。

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