早まったかもしれない
こういう感じ大好きですー
「君にこれを」
卒業式当日。
ルフェウスに馬車の中でちいさな箱を渡されたフレイアは思わず受け取ってしまってから、箱の大きさに見合わない重さに嫌な予感を覚えながら箱を開けた。
中に入っていたのは連なる水晶とダイヤモンドとサファイアがうつくしい髪飾りだった。
小粒だが輝きの強い宝石は素人目に見てもひとつひとつが一級品だとわかる代物で。なによりその宝石の配置や細工が素晴らしい。
もしも宝石をばらばらにしてしまったらこの髪飾りの価値は半分以下になるだろう。
「ドレスのデザインをあらかじめ聞いていたから選んでみたんだけど……どうかな。首飾りとも合っていると思うし」
ルフェウスの言う通り髪飾りと首飾りの細工はどこか似ていて。セラスが誂えてくれた暮れなずむ夏の夜空のような紺碧色の優美な輪郭のドレスにとてもよく映えた。
ルフェウスに『そういった意図』がないことは百も承知だがセラスからいろいろなことを聞いた後だからだろう、妙に意識してしまって落ち着かない。
いいや。それ以上に落ち着かないのはこの髪飾りの価値だ。
もしかしなくても王家御用達の職人の手によるものに違いない。
誇張ではなくこの髪飾りひとつで館が建ってしまうだろう。
よほど『舞踏会が終わったらお返しいたします』とよほど言いたかったけれど、それは第一王子の面目を潰す言動だ。
「過分なものをありがとうございます。大切にします」
動揺を押し隠し、礼を言うとルフェウスが嬉しそうに破顔する。
あまりにも素直な表情に目を奪われそうになりながらも。気になった事があったのでフレイアは言葉を探した。
当初、自分の存在は囮か何かだと思っていたけれどどうやら違うことがわかってきた。
けれど貴族たちはそう判断してくれないだろう。
第一王子は婚約者を探しているというのに自分が臣下として傍に居るとルフェウスにとってよくない噂が絶えないだろうしまともな令嬢も近づきづらいだろう。
「第一王子は婚約者をお探しなのですよね」
少し迷った後、口火を切るとルフェウスは急に何を、とでもいうような少し驚いた顔をした後、頷いた。
「本腰を入れてはいないけどね。未来を考えると慎重にならざるを得ないし……あぁ、でも」
不意に言葉を切ったかと思えばすっと手を伸ばし。フレイアの結い上げた髪に髪飾りを丁寧に付け始める。
髪飾りを付けるのは会場に入る前にメアンに頼もうと思っていたので。フレイアは戸惑って目を見開きながらも動きを止めた。
「君ほど頭が良くて綺麗な令嬢が傍に居たらなかなか誰も近寄ってくれないから困ったものだよ」
「ふふ……では来年まだ私が生きていて領地経営がうまくいっていたら責任を取りますよ」
微笑んだルフェウスが髪飾りを指先で撫でて身を離す。
軽い口調で言われたので冗談だと思ったフレイアは微苦笑を浮かべてルフェウスを見たけれど。目が合ったルフェウスの目には見逃しようのない沈んだ色があって。無神経なことを言ったと思ったフレイアはちいさな声で詫びた。
「申し訳ありません、過ぎた冗談でした。でもきっと素敵な方と出会えますよ」
フレイアが笑顔で言うとルフェウスは少し複雑そうな顔をしながらも微笑みを返してくれる。
「僕は君を死なせたくないと思ってる。だから来年。責任取ってもらうよ」
そんな言葉と共に髪飾りを馴らすためだろうけれど髪をそっと梳きやられて。
フレイアは軽はずみなことを言ったかもしれないと思った。




