第18章 グラール帝国②
グラール帝国②
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「現在、ガリー班は、別部隊に合流を図ろうとしている者達を追撃中。
ギルスーレ班は、捕虜の選別中。
リンドレージェ班は、王都ハルマール内で敵の動向を調査中です」
「そうか、リンドレージェにはカメラが邪魔になっちゃったな」
「しかし、リンドレージェの行動が、お館様が疑わしいだけでは手は出さないというアピールにはなったと思われます」
「確かにな。
さすがリンドレージェだ、良い判断だったと思う。
もちろん、ガリーとギルスーレもな」
「……セスラーナから、金属板の回収終了とグラール帝国軍の再侵攻無しとの報告も入りました」
「そうか、分かった。
じゃあ、グラール帝国の事を聞こう。
因みに、今回の侵攻に反対したヤツは居たか?」
「いいえ、1人も居りません」
「はぁ〜……。まあ、そうだろうな。
じゃあ、帝位の継承権の有る者で、まともそうなヤツはいるか?」
「残念ながら、現在継承権の有る者の中には、お館様の御眼鏡に叶う者は居りません」
「…………つまり、剥奪されたヤツには居るって事か?」
「はい、あくまで可能性ですが、1人継承権を放棄して、単身、現ロンドベレクロ王国へ渡り、獣人種族の妻を娶って生活をして居る者がおります。
元第5皇子で“人種族至上主義”に反対し、その撤廃の為に継承権争いを起こしましたが、周囲からの反発を受け放逐された後、自ら継承権を放棄して旧キルス王国に渡った様です」
『…………なんだろう……。
ソイツって転生者なんじゃ無い?
ソイツ、ケモナーなんじゃ無い?
帝国の皇子の立場よりも、ケモミミとケモシッポを求めた重度のケモナーなんじゃ無い?』
そんな気がしてならない…………
「ソイツの居場所は分かっているのか?」
「はい、現在、クルス商会のロンドベレクロ支店に勤めております」
「!!ウチの従業員なのか?」
「はい、その前は旧王都キルスにて魔導具店を営んでおりました」
「なるほど、吸収合併入社か…………。
ソイツを明日の午前中、本部会長室に呼んでくれ、直接会って話す。
帝国への対処の方向性はソイツに会ってから考える事にする」
「畏まりました」
「ガリーとギルスーレとセスラーナには早めに切り上げて残業になり過ぎない様にさせて、シエラールルもシェーラに引き継いで早めに上がる様に。
リンドレージェには、悪いがキッチリ済ませてくれと伝えてくれ」
「畏まりました」
そう言って、オレは我が家に帰って、妻達に誠心誠意、今日の埋め合わせをしたのだった…………
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「お館様、アレクサリダー グラールさんをお連れ致しました」
「アレクサリダー グラールです。失礼します」
「ああ、まあ、掛けてくれ」
そう言って、向かいのソファーを示す。
アレクサリダー グラール、壮年のダンディなイケメンだ。
名前が微妙に王様に向いている様な、いない様な雰囲気だが、現在の仕事振りも元々の魔導具店での評判も悪く無い。
猫の獣人種族と狐の獣人種族の2人の妻を持ち、2人の娘を持つ。
未成年の娘1人を除いて、妻2人と娘1人も現在はクルス商会で働いている。
この3人の評判も良い。
「アレクサリダー。
先ず、今日呼んだ件には関係無いオレの個人的な疑問なんだが、キミは転生者なのか?」
「!!はい、厳密には違いますが、その様なモノです」
「そうか、転生してから死んで、もう一度記憶があったのか?」
「!!はい、そうです!!
