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第14章 進化する魔獣⑤

進化する魔獣⑤





▪️▪️▪️▪️





翌朝、朝食を取って、いざ出陣!!

今回は、25ヶ所の同時攻撃だ。


人員の割り振りは、先ず、奴隷解放部隊が、3人のメイド部隊の指揮官の下に、第1部隊と第3部隊で編成された6人づつの3チーム、計21人を7ヶ所の各奴隷監禁施設に1組づつ向かわせる。


次に、第1部隊の副隊長率いる、第1部隊、第3部隊、メイド部隊の混成6人編成、6チームの計37人が人体実験施設襲撃部隊だ。


6ヶ所の内、5ヶ所はこの編成で、1ヶ所、国王の保養地に有る施設のみ、ブランドを追加している。

ここだけ、警備のレベルが違った。

聖剣の有る確率の最も高い施設だからだ。



2ヶ所の魔獣確保施設は、ゼグドロとドゥリアが率いる、第1部隊とメイド部隊21人づつ。

ここは基本、人と魔獣を狩るだけだ。


しかし、万が一、高ランクの魔獣が居た場合に備えて、最高幹部を含む布陣だ。


危険度は高く無いと思われる5ヶ所の魔獣実験施設にも、念の為、最高幹部を指揮官に置き、第1部隊、第3部隊、メイド部隊の混成6人編成、6チームの計37人の部隊を投入し、危険度の高いと思われるもう5ヶ所には、オレと妻達とシロネコ達が追加で加わる。


第1王子の別邸近隣には、セバスの指揮下にルナルーレとクロクジラ。

第3王子の別邸近隣には、ダルグニヤンの指揮下にリムとクロリュウ。

第4王子の別邸近隣には、キスラエラを指揮官、シエラールルを補佐に付け、シロクラゲが同行。

第2王子の別邸近隣には、リンドレージェを指揮官に、クリシュナとシロネコとミケネコ。

そして、国王の保養地に、セスラーナに指揮を取らせ、オレとシロリュウ、セレンとセリンだ。


全体の指揮はシェーラが担当し、予備部隊として、第1部隊、第3部隊の隊長と直下の部下は待機だ。



因みに、ラムは、心配症な旦那の所為で、お留守番だ。

勿論、同じく身重のサーニヤやシャンシェなんかもお留守番をしている。



全員が予定の配置に付き、シェーラの、「では、開始します」と、言う短い合図で、25ヶ所への同時攻撃が始まった…………





▪️▪️▪️▪️





第1王子の別邸方面



「では、開始します」

シェーラさんの作戦開始の合図で、私達は、貴族のお屋敷の様な建物に向かって走り出した。


多分、セバスさんが速度を調整してくれているんだろう。

私はケートー様を抱いて、何とか着いて行く事が出来ていた。


作戦通り、正面玄関と、裏口、2階の西側が同時に爆発、私はセバスさんの後ろに付いて、正面玄関から突入した。



正面の大きな階段の側面の壁を先行していた、メイド部隊の2人が斬り裂き、地下への隠し階段が現れる。


セバスさんは、最初から一切スピードを変える事なく、そのまま地下へ、私もそれに続く。




「グギャーーー!!」「ウヴォーー!!」「ガァァァァ!!」


地下室入り口の封印を解き、中に入った瞬間、けたたましい鳴き声が、無数に響きわたった!!


左右には、さまざまな大きさの檻、檻、檻……

まるで、監獄の様なその空間の奥には、巨大な扉がある…………


檻の中には、繋がれた拘束を引き千切ろうと暴れる魔獣や、いつ死んでもおかしくない程、弱り切った魔獣迄、大小様々な魔獣が入れられている。


地下室の中央で、十字路になった所で、

「ルナルーレ奥様、おそらく正面です。お気をつけ下さいませ」

と、セバスさんからの注意喚起が入る。


地下室に降りた後、私の左右に付いてくれていた、メイド部隊の2人が加速して、正面の大きな扉の一部を斬り裂いて、入り口を作ってくれ、セバスさんも私も今回の目標、“魔獣の生体実験施設”に突入した…………




“異常な光景と、異臭、怨嗟の声の響き渡る世界”


生体実験施設は、この世界の一部とは思えない程の空間だった……

あの時の、レンジ様の言葉を思い出す…………





「可哀想だが、今回は、魔獣は全て殲滅する。

特に助けを求める魔獣は確実に、トドメを刺す様に」


「レンジ様、向かって来る者では無く、助けを求める者をですか?」


「ああ、そうだ。魔獣は他者に助けを求めたりしないだろ?

