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望まぬ2度目の人生を。〜前世の記憶と痛みを抱いて、それでも俺は生きていく〜  作者: 灰とダイヤモンド
幕章 それぞれの転機

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いつかの発明のために

アイオンは刀を納めた。

そして全身に疲労と痛みが押し寄せる。


腕が重い。

膝が震える。


しかし、歩く。

床に倒れていたヴィラの元へ。


仰向けのまま、短刀を握り、天井を見ている。


起き上がれないのか。

それとも起き上がらないのか。


アイオンはヴィラへと手を伸ばす。


「ありがとうございました」

「……もう少し早くできなかったのか?傷だらけなんだが」

「次があれば、そうしますよ」

「……はっきりわかった。お前、嫌な奴だな」

「なぜかよく言われるんですよね。失礼な話です」


ヴィラはため息混じりに手を掴む。

そして、ゆっくりと立ち上がった。


回復薬を互いに飲みながら、もう一人の元へと向かった。


テオルは魔道具を手放し、その場に座りこんでいた。


「……終わったんすよね?」

「終わりました。しかし、残念な報告が……」

「えっ?なんすか……?」


アイオンは崩れた残骸を指さす。

その中心で――砕けた核を。


テオルが、ゆっくりと顔を上げる。

それを見た瞬間、目の色が変わった。


「……まさか」

「属性魔石を吸収して、自身の力にしてたんでしょう。ですが、それを砕いてしまった。……依頼は失敗です。高純度の属性魔石は失われました」

「そ、そんな……!!」


ヴィラは魔物の死骸から光る属性魔石を取り、テオルに投げる。


「それでいいだろ。何が不満なんだ?」

「こ、こんなの、あの属性魔石に比べたらガラクタもいいところっす!あれだけの結晶体、二度とお目にかかれないっすよ!!」

「……命があっただけマシと思え。そもそも、ここは我等の遺跡だ」

「いやいやいや!ヴィラさんも魔道具には助かったはずっす!でなきゃあいつに喰われてたっすよ!」

「邪魔だった」

「う、うそつけ〜!!」


テオルの声が反響する。

アイオンはテオルに言うわけにはいかないが、申し訳ない気持ちで一杯だった。


(……"命を糧にする力"。無機物には作用しないと思ってた。でも、魔物と一体化して、命になってたんだな……)


二人に気づかれぬように魔力を操作する。

小さな水球が、ひとつだけ浮かぶ。


(オニクさんがやってたから、真似しやすいな)


異形の命を取り込み、使っていた水魔法の因子を一気に取り込んだのだろう。


できると、理解していた。

これで扱える体外魔法は火、風、水の三種類になった。


(普通の魔法使いは二種類でも多いって言ってたっけ……さすがにこれは黙っておこう)


しかし、旅のお供として最高の魔法を手に入れたと言っても過言ではない。

魔力がある限り、水の心配がなくなったのだから。


アイオンは水球を消し、騒いでいるテオルの肩を叩く。


「街に帰りましょう。なにがあったか伝えないと。ヴィラさんは?」

「村に戻る。警戒が必要だ。……それに、この遺跡の管理を進言しなくてはならない。こいつの言う事が本当なら、また属性魔石とやらはここにできるんだろ?あんな魔物がまた居着いては困る」