私は転生して、恐らくこの世界でスライムになったのですが、現実は厳しく、新人冒険者の訓練で殺されてしまったのです。
しかし、気が付くと皇帝の息子として生きておりました。
記憶は10代半ば位から徐々に戻ってきました」
「そうか、元居たのは日本なのか?」
「はい、会長も転生者なのですか?」
「オレは、転移者だ。
因みに、日本で死んだ年とこっちに来た年は分かるか?」
「日本で死んだのは、2017年です。
スライムだった時は分かりませんが、私は現在107歳です」
「そうか…………。ありがとう。
じゃあ、此処からは確認だ。
キミはケモナーで、皇帝になってケモミミハーレムを作ろうと思ったが、周りから反対されて諦めて、旧キルス王国に行って普通にケモミミ家庭を作った、と、いう認識で合ってるか?」
「はい、概ね合っています」
「概ね?違いの部分を教えて貰えるか?」
「ケモミミハーレム自体は皇子のままでも実現は可能だったのですが、奴隷としてしか認められなかったのです。
なので、“人種族至上主義”を撤廃させて、キチンと妻として迎えられる様にしたかったのですが、そこで反対され、帝位争いを起こそうとしたのです。
しかし、賛同者を得られませんでした…………
仕方なく、帝位を返上して国を出たのです」
「なるほど、キミのケモミミ愛は純愛だと言う事だな?」
「仰る通りです」
「しかし、純愛であればケモミミハーレムは作りたい」
「まさに、仰る通りです!!」
「分かった。
キミがキチンと国の統治も行うならば、ケモミミハーレムが作れる様にキミをグラール帝国の皇帝にしよう。
但し、条件が有る。
キミが、オレの直轄の配下になる事だ。
これには審査に通る必要が有る。
そして、もしも、審査に落ちた場合は今日の記憶を消させて貰う」
「私にケモミミハーレムの為に、クルス会長の傀儡の皇帝になれと?」
「そうだ。
だが、勘違いしないで欲しい。
オレは支配が目的じゃ無い。
キミが審査を受けるならば知る事になるだろうが、オレはこの世界を支配する事くらいは簡単に出来るだけの力は有る。
その程度の事で、キミを引き入れる必要は無い。
はっきり言う。
オレは面倒臭いから知らないヤツらの面倒を見たくない。
だから、国の統治をキチンと国民の為に出来る人材に支配者になって貰いたいんだ。
審査はその為だ」
「政治はあくまで国民の為にさせると?」
「ああ、オレが望むのは、この世界の平和と発展だからな」
「…………分かりました。
審査をお受けします」
審査は2時間程掛かった。
アレクサリダーは最近クルス商会で働き出したばかりで、はっきり言ってオレへの忠誠心など全く無い。
なので、先ずはオレの本当の力を知って貰って、その後、オレがどういった考えで、どういった事をして来たかを知って貰い、最後に今回は特別にシロリュウに頼んで、有り難いお話しをして貰って忠誠心を植え付けてから、人間性の審査を行ったのだ。
因みに、エサもちゃんと有る。
オレの直轄の配下は、希望すれば“不老永寿の指輪”が支給される。
人種族、ハーレム願望と来れば、自分がいつまで“元気”で居られるかを考えていない訳は無い。
そうして、戻って来たアレクサリダーは、ソファーには座らず跪いて、絶対の忠誠を誓った。
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昨日、グラール帝国の宣戦布告に対して、宣戦布告をし返した訳だが、今日はちゃんと周年祭の後夜祭をする。
場所は、第1クルス島の大ホール。
もちろん、配下は全員参加の大宴会だ。
念の為、ハルマール王国とビルスレイア女王国、ロンドベレクロ王国には“空中監視魔導具”を置いたままにして、この宴会場で交代で見張っている。
とは云え、恐らく動きは無いだろうと予想はしている。
本来なら、昨日のハルマール王国への攻撃と第1クルス島の攻撃は同時に行う予定だった筈だ。
そして、ハルマール王国と第1クルス島の戦場が激化してから、オオサカ国とトルナ王国がビルスレイア女王国かロンドベレクロ王国へ攻撃する流れだったのだろうと思う。
其れが何方の戦場もあっと言う間に終息してしまっては、今更大きく動いても仕方がないからだ。
宴会も盛り上がって来たところで、ローラス社長から屋台売り上げ1位の発表となった。
去年同様に盛り上げの為に、第5位からの発表だ。
第5位は、研究部所属、昨年の料理選手権決勝まで残った、ゴズンギ率いる、から揚げ専門店だった。
オレも食べたが、確かに複雑な味わいで非常に美味かった。
ただ、どんな食材が使われているかは、鑑定する事は出来なかった。気持ちの問題で……
第4位は、諜報守護部の串肉店。
この、5位と4位は、ハルマールの戦場の映像が流れ出してから酒のつまみとして大いに売り上げを伸ばしてくれた様だ。
第3位は、研究部の魔導書店。
此処は去年と同じく3位だが、去年よりも遥かに高い売り上げとなっていた。
この、魔導書目当ての来場者も多かった様だ。
第2位は、統括部のシロネコ達のぬいぐるみ店だ。
これは、ちゃんと本人達から製作許可を取って、完成品も本人のOKを貰ってから販売していた。
因みに、全て売れてしまった為、2位止まりとなったらしい。
そして、映え有る第1位は、製造部の白刃と黒刃の模造刀店だった。
これは完全なオモチャと訓練用に使える物と有った。
オモチャの方は、ゴムの刃に金属の峰で出来ていて、叩いても少し痛い程度で納刀の音だけはちゃんとする様に設計されていた。
訓練用は、刃を潰しただけの金属製だ。
この模造刀店は朝から非常に売れていた様だが、オレの戦闘が放送された後から更に売れたらしい。
優勝賞品は、昨年同様の晩餐会を希望された。
去年は10人のお母さんだったが、今回は、30人のお父さんだった。
オレがOKすると、30人のお父さん達は全員ヘナヘナと座り込んだ。
娘からのプレッシャーという、お父さん達のダメージは計り知れない…………
これから、5児の父となる身としては、不安に駆られる光景だ…………
翌日は会議だ。
先ずは、周年祭の報告から。
今年の総売り上げは、6兆1,000億エル。
内訳は、2周年記念槍が5兆エル。
これは、なんと、ドルレア王国の国王陛下が落札してくれた!!