それは、弱肉強食を本能が理解してるからだ。


でも、今回の魔獣実験施設には、助けを求めて来る魔獣がいるかもしれない。

何故なら、魔獣自身の魂が壊れてしまっていて、“ヒト”が混ざってしまっているからだ。


この国は、他国に比べて、スラムの住人と犯罪者の鉱山奴隷が少な過ぎる。


おそらく、魔獣の実験では無い、通常のエサは“ヒト”だ。

その方が、供給が簡単だからな。


だから、通常とは逆で、助けを求めたり、知性が有る様に見えるモノ程、壊れている。


殺してやるのが、優しさだとは、言わないけど、そんなまま、生きるのも、それはそれで可哀想だからさ…………」





「マ゛マ゛ァァ〜〜!!」 「ダズゲデグデェ〜〜!!」 「シ゛ニ゛タ゛ク゛ナ゛イ゛〜〜!!」 「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!」



今回、ケートー様に一緒に来て頂いた最大の理由。

正面の巨大な檻の中にいる、レベル120万のSSランクの異形を見て、レンジ様の言葉は、やっぱり優しさだと思った…………



「お館様は、やはり、慈悲深いお方でございますな」


そう言って、セバスさんが優しい笑顔を見せてくれる。

セバスさんもきっと、私と同じ事を考えいたのだろう。


私も笑顔で頷き、気持ちを切り替える!!


SSランクの異形は、元々は多分、竜だったんだろう。

でも、今は見る影もない……。


尻尾の先は大きく膨張して、金属の玉の様になり、8本の足は、色も向きもバラバラだ。


腹は縦に割れ、食人植物の様な大きな口が有り、その周りには、様々な魔獣の角が生えていて、身体の側面には、無数の人の腕が、ムカデの様に生えている。


背中には、5枚の翼が大きさも位置もバラバラにあり、そこには、人の顔の様な模様が浮かぶ。

口は竜の物だが、本来、目と角のある位置には、鷹、鷲、梟、鶏の頭が生えていた……


“ヒト”の嘆きや苦しみの様な声は、その4つの鳥の頭が出しているようだ…………



拘束されて、動けない様だが、私もセバスさんもその異形に最大限の注意を払って、他の人達が、この実験施設に入って直ぐの所にあった、建物の様な場所の制圧を終えるのを待つ。



バタンッという音と共に、

「セバスニヤン様、申し訳ありません!!研究者らしき者の内、数名が自殺を!!」

と、言う声……


実験施設の空気が変わった!!

目の前の異形が、殺気を放って拘束していた鎖を引き千切り始めた。


「シェーラ、実験施設の研究者が数名自殺、その後、危険度最高ランクの魔獣が自発的に動き始めた。

何らかの封印及び抑制の解除条件と思われる」


セバスさんが、シェーラさんに報告をしながら、走り出す。


私も臨戦態勢に入る、

「ケートー様、お願いします」

と、言ってケートー様の水球を放し、杖を抜いた。



前以ての作戦通り、異形の足の一本に向け、薄く薄くイメージして、“風属性魔法 ウィンドカッター”を放つ!!