「確かに……。ゲールの街に行ったことはありますか?」

「私はない。……角人だからな。村の者が買い出しに行く事はあるが」


その言葉にアイオンは首をかしげる。


「角があるのはヴィラさんだけ?」

「……他のものは突起程度だ。私は先祖返りで色濃く出ている」

「へぇ。でも、誰も気にしないと思いますけど?」


その言葉に顔をゆがめるヴィラ。

しかし、テオルも同調する。


「確かに。最初はびっくりしたっすけど、亜人の特徴がある人はほかにもいるっす。気にすることじゃないっすよ」

「……お前、よくそんな事が言えるな?亜人だって騒いでたくせに」

「急に襲われたらビックリするっすよ!」


アイオンは咳払いをする。

二人はアイオンを見る。


「とにかく、ここを出ましょう。後は冒険者ギルドの判断に任せます。ヴィラさんの村と連携できたらいいですけど、それはそれで後で考えましょう」

「――いや、まだ帰れないっす!」


テオルがアイオンを制す。

ヴィラと二人、テオルに視線を向ける。


「……属性魔石を回収するっす」

「「はぁ?」」

「回収してから帰還っす!これは譲れないっす!」


アイオンはテオルの肩を掴み、視線を合わせる。


「テオルさん。状況が違いますよ。まず報告しないと――」

「わかってないのはアイオンさんっすよ!」


テオルは逆にアイオンの肩に手を置く。


「これだけの魔物の死骸をこのままにしてはおけないっすよ!どんな影響が出るかわからないっす!」

「……なら、ギルドで暇してる人達と――」

「仮に!このまま街に戻っても、態勢が整ってここに来るのは数日後っすよ!それに、崩れてた生態系の揺り戻しがあるっす!暫く山は荒れるはずっすから!」

「そんなすぐに影響は――」

「甘いっすよヴィラさん!魔物は環境の変化に敏感っす!敵対して縄張りを荒らされてたんだから特にっす!」


口を挟んだヴィラを指で制するテオル。


「とにかく!属性魔石と死骸を一緒にしてて、キメラ的ななにかがまた生まれる可能性も0じゃない!最低でも属性魔石は回収するべきっす!今すぐ!!」


血走る眼で力説するテオル。


アイオンとしては、外に出てるかもしれない尖兵に対処するのを優先すべきだと思ったが、反論できなかった。


アイオンが困った時にやる手法。

"なんやかんや筋が通ってそうな言葉でまくし立て、相手の反論を封じて自分の主張を通す"。

それをそっくりやられた。


#


異形の残骸が、広間一面に広がっていた。

様々な断片。砕けた殻。異形の肉片。


それらが幾層にも折り重なり、もはや元の広間の面影は残っていない。


立ち込める匂いに頭がクラクラする。

アイオンは今までにないような、光のない目でひたすら魔物の処理をしていた。


魔石と属性魔石を死骸から取り出し、掘った穴に死骸を入れ火で燃やす。

その匂いにも、慣れてしまった。


魔石は色を失ってる物が多々見受けられた。

アイオンはこの戦闘で相当数の命をストックしたようだ。


が、そんな事を気にすることなく、処理を進める。

その側で、テオルがひたすら属性魔石の鑑定をしていた。


「これも駄目っすね。やっぱりあの主が吸い取って、尖兵には絞りカスみたいなものを与えてたみたいっす」


落胆は隠しきれていない。

それでも手は止まらない。

残骸を一つずつかき分け、光を探す。


「これは……ああ、これも駄目っすね。……あ、これは少しマシっす」


小さな欠片を拾い上げる。

指先で重さと質を確かめ、息を吐いた。


「純度は低いっす。でも……ないよりはマシっすね」

「……そろそろ、いいですか?もう数もないですし、あの四体の属性魔石がマシだったんなら、それで納得してくださいよ」


アイオンは残りの残骸を見る。

あの主――女王を除いては色濃く人の痕跡を残した四体の異形。

あれよりも弱い尖兵に、マシな属性魔石が残ってるわけがない。


テオルもそれはわかっていた。

が、諦められなかったのだろう。

しかし、そろそろ認めてもらわなくてはならない。


外に脅威が残ってる可能性は高い。

依頼者への義理は既に果たした。


「……そうすっね。ここまでにします」

「賢明です。では、一気に燃やします。水は任せますよ」


アイオンは風で残ってる死骸を一纏めにする。

そして、有無を言わせず火魔法で燃やした。


数秒後、テオルは魔道具を操り、鎮火させた。

匂いがより一層立ち込めるが、気にすることはなかった。


「これでとりあえずはいいでしょう。街に戻りましょう」

「了解っす!そういえば、ヴィラさんは?」

「上の死骸をここに運んでからは寄っても来ませんでしたよ。なんなら、もう帰ってるんじゃ?行きますよ」


アイオンは返事を待たず歩き出す。

テオルは慌てて後をついて行った。


死臭で満ちたこの空間も、いずれ正常な空間に戻るだろう。


#


来た道を戻り、入り口付近に差し掛かったところで、ヴィラが座りこんでいた。


地べたに座り、休んでいるようだった。


「待ってたんですか?」


アイオンが声をかける。


「――遅い」


ヴィラは短く答える。

明らかに不機嫌だった。


「いつまで死骸漁りをしてるかと思えば――もう夜中だぞ」

「俺だってやめたかったですよ」

「すいませんっす……まさか、待っててくれてるとは」


テオルが頭を下げる。

ヴィラはゆっくりと立ち上がり、自身の鼻をつまむ。


「……ひどい匂いだな」

「焼いたんでね。その上で水をかけたら、匂いがしますし移りますよ……」

「我等の遺跡でそんな事を……はぁ」

「本来はあんな空間なかったはずっすよ。たぶんっすけど、あの異形種じゃない、元々住み着いてた魔物が長い時間をかけて広げたんでしょう。そこでより濃く魔力溜まりが発生して、属性魔石ができたんだと思うっす」


アイオンが頷く。


「そして属性魔石の数が減ることもなかったから範囲が広がり、遺跡の出口付近まで姿を現した。それを運よく手に入れて、奥にはもっと上質な物があるんじゃないか?と考える人が出てきた……」


