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第18章 グラール帝国③

グラール帝国③





▪️▪️▪️▪️




聖樹暦20,021年5月14日



帝都グラールに日が登り切ったのと同時に、巨大な映像が上空に映し出された。


オレとバケモノ2体による戦闘の映像だ。


“空中監視魔導具”は、100個のカメラを駆使して、あらゆる角度から、拡大、望遠迄、様々な映像を残していたので、昨日頑張って良い感じにオレ自身で編集したのだ。


お陰で同じシーンだが色んな方向や角度で、飽きの来ない繰り返し映像に仕上がったと思う。



3回目のアングル違いの映像が流れる頃には、大量の帝都民が空に浮かぶ映像を見上げていたのでアレクサリダーの出番だ。


「帝都民よ、私は元グラール帝国第5皇子 アレクサリダー グラールだ。


覚えている者もいるだろう。


70年前“人種族至上主義”と“奴隷制度”の撤廃を訴え、獣人種族愛好家の変態だと言われ、皇族の恥晒しだと罵られた、あの、アレクサリダーだ。


今、帝都上空に流れている映像は、先日、愚かなグラール帝国の支配者供が聖戦と称してハルマール王国への侵略戦争を仕掛け返り討ちに有った戦場の1つだ。


あのバケモノは、映像の中でクルス商会のクルス会長が仰られている様に、昨年滅んだキルス王国が行っていた実験で生まれたバケモノだ。


信じられるだろうか?アレは火竜だ。

特殊な魔導具を取り付けられ、延々と大量の人間を喰わせ続けた火竜なのだ。



帝国民ならば、一度は考えた事があるのでは無いだろうか?


自分達、庶民は皇族や貴族の道具だと。


しかし、それは違ったのだ。

皇族や貴族達にとっては、庶民は道具ですら無かった。


家畜だ!!


乳牛や鶏と変わらない!!


働けるだけ、働かせて、使えなくなれば、バケモノのエサになる為に飼われていたのだ!!


私は、この様な悍ましいバケモノを飼育する帝国を滅ぼそうと言うクルス会長に賛同し、再度、この国から“人種族至上主義”と“奴隷制度”の撤廃を目指す!!


この国の国民が搾取され、エサにされる事を良しとする現在の為政者達を根絶する!!」


アレクサリダーの言葉を聞いても、帝国民達は半信半疑の者が殆どの様だ。


しかし、


「だから、アイツは死体すら、帰って来なかったのか!!

エサにされてたんだ!!」


「あの家族は夜逃げしたんじゃ無かったんだわ!!

バケモノのエサにされたのよ!!」


「あの程度の事でアイツが奴隷にされるなんて、おかしいと思ってたんだ!!

エサにする為だったのか!!」


と、街中のあちこちから声が上がる。それに伴い、


「そうか、アイツも本当は…………」


「彼は、死んだんじゃ無くて、食べられた?」


などなど、段々と疑念の声と民衆の怒りのボルテージが上がって行く。


まあ、最初の煽りは仕込みで、適当な事をウチの連中が言っていただけだが、徐々に自分の周りの疑念を膨らませて行ってくれた様だ。




ここまで、騒ぎになれば頃合いかなっと思ったところで声が響いた…………


「愛しき我が子孫達よ、騙されてはいけない…………」


「こ、この声…………」


「クリシュナ、どうした?」


クリシュナが震え出したので、グッと抱き寄せる。

その表情は完全に青褪めていて、怯えと共に信じられないと云う思いが強く出ていた。



「我は、初代皇帝 インドラ グラールである。


”原初のモノ”の1人、天帝 シャクラ インドラ、全ての人種族の祖である。


我が名を持って証言しよう。

あの魔獣のエサになったのは人では無い。


亜人だ。


正しき目を持って良く見ると良い…………

あの魔獣の悍ましい姿を、亜人を喰らい、亜人をその背から生やした姿を…………


人とは、我が血を引く者のみ、魔族も獣人種族もエルフもドワーフも、そして、その血が混じった紛い物も、人では無い…………


騙されてはいけない…………


怪しげな、魔族の商人などに騙されてはいけない…………」



虫唾が走る…………


天使キャラ専門の声優の様なエンジェルボイス…………

聞いているだけで癒される様な声で、なんて傲慢で、自己中な事を言うのか…………



コイツが、クリシュナを泣かせた、“人種族の原初のモノ”か…………


世界に発表するのに、クリシュナが当事者として居る方が良いと思ったが、連れて来たのは失敗だったか?