これもレンジ様に教えて貰った技術だ。

斬り裂く魔法は出来るだけ薄くする事で、魔力の消費を少なく、且つ斬れ味が良くなる。


私の魔法と、ほぼ同時に他の魔法使いの人達が、8本の足に次々と魔法を放って行く。


今回の作戦で、大型の魔獣との戦闘は、基本、魔法使いが動きを封じて、近接戦闘をする人が、攻撃手段を封じる。



セバスさんは、腹の口にナイフを投げているみたいだ。

私にはまだ、セバスさんの動きは速すぎて見えないけど、腹の口の辺りが斬れて行っているのは分かる。



メイド部隊の2人は尻尾を第1部隊の2人が、鳥の頭に攻撃を仕掛けていた。


私も“ウィンドカッター”を連続して、足の同じ場所に当て続けてみたが、硬い鱗に遮られて効果が薄い。

別の魔法に切り替え様とした瞬間、異形が動き出した!!


鉄球の様な尻尾を、檻に向かって叩きつける!!



メイド部隊の2人は、直ぐに離れたが、アダマンタイトだと思われる檻が、グチャグチャに折れ曲がった!!


そして、ムカデの様に無数に生えていた、“ヒトの腕”が伸びて、近くにいた人達に掴み掛かる!!


全員が、一旦退避する中、セバスさんだけは、異形の頭上に“転移”して、梟の頭を切り落とした!!


「マ゛マ゛〜〜!!!!」「ダズゲデ〜〜!!!!」


異形の絶叫が響き渡る中、全ての“ヒトの腕”がセバスさんに襲い掛かる!!

セバスさんが、“転移”で距離を取った瞬間、



ドゴン!!!!



凄まじい音と共に、頭部がグチャグチャに潰れた、異形が横たわっていた!!


その上空には、20mくらいになった、ケートー様が浮かんでいる。


私には、全く見えなかったけど、多分、さっき迄、その辺りにいた、ケートー様が、一瞬で、距離を詰めて巨大化して、尾鰭を叩きつけたんだと思う。


レンジ様も言っていた、ケートー様は、普段はとても、のんびりされているけど直線での移動は、ナラシンハ様やシェーシャ様よりも速いらしい。


いつもの大きさに戻ったケートー様をお迎えに行きながら、セバスさんに聞いた。


「セバスさん、セバスさんにはケートー様の動きが見えられましたか?」


「恥ずかしながら、尾鰭を振り下ろされる瞬間しか、見えませんでした。

私もまだまだです」


「でも、ケートー様が、レンジ様との訓練で、接近戦をされる事はありませんよね?」


「おそらくですが、ケートー様は、魔法の方がお得意なのでしょう。

今回の相手は、魔法を使う迄も無かったのではないでしょうか?」







▪️▪️▪️▪️





第3王子の別邸方面



「いや〜〜、ちょ〜っと遅かったっスね〜〜」


「そうみたいですね、シェーシャ様」


シェーラさんから、「研究者の自殺によって、危険度最高ランクの魔獣の封印が解ける可能性有り」と聞いたのと、「研究者が数名自殺しました」と、聞いたのは、ほぼ同時だった。


私達が見つけた魔獣は、多分元は風龍だと思う。


頭は4つ。全部風龍の頭で、身体中から“ヒトの腕”が生えていて、とっても気持ち悪い。

その気持ち悪いのが、今正に鎖を引き千切ろうと暴れていた。


「どうするっスか?リム奥様。

アレは多分、奥様達じゃまだ無理っスよ?」


「それは、ダルグニヤンさんの判断にお任せします。

どうしますか?ダルグニヤンさん」


「そうですね、念の為、今後に備えて情報が欲しいので、先ずは我らで戦闘を行います。

シェーシャ様ですと、一瞬で終わってしまいそうですので。


シェーシャ様は、万が一に備えて、リム様のお側にいて頂けますでしょうか」


「分かったっス。

じゃあ、リム奥様、殺りに行くっスか!!」


「はい、行きましょう」


鎖を引き千切って、檻を噛み砕いている、気持ち悪い龍に向かって私達は駆け出した!!


龍の攻撃手段は基本、ブレスと魔法。

私達、接近戦班は、それぞれ4つの龍の顔に向かって攻撃する。


私もお父様直伝の“クルス流槍術1 6段突き”、“クルス流槍術2 水槍連”、“クルス流槍術2 円十字”と、1番弱いだろう目を狙って続けて放つ!!


