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紅茶で酔える令嬢

女子会です(断言)

「それで。あなたルフェウス様とは『どう』ですの」


 卒業が迫ったある夏の昼下がり。

 公爵家の一室でのお茶会。

 唐突なセラスの問いかけにフレイアは一瞬何を訊かれているのか飲み込めなくてきょとんとした後、噴きそうになった紅茶をどうにか飲み込んだ。

 呼吸と発声と嚥下で体が混乱したのだろう。

 喉がぐうっと変な音を立てて膨らむ感覚に眉を寄せ。その不快感と引き換えに、どうにか紅茶を噴きだすという淑女にあるまじき失態を免れる。

 

「『どう』……と言われましても。私は殿下のいち臣下です。まだまだ未熟ですが」


 『あの夜』自分と第一王子は『惹かれ合った』ように見えただろうが、思いのほか嫉妬からくる嫌がらせのようなものは受けていない。

 それは家族の犯した罪が明るみに出たのもあるだろうがやはり噂にもならないほど自分達にその手の雰囲気がないからに違いない。

 笑いながら否定するとセラスは唇をつんと尖らせた。


「退屈しておられますのね、セラス様」


 その様を見て笑うのはメアンだ。


「結婚式の準備も終えて、卒業を待つばかりの身……短い間でしたけれど毎日のように会っていたおふたりと離れるのは寂しいのですわ」


 零すような口調で呟きながらセラスが紅茶に角砂糖をひとつ、ふたつ、みっつ放り込む。

 思いもよらないことを言われたフレイアは少し目を見開いてからそっと笑った。

 素直で直情的な性格がセラスの魅力的な一面だ。


「ベルム公爵の領地は王都のすぐそばで。基本的に公務も持たれているベルム公爵は王都にお住まいなのでしょう。お互い多忙になるでしょうから会う頻度は下がってしまうでしょうけれど、会おうと思えば会うことができる距離です」


「それもそうね! 私、個人的なお茶会を開きますわ。お話もしたいですしドレスのデザインも見てほしい。あわよくば試着もしていただきたいですわ……あぁ、どうしましょう三人で一緒にお茶会や夜会で顔を合わせる機会があるなら共通のテーマや差し色でデザインするものも捨てがたいわ……」


 少し沈んでいたセラスの顔が明るくなる。

 フレイアはセラスの止まらない未来への言葉を聞きながら、本当にそんな未来が訪れればいいと密かに願った。


「そういえばフレイア様……舞踏会のエスコートはやっぱりルフェウス様?」


 思い出したようにまたセラスに問いかけられて。フレイアは肩を竦めた。


「そうなりました」


 いち臣下として……と言うにはあまりにもルフェウスの行動は苦しいものがあるが、ルフェウスに国を救う目的以外の何もないことはよくわかっている。

 だがそんな事情を知らない相手に説明するのは難しい。


「ドレスは誂えたものがありますがアクセサリーは殿下が選ばれるそうですよ」


 そしてそんな時。事情を知っているはずのメアンは何故か味方をしてくれない。

 くすくすと笑いながらセラスにそんなことを話すので焦っていると、案の定セラスが頬を綻ばせて嬌声を上げる。


「やっぱり『何もない』とは思えませんわ! 本当のことをおっしゃって!」


「いえ、本当に何もないのですよ……」


「どうして! 身内贔屓ですけれど顔も物腰も良く、王位継承権は破棄しておりますけれど将来的に公爵ですわよ? 何がいけませんの……やっぱり少し腹黒いところかしら……」

 

 セラスに詰め寄られたフレイアは恨みがましげにメイアを睨んだけれど。メアンは『メリナ・アンクレー伯爵令嬢』としてにこにこ笑っているだけだ。


「それにしても何故、そんなにセラス様は殿下を推してくるのですか」


 話題を変えたかったのと、純粋に疑問に思ってフレイアが問いかけるとセラスは少し頬を紅くして目を伏せた。


「そ、それは一緒に公爵夫人になったら会う機会も増えますし……ルフェウス様は私の従兄ですし……親戚になれたら嬉しいな、と……」


 セラスの可愛い反応に思わず胸がときめきそうになったけれど。

 ふとセラスの父が王弟であり、来る未来によっては反乱後、王に担ぎ上げられる未来があることを思い出して少し暗い気分になった。


「それは素敵なことですが……私は伯爵とはいえ財政も領地もひどい状況です。結婚など考えられません」


 そんな物思いを隠すように笑うと何故かセラスが憤懣やるかたないといった顔をして砂糖を投入した紅茶をぐっと飲みほした。


従兄様(にいさま)は甲斐性なしですわ! 惚れた女にそんなことを言わせるなんて!」


「あの……セラス様、酔っておられますか? それにそれは事実無根です」


「紅茶で酔えるはずがなくってよ! いいえ私にはわかるのよ。従兄様(にいさま)の顔つきが変わったもの! それにこれまで女性なんて畑でとれるものと言わんばかりで告白もなにもかもけんもほろろで婚約者のアクセサリーだって予算枠を取るだけだった従兄様(にいさま)がフレイア様にはここまでするのですもの!」


 静止しようとするもセラスの勢いは増すばかりだ。

 助けを求めてメアンを見たフレイアは遠い眼をして深く頷くメアンを見て諦めた。


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