いや…………


「クリシュナ…………」


「ゴメンなさい。もう、大丈夫だから…………」


「いや、そうじゃない」


「え?」


「おまえ、何でこんな気持ち悪い男に惚れたんだ?」


「ゔ!!そ、その……顔が、カッコ良くて…………」


「こりゃぁ、今夜はお仕置きだな」


「え?!な、なんで?」


「そりゃぁ、旦那の前で、元彼をカッコいいとか言ったからさ」


「でも、それは、レンジさんが聞いたからで…………」


「そうか……?

じゃあ、オレが悪いみたいだから、お仕置きは無しだな」


「え?!無しなの?」


「だって、クリシュナは悪くないんだろ?」


「…………元彼をカッコいいって言った、私が悪いです。

お仕置きして下さい…………」


「じゃあ、今夜は、元彼の記憶が無くなる迄、しっかりと反省させてあげよう。


それにしても、人種族の“原初のモノ”は、とっくに死んでるんだと思ってたが生きてたんだな…………」


「私もそう思ってた。

幾ら“原初のモノ”でも、人種族は寿命が長く無いから…………」


「私も帝城に住んでいましたが初代様を見た事は一度もありませんし、生きていらっしゃると聞いた事もありません」


「うぅ〜〜ん……。

でも、何となく、ホンモノっぽい気がするんだよなぁ〜…………。

…………天使種族達の、冷凍睡眠装置とか?」


「それは、可能性は有るかもしれないけど、何で、そんな事して迄、生きてるんだろう?

眠ったまま、生き続けても何にもならないと思うんだけど…………」


「まあ、本人に聞いてみよう。


リンドレージェ、ちょっと予定とは違うが、皇帝一家虐殺のライブ中継と行こう。

全員、行動開始させてくれ」


「畏まりました」


「…………レンジさん、言い方…………」





▪️▪️▪️▪️





「ようこそ、嘘つき商人君。

それに、随分と久しぶりだな、クリシュナ」


謁見の間の玉座に、イケメンだが、チャラっチャラの男が座っている。

ナルシストと自己中を足して、2を掛けた様な、どうしようも無い感じの男だ。


そして、“鑑定”で見えたヤツのスキルでオレは決定的な事実に気付いた!!



「あっはっは…………

インドラ君だっけ?おまえさ、何カッコ付けてんだ?

オレは気付いてしまったぞ?」


「なにぃ?」


不機嫌な感情、そのままに顔を歪めるインドラ君に指を2本立てて見せる。


「先ず1つ、レベル1,000万の魔獣を一撃で倒したオレを前にしても、レベル800万程度のおまえが余裕ぶっているのは、その“スキル スキル強奪”と“スキル 超速再生”が有るからだろ?


そして、おまえが未だに生きているのは、冷凍睡眠装置で眠り続けて永遠の命が手に入るスキルを持つヤツが現れるのを待っているからだろ?」


「…………だから、なんだ?」


「良い事を教えてやろう。

オレの持つスキルは、永遠の命を手に入れる事が出来るぞ」


「!!なんだと!!」


「まあ、そう、がっつくな。

もう1つの事も話させろ。


もう1つの鍵は、おまえの“スキル 身体部位巨大化”だ。


おまえさ、さっき、あれだけ人種族以外は人間じゃない、みたいな事言ってたが、昔、クリシュナと付き合ってただろ?ハイエルフのクリシュナと。


それで、クリシュナのエルフ種族特有の身体的な特徴を知って、振っただろ?



