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仲良きことは

楽しく書いております

土日に書き溜めることができればよいのですが

「まさかあなたがメリナ・アンクレー伯爵令嬢だとは……」

 

 フレイアは混みあっている食堂で隣に座るメアンに耳打ちし。メアンはにっこりと微笑んだ。

 メリナ・アンクレー伯爵令嬢は同じ学び舎に集う……それも同じクラスの生徒で、妹が入学する前は何度か言葉を交わしたこともあるほどだったというのに結びつかなかった。

 メリナは鳶色の髪を結い上げ若草色の眼をした、優しい雰囲気の令嬢だ。

 柳のようにすらりとした体躯は骨格だけを思い浮かべればメアンと重なるが、そばかすの残る顔はどこかあどけない印象を受け、さらに浮かべる表情まで違うのでわかっていても頭が混乱してしまう。

 メアンは『変装して傍に居る』と言ったけれどアンクレー伯爵家は存在し、メリナ・アンクレー伯爵令嬢も実在する。

 メアンとしては元の自分が『変装』ということになるのだろうか。

 そう考えると彼女の第一王子への忠誠心が少し恐ろしくも感じる。


「私の『ギフト』は少し特殊なもので幼少期に遊んでいる時に第一王子に見つかって……それで勧誘を受けました」


 扱き使われていますよ、と言うメアンはどこか楽しそうで。フレイアは少し眩しい気持ちでその横顔を見つめて微苦笑を浮かべた。

 


「『ギフト』……良いですね。私は何の力も持っていないのです」


『ギフト』とは魔力を持つ者の中に時折現れる特殊な力のことだ。

 その力も様々で動物の声を聴く者や、指先に炎を灯すことができる者、雨を降らせるほどの力を持つ者も居る。

 『ギフト』を持つ者は国に登録され能力によっては有事の際に声がかかることもある。

 大抵は五歳から遅くとも十二歳までにその力が発現するため、自らに魔力があることが分かった子供たちは皆、自分にもなんらかの『ギフト』があるかもしれないと胸を膨らませて期待するものだ。


 フレイアもまたそんな子供たちのなかの一人だった。

 もしも強大な『ギフト』を持っていたら成人していなくとも城仕えをすることだって夢ではない。

 八年前から、家から出たい一心で自分に『ギフト』が発現する日を待っていたけれど。そんな日は来なかった。

 けれど人生、どうなるかわからないもので。幼い頃に夢見た展開ではないけれど家から出ることができている。


 一夜明けて妹はまだ西の塔に軟禁されているそうで。どうにかしろという手紙が継母から。第一王子を誑し込めたのかという手紙が父から届いたけれど。見なかったことにして『もう家には戻らない』という手紙をしたためたのが今朝のことだ。


 あの家にあるもので心残りがあるとするなら、ずっと一緒に居てくれた侍女のマリアと、自室に隠した母の形見である、首飾りについていた宝石くらいのものだ。

 マリアには会いたいけれど。マリアは自分の傍に居ない方が命の危険が及ばないから今のままがよいかもしれないと思っている。

首飾りの宝石の隠し場所は自分しか知らない。

 母が亡くなって八年。忘れるはずがないと思っていたその面差しを思い出すことすらもう、できなくなっているので。その上形見まで失われてしまうのはなんだか無性に寂しい気持ちになる。

 機会があれば実家に取りに帰りたいが。あの家から宝石を持ち出せる気がしないので今は諦めるしかないだろう。


「フレイア様。ご一緒してもよろしいかしら」

「ええ、どうぞ」


 声を掛けてきたのはセラス・フォートレイ公爵令嬢だ。

 自分の何が気に入ったのかわからないけれど教室ではおずおずと隣の席に座り。休憩時間も声を掛けてくれるようになった。

 この国一番の高位貴族の娘と言っても過言ではないセラスが傍に居るからだろう。

 妹と懇意にしていた者達は全く近づいてこなかったので。メアンが『杞憂でしたね』と肩を竦めたほどだ。

 こればかりはセラスに心底感謝している。


 以前は妹と仲が良かったことで、勝手に苦手意識を持っていたけれど。

 セラスは素直で正直で……いいや嘘の吐けない、貴族らしからぬ令嬢だ。

 きっと大切に育てられたのだろう。

 それが少し羨ましい気持ちもあるけれど。わがまま放題に育たなかったのは周囲の愛情と彼女の努力によるものだ。


「『ギフト』のお話をされていたのかしら」


 セラスにそう問われたフレイアは浅く頷いた。

メアンの『ギフト』についての話になってはまずいような気がしてどうにかして話題を逸らせないものかと考えて口を開いた。


「はい。私は持っていないのですけれどいろいろな力を持つ方がいらっしゃいますわよね。身近ですと私の侍女は『硬くなったパンを柔らかくする力』でした」


「あら、便利ですわね。セラス様は何か面白い『ギフト』を持った方をご存知かしら」


 フレイアの考えを察したメアンがセラスに問いかけると。セラスはよくぞ訊いてくれたとばかりに胸を張った。


「何を隠そうわたくし『ギフト』を持っておりますのよ!」


 そう言ってセラスは自らの制服に触れる。

 濃藍のドレスを思わせる制服がさっと深く上品な臙脂色に変わるのを、ふたりは感嘆して見つめた。


「この力があれば気に入らないドレスや飽きたドレスも好きな色にできるのですわ!」

 

 そう言ってセラスは制服をいろいろな色に変えて見せてくれる。

 食堂の片隅。遠巻きにされる三人の遊びは見かねた教師に叱られるまで続いたのだった。


 久しぶりに楽しく平和な学生生活を謳歌することができてフレイアは数年ぶりに気が軽くなるのを感じていた。

 このまま何事もなく終わるとは思っていなかったけれど。フレイアが恐れていた騒動は夕刻に起こった。


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