因みに、ここまで高額になったのは、ロンドベレクロ王国の国王陛下と競り合ったからだそうだ。
そして、その他、オークションで8,000億エル。
屋台売り上げは去年の5倍くらいになって、2,500億エル。
そして、製造部のバザーが500億エルだった。
製造部のバザーに関しては、税金の徴収も場所代も一切無く、売り上げはそのまま本人達の収入にしているが、情報として売れた商品と金額の報告だけはさせていた。
バザーは2,000店舗程有ったが、今回に限って言えば、クルス商会に入社した事で店舗を畳んだドワーフ達が、自身の店舗に有った商品を叩き売りでゴリゴリ捌いた事で売り上げが高くなった様だが、来年以降も、こう言った不用品処分の場としてバザーは必要そうだ。
ロロルー王国とリリルー王国はクルス商会優遇政策の内容で国内の魔導具の買取は行っていない。
行えば、国が傾く程の金額になるからだ。
ドワーフ達の性分で、売れようが売れまいが、毎日、延々とモノ作りを行っていて、製造を行っていた者達はあり得ない程の在庫を抱えまくっているからだ。
そんな者達は、もちろん、生活が成り立たなくなっており、クルス商会に入社した者が多くいる。
そして、クルス商会で得た給料で、またモノ作りを行って溜め込む…………
その在庫処分的な感じで、バザーは毎年行う事で決定した。
今年のトラブルは、酔った勢いでの喧嘩の仲裁が50件程有っただけだ。
去年よりも遥かに多い来場者数だったので、ここは仕方ないとスルーしようとしたが、1番の原因はオレだと言われてしまった…………
オレがSSSランクのバケモノを一刀両断にした事が、嘘か真実かで揉めた喧嘩が殆どだったそうだ……
なんか、ゴメン…………
続いて、ロンドベレクロ王国、ロロルー王国、リリルー王国のクルス商会の進捗状況を聞いて、最後はグラール帝国への侵攻会議だ。
「先ずは紹介しよう。
彼は、アレクサリダー グラールだ。
ロンドベレクロ支店の従業員だったが、グラール皇家の第5皇子だったので、今回の作戦で皇帝になって貰うべく、オレの直轄にした。
当面は、各王家への対応が多い、ダルグニヤンの下に付いて貰う」
「アレクサリダー グラールです。
宜しくお願いします」
「じゃあ、シエラールル。
情報共有を頼む」
「はい、今回の目標は皇帝及び帝位継承権の有る者28人と、その取り巻き733人の処刑です。
512人は帝都在住中ですが、249人は帝国内の各地に散っており、1番の問題はその人物達の発見であろうと思われます。
既に、お館様を恐れ身を隠し始めている者もおり、中には他国へ身を寄せようとしている者もおります。
続いて、帝都の防衛ですが250万人程が帝都グラールに集まっている模様です。
帝都近隣の都市から集められた兵と共に冒険者も多数参加している様です。
街の住民に対しては一切の説明もなされておらず。
物々しい雰囲気ながらも住民達は普通に生活をしている様です」
「と、言う事だ。
なので、今回は帝国民に先ずは皇帝家に対して悪感情を強く抱いて貰ってから、中枢を落とし、順次地方にいる者や逃げた者を処理して行く必要が有る。
なので、15の主要都市に先日のバケモノの映像を流し、その後、アレクサリダーに演説をして貰ってから、帝国を含む主要都市にいる目標の合計761人を見つけ次第処刑。
その後、それ以外の都市、逃げている者の追撃を行う。
皇帝のところには、アレクサリダーとクリシュナを連れてオレが行く。
全体の指揮はシエラールルに任せる。
今回は、妻達とシロネコ達は基本待機だが、増援が必要な場合はシエラールルの判断で投入してくれ。
各国への対応が必要だった時の為に、セバスとダルグニヤンもシエラールルに付いて置いてくれ。
後の人員の配置を決めて行こう」
そうして、各地点毎の配置を決めて行った。
明日は、勤務の時間調整をして決行は明後日に決定した…………