何で、こんなに可愛いクリシュナを振ったのか…………


おまえ、見ちゃったんだろ?クリシュナの“アレ”を…………

自分のよりも大きい、“アレ”を見ちゃったから、振ったんだろ?


自分のが粗末だったから、振ったんだろ?

自分のが小さいから、振ったんだろ?


だから、さっきの“スキル スキル強奪”で、あんまり使い道の無い“スキル 身体部位巨大化”なんて、スキルを奪ったんだろ?


安心しろ、小さなインドラ君。

クリシュナはちゃんと、クリシュナよりも大きいオレが貰って幸せにしてやってるから。


もちろん、スキルを使わなくてもオレが勝ってるから安心してくれ、小さなインドラ君」


「!!!!殺す!!ぶっ殺してやる!!」


「おいおい、ホントの事だからって、そんなに怒るなよ。


見てみろ、このクリシュナのドン引きの表情を。

ついでに、笑うのを必死で我慢してる、おまえの自慢の子孫達の顔を」


「!!貴様ら!!」


小さなインドラ君は、1番近くに居た現在の皇帝を殴り飛ばす。


小さくても、“原初のモノ”、レベル800万だ。

皇帝は原型も残さずグチャグチャになって、壁に血と肉片となってへばり付いていた。


「おいおい、何で我慢してた、皇帝を殺すんだよ。

あっちの2人は笑ってたんだぞ?」


そう言って、第1皇子と第2皇子を指差す。


「なにぃ!!」


必死に首を振る2人を短気なインドラ君は、またも殴り飛ばして肉片にした。


「あ、お前達!!ちゃんと我慢しろよ、殺されちゃうぞ?」


「もういい!!全員、死ねぇ〜〜!!」


叫びと共に、部屋中に雷が荒れ狂う!!


オレは、オレ達だけで無く別の部屋にも影響が無い様に、結界を張ってから“スキル 創造”で“スキル スキル強奪”の指輪を作る。


雷が収まった瞬間に、インドラの後頭部を鷲掴みにして“スキル スキル強奪”で“スキル スキル強奪”を奪う。

そして、何事も無かったかの様に元の位置に戻る。


「貴様、今、何をした?!」


「まあ、落ち着けよ。

まだ確認したい事があるんだ。


お前が“スキル 超速再生”と冷凍睡眠装置を奪った相手は、どうしたんだ?」


「なんだ?あの妙な獣人種族のガキがどうしたと言うのだ?!

もちろん、殺したに決まっているだろう」


「…………そうか……

もう1つ、教えろ。

お前は何で、“人種族至上主義”なんて始めたんだ?」


「……貴様は、異世界から来た者に会った事はないのか?」


「?いいや、オレ自身が異世界転移者だ」


「ならば、分かるだろう。

この世界以外の世界には、“人種族”しか存在しない!!


他の世界では、“人種族”が生物の頂点なのだ!!

ならば、この世界もそう有るべきだ!!


人種族が全ての生物を支配し、全ての生物の頂点に立つ事こそが正しい世界の姿なのだ!!」


「はぁ〜〜…………

何で、こう、種族主義者ってのは、こんなにアホで、しょうもない理由しか持ち合わせていないんだろう…………」


「なんだと?!