テオルが俯く。

テオルの罪はあるか?と問われれば、なにもない。


望む物があると思われる場所に依頼を出した。

それを冒険者ギルドが受けて、冒険者が受注し――失敗した。


ただそれだけの話だ。

命をかける仕事である以上、失敗のリスクは常につきまとう。


「……運が悪かった。それだけだ」


ヴィラはそっと呟き、出口へと向かった。

アイオンもそれに続き、歩き出す。


テオルは一度奥へと続く道を振り返り、頭を下げる。

そして、二人の後を追い、外へと出た。


#


外に出ると、冷えた空気が肌を刺した。


雪は止んでいる。

空には、星が出ていた。

ヴィラが足を止める。


「ここで別れる」

「村に戻るんですね?」

「ああ。報告しなければならない事が山程ある」


短く返し、遺跡を振り返る。


「この遺跡のことも……山のことも。そして、今後のこともな」


アイオンは頷いた。


「こちらも、予定通りギルドに報告します。管理については、街と村で話し合えればいいんですけど」

「……それは、村の者が決めることだ」


一度、言葉が切れる。

わずかな間。


「ただ、窓口は必要だろう。村から人を出す」

「分かりました。そのように伝えます」


沈黙が落ちた。

夜の冷気だけが、間を埋める。

やがて、テオルが口を開いた。


「あの……ヴィラさん。今日は、ありがとうございました!」


少しだけ視線を落とす。


「自分のせいで、あんなことに……」

「お前のせいとは思っていない」


即答だった。


「うぅ……でも、本当に助かったっす」

「……お前達を利用しただけだ。それ以上でも以下でもない」


淡々とした言葉。

だが、完全な否定ではなかった。

テオルは素直に口を閉じた。


ヴィラの視線が、今度はアイオンへ向く。


「お前は……まあ、悪くなかった」

「それは光栄です。互いに利用し合えて良かったです」


軽く返す。

その言葉に眉をひそめるヴィラ。


「お前は私を盾にしただけだろ?それで"し合う"とはな……」

「おや?記憶違いですかね?少なくとも三回は危ないところを助けてますが」

「……あのでかい化け物。お前だけじゃ、数十回は殺されていたぞ」

「……一人なら一人でやりようはありましたよ。そもそも、撤退を視野に入れますから」


二人は静かに睨み合う。

テオルは慌てて二人の間に入る。


「ちょ、ちょっと!綺麗に終われそうだったのに、なんで殺気を向け合ってるんすか!?やめてくださいっす!」


ヴィラは舌打ちをし、離れる。


「……命拾いしたな」


アイオンはにこやかに微笑む。


「お互いに、ですね」


ヴィラは呆れたように少し笑い、背を向ける。


「――嫌な奴だ」


ヴィラはそのまま山へ歩き出す。

暗闇の中へ。

その背は、すぐに闇にとけた。


残された二人は、ゲールへ向けて歩き出す。

雪を踏む音が、静かに続く。


しばらくして、アイオンがぽつりと尋ねる。


「結局、なにを作りたかったんです?」

「……笑わないっすか?」

「笑いませんよ」


短い返事。

テオルは少しうつむき、そっと呟く。


「――雨を降らせる魔道具っす」


少しだけ間が空く。


「……雨を?」

「……そうっす。それがあれば、日照りが続く土地でも水に困ることはなくなるっす。自分が育った村は、そういう土地で……なんとかするために研究してたんすよ」

「じゃあ、あの霧の魔道具は、そのための?」

「そうっす。用途は違うっすけど、"水の属性魔石から水分を形成して散布する"っていう理論は、やっばり間違ってなかったっす。後はそれに耐えられるだけの高純度の属性魔石を見つけるだけっすけど……あれだけ上質なのは、自分が生きてるうちは、もう……」


それ以上は、続かない。

しばらく無言で歩く。

やがて、アイオンが思い出したように顔を上げた。


「それって、擬似的に再現できないんですか?」

「……擬似的に?」

「例えばですけど、S級の魔物の魔石に、大量の属性魔石の力を移す事ができれば、それは高純度の属性魔石になるんでは?」


簡単な話だ。

容量が足りないなら別の器を用意すればいい。


「飛空艇はS級の魔物の魔石を使って、魔導回路で飛ばしてるんでしょ?でも、無尽蔵じゃない。それなら、空になって役に立たなくなった魔石があるはずですよ。それに入れればいい」


テオルは立ち止まり、顎に手を当て考える。


「……なるほど。それなら、上質な属性魔石の採取をする必要はないっすね。なんなら、自然に生成されるのを待つ必要もないっす」

「実際にそういう物があるかは知りませんけど、ないならないで他にもやりようはあるでしょ。王族の巨大飛空艇は複数の魔石で稼働してるって話ですし、魔石を属性魔石に置き換えればいいだけでは?」

「……確かに」

「大事なのは、魔導回路では?俺は全く詳しくないのでわからないですけど」


テオルは勢いよく身を乗り出す。

そしてアイオンの手を強引に握る。


「素晴らしいっす!確かにその通りっす!"属性魔石"と"魔物の魔石"は、決して遠いものじゃない……うわー!なんで思いつかなかったんだー!」


アイオンはその勢いに引きながら、答える。


「さ、参考になりましたか?」

「大いに!まずは低級の魔石で試すっす!要は魔石を属性魔石に転換する魔導回路を組み立てられるかどうかっす!うわー!早く帰りましょう!アイオンさん!」


テオルは勢いよく走り出す。

しかし、雪に足を取られてスピードは出ていない。


それでも、前へ前へと進む。

アイオンはその勢いに目を丸くし、暫く呆けた後――苦笑いで後を追う。


(熱中する物があるのは良い事だな。それが誰かのためになるなら、もっと良い)


いずれテオルは成し遂げるのだろう。

それがなんのしがらみもなく世に出るのを、願うばかりだった。

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