他の人達も目や髭を狙って攻撃をし、それを嫌がって、気持ち悪い龍が、暴れ回りながら、


「イタイ!!ヤメテ!!」

と、お腹に響く様な低い声を上げる!!


お父様の言っていた通りだと思う。


このレベルの龍なら、今の私達の攻撃なんて、煩わしいだけで、痛みなんて感じる訳ない。

なのに、「イタイ」と、言った。


きっと、人間の感覚で、目を攻撃されて、思わず言ってしまったんだ。

見た目は気持ち悪いだけの存在だけど、ちょっと可哀想だと思う…………



頭の一つが上に距離を取って見下ろして来る、ブレスだ!!


念の為、全力で離れた直後、広範囲の風のブレスが吹き荒れた!!


私が攻撃していた頭は、そのブレスで、斬り刻まれて、辺りに血を撒き散らした。

すると、別の頭が、ブレスを吐いた頭に噛み付いた。


全員が一旦、距離を取って見守る中、頭同士が食い付き合う。

そこに、残り1つの頭がブレスを喰らわせ、4つあった頭は、1つだけになった…………


「あれも一種の自己嫌悪っスかね〜?」


「どうでしょう?

単に仲の悪い4人だっただけかも?」


「!!アレはマズいっスね!!

ダルグニヤン、殺っちゃうっスよ!!」


「ええ、お願い致します」


気持ち悪い龍が、戸愚呂を巻きながら上昇して光出すと、シェーシャ様が飛び出して行った!!


気持ち悪い龍が、雷を帯びた風のブレスを放つと、シェーシャ様も大きくなって、漆黒のブレスで撃ち返す!!


一切の拮抗も無く、シェーシャ様のブレスが気持ち悪い龍のブレス諸共、頭も天井も撃ち抜いた。

天井の穴から空が見える…………


「…………ちょ〜っとやり過ぎちゃったっスかねぇ〜……」


「いいえ、私がシェーシャ様にギリギリ迄、お待ち頂いたせいですのでシェーシャ様の落ち度では御座いません」


ダルグニヤンさんのフォローに、シェーシャ様が、ホッと胸を撫で下ろしていたので、


「でも、シェーシャ様。

お父様がこの事を知ったら、きっと威力や範囲の調整の猛特訓になるのではありませんか?」


と、ちょっと意地悪を笑顔で言うと、


「!!リム奥様、助けて欲しいっス!!


特訓は嫌じゃないっスけど、ボスの猛特訓になったら、針の穴に糸を通す様な訓練を何百時間も延々とさせられちゃうっス!!


リム奥様からボスに、今のはしょうが無かった感じに言って欲しいっス!!」


「シェーシャ様、もちろん私はいつだってシェーシャ様の味方です。

でも、今回は任務中の事ですし、それをお父様に口利きをするとなると…………」


「また、リム奥様の欲しい食材を狩って来るっスから、お願いするっス!!」


そう言って、シェーシャ様は、手を合わせて頭を下げた。




私は、ルナルーレさんやキスラエラさんに追い付ける様に、普段の食事の準備を手伝う様にしている。

でも、それだけでは、お父様に喜んで貰える訳じゃない!!


なので、時々、シェーシャ様のイタズラや失敗を隠してあげる代わりに、料理の本で見つけた、ちょっと変わった食材や幻の食材なんかを取って来て貰ったり、一緒に取りに行ったりしているのだ。


お父様は、何でも美味しそうに食べてくれるけど、頑張って作った料理を褒めて貰えた時は格別に嬉しい!!



「…………そうですね、私とシェーシャ様の仲です。

今度、一部の深海にしか住んでいない、幻の深海魚を取って来てくれるという事で……」


「うげぇ〜〜……。また、海の底っスかぁ〜〜……」


「いいえ、無理にとは言わないです。

今回の事はありのままをお父様に…………」


「自分、深海魚を取って来るっス!!

いくらでも取って来るっス!!」


「では、シェーシャ様の心使いに、私も応えないといけませんね」


私達が、そんな話しをしている間に、制圧も魔獣の処理も終わったみたいだった。









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