貴様は異世界から来たのだろうが、何故理解出来んのだ!!」


「あのなぁ〜、人ってのは、みんな違うから良いんだよ。


色んな人が居て、色んな考えが有るから面白いんだ。

新しい発見が有るんだよ。


お前みたいにさ、自分の奥さんも自分と同じ顔で同じ性格で同じ事をするのが理想ってヤツは、極々一部の異常なナルシストだけなんだよ。


世界中の人間が、全員自分と全く同じ世界が最も理想的な世界だって思ってるヤツ何て、世界にお前と、もう1人居るか居ないか程度の少なさなんだよ」


「な、なんだとぉ〜〜!!」


「まあ、良い。


オレは今からお前を殺すが、別にお前が手の施し様の無いナルシストだからじゃ無い。


お前がオレの愛するクリシュナを傷つけたからだ。

お前が、どうしようも無い小物な所為で、クリシュナは深く傷ついた。


オレは、オレの愛する家族や配下達を傷つけた者には容赦しないと決めてるんでな」


「黙れ!!先に、オレのプライドを傷つけたのは、その亜人だぁ〜〜!!」


叫びながら殴り掛かって来るインドラにクロスカウンターで返して、吹き飛ばす!!


美しい声で、

「ぐぎょ!!」

と、言って、インドラは壁の結界にぶつかって血と肉片になった。


「どうする、クリシュナ。

今なら、身体だけ“神聖属性魔法”で、元に戻して股間の確認も出来るけど?」


「いい!!見たくない!!」


「そうか。リンドレージェ、他の状況は?」


「はい、継承権所有者は終了。それ以外が残り80程です」


「なら、いいか。

えぇ〜、グラール帝国の皆さんこんにちは、オレはクルス商会会長のクルスです。


先程、皆さんが見ていた様に、現皇帝も初代皇帝も帝位継承権の上位者達もみんな死にました。

そして、“人種族至上主義”が如何にくだらないモノか分かったと思います。


それでも、“人種族至上主義”を捨てられない人には、オレから全ての生物が自分と全く同じ姿に見える、一生外せない魔導具をプレゼントします。


それと、あの股間の粗末なナルシストの行動を見れば分かる様に、ちゃんと人種族もバケモノのエサにされて居たという情報も、ここに居る新たな皇帝が開示してくれるでしょう。


オレとしては、今後、この世界で2度と“亜人”などと言う言葉が使われる事がない様に願っています」


そう言って、笑顔を向けると上空の映像を切る様にリンドレージェに手で指示した。



「じゃあ、ついでに、帝城探索でもして帰ろう」



その後、オレの能力をフル活用して徹底的に隠し通路や隠し部屋を探しまくったのだった…………






▪️▪️▪️▪️




2週間が経ち、グラール帝国も新皇帝 アレクサリダー グラールの下、一応動き始めた。


“人種族至上主義”の撤廃、“奴隷制度”の撤廃と奴隷解放、“商業ギルド”の追放と“産業ギルド”への加入、“クルス商会優遇政策”の施行まで、一気に進めた。


幸い、反対する者は1人もおらず、スムーズに進める事が出来た。

反対しそうな連中は、既に殆どこの世にいないのだから、当然だ。


前皇帝家の取り巻き連中で、生き延びているのは5人のみ。

2人はトルナ王国、3人はオオサカ国に逃亡している。


この5人に関しては、敢えて、そのままにしている。

今後の交渉材料に使う可能性を考えてだ。



最も時間が掛かったのは、国の役人を決めて行く事だ。

碌なヤツが居なかった…………



今回、処分された上位貴族の跡取り達はオレが当主を殺した後で財産を根刮ぎ奪ったせいか、完全に金の亡者だった。


それ以外の貴族達は強い者には媚び諂って、弱い者には威張り散らす典型的な小悪党しか居なかった…………


グラール帝国は、本当にどうしようも無い国だったのだ…………



仕方がないので、全ての貴族は取り潰して、新たに国内で優秀な者を集めている。

それまでの間は、当面、オレの配下が国の運営を行っている。


唯一の救いは、資金は潤沢だと言う事だ。

殺した貴族連中の金は、別にオレの懐に入れた訳では無い。


もちろん、面白そうなモノは、頂戴したが単純に金や美術品なんかは帝国の宝物庫に放り込んだ。

これから、まともな国にして行くには金が掛かる。


動き出したとはいえ、帝国がキチンと機能するにはまだまだ時間が掛かりそうだ。



5月も残すところ4日、毎月恒例の喧嘩祭りをしたら、もう6月だ…………








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