第14章 進化する魔獣①
進化する魔獣①
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アカリュウの手術は、結構大変だった。
麻酔の代わりに、新魔法“呪属性魔法 手術用麻酔”を考案。
この魔法は、気絶、痛覚遮断、出血停止、の効果の魔法だ。
こちらは直ぐに出来た。
問題は手術室だ。
滅菌室を作りたかったのだが、この世界の細菌がどこまでやれば、殺せるのかが、分からない。
そもそも、長時間熱する位しか、殺菌方法も分からない。
悩んでいたオレに天の声をくれたのは、ルナルーレだった。
「そもそも、手術の後に病気にならなければ良いのですから、手術後の回復と一緒に、病気になっていても、なっていなくても治せば良いのでは?」
青天の霹靂だった!!
手術は綺麗な部屋でしなくてはならないという固定概念で、ついつい難しく考えてしまっていた。
そうと、決まれば、やるのは直ぐだ。
どうせ治せば良いのだからと、遠慮なくザクザク切って、ズバズバ魔導具を取り出した。
医学もへったくれも無い。
生きてさえいれば、治すのは一瞬の事だ。
こうして、アカリュウは無事に手術を終えた。
手術を終えて、「もう大丈夫だから」と、与えた食事を泣きながら食べる姿に、この実験を行ったヤツらに怒りが込み上げて来る。
絶対に壊滅させてやろうと思った。
アカリュウの今後について、本人に希望を聞いてみた。
アカリュウは、年齢やレベルからすれば大きい身体だが、普通に暮せない程のサイズでは無い。
別にオレの契約魔獣として、生きなくても特に問題が無いからだ。
「僕もアナンタ様達と同じ様に、このまま、主様のペットになりたいです!!」
と、言う回答だった……。
絶対にシロリュウに洗脳されている…………
本人が望むので、ウチで飼う事にした。
因みに、アカリュウは実はメスで、僕っ娘属性だったから飼う事にした訳では無い。
断じて無い!!
そんなこんなで、家族が1人増えて、4日後、オレ達は、ちょっと予定の順番を変更して、東中央大陸の最も東にある国、キルス王国に来ていた…………
本来の予定では、トルナ王国の後は、キルス王国の西側にある、ルールナ都市国家連合を周ってから、キルス王国に行く予定だったが、アカリュウの記憶的に、研究施設がある可能性はキルス王国が最も怪しい。
別にオレは正義の味方では無いが、アカリュウにしていた実験は、オレの嫌いな部類だから、最悪、国の1つ2つ無くなっても、実験施設には消えて貰って、首謀者達にも消えて貰う所存だ。
トルナ王国とキルス王国の国境を越えた最初の街、スンノースの街。
この街はトルナ王国との貿易拠点として、そこそこ栄えている。
街の郊外には、トルナ王国のワイバーン達の為の発着場も広く設けられ、キルス王国の中央に向かう馬車も多く見られた。
オレ達は新婚旅行中なので、もちろん観光がメインだが、一緒にアカリュウを連れて回る事で、注目を集めるのと、ついでに、Sランク商会であるクルス商会の会長が、変わった魔獣を集めているらしいとの情報も撒いて行く。
此処、キルス王国の在る東中央大陸には、まだクルス商会は出店していない為、知名度は全く無いが、Sランク商会はクルス商会を含めて、世界に8つしか無い。
クルス商会は知らなくても、Sランク商会の会長となれば、とんでもない超金持ちだとは分かる。
これを利用して、研究施設から逃げた魔獣なんかが居れば、情報や実物が手に入る可能性もある。
そして、アカリュウを見た研究施設側の人間が接触して来る事もあり得る。
一応はそういった対応も取りつつ、観光は観光でしっかりと楽しんだ。
今はまだ9月でそこまででは無いが、この辺りは、非常に寒い地域なので、ライ麦が多く栽培されており、こちらの世界に来てから初めてのライ麦パンを食べて、トナカイのソーセージや肉料理を食べた。
トナカイ料理は結構、美味しかったので、明日はちょっと、狩りに行く事にした。
買っても良かったが、森の奥の方には、スーパーウルトラグレートレインダーや、アルティメットレインダーがいるらしいとの情報があったので、どうせなら、もっと美味しくて新鮮な方がいいだろうと思ったのだ。
その日の夕食時、ダルグニヤンから報告が入った。
「お館様、ドルレア王国とハルマール王国の休戦協定が締結致しました」
「そうか、思ったより時間が掛かったな」
「それについては、国家間の問題では無く、国内で完全な不干渉にするか、一部国交を持つかで、お互いに議論に時間が掛かった様です」
「なるほどな。で、結局はどうなったんだ?」
「はい、国境に最も近い、ドルレア王国側のダンジンスの街とハルマール王国側のガルンの街までを特区として、交易を行う事で決定致しました」
「なら、少しの間、荒れるかもしれないな。
両支店の者達には、通常よりも警戒を高くする様に伝えてくれ。
必要であれば、第1部隊への人員追加の要望も出す様にさせろ」
「は!!お館様、前以て、近隣の野盗やゴロツキの排除を行いますか?」
「いいや、そこは国任せでいい。
クルス商会に手を出した者だけを徹底的に潰す様に」
「畏まりました」
ダルグニヤンの報告が終わると、今度はラムがスッと立ち上がった。
立ち上がったラムに、最強合法ロリの一角、サーニヤがそっと寄り添う。
「あなた。私からもご報告がありますわ」
真剣な表情のラムに、何となく察したが、オレも立ち上がって強く頷く。
「あなたの御子を身籠りましたわ!!」
満面の笑顔で、ラムがそう言うと、ワッと歓声が上がる。
オレは、逸る気持ちを落ち着かせ、ゆっくりとラムに近づいて抱き寄せ、
「ありがとう」
と、一言だけ言って、キスをした。
オレが、「じゃあ……」と、言いかけた所で、
「あなた。少々、お待ち下さい。私だけではありませんの」
と、ラムから待ったが掛かり、ラムはサーニヤを見る。
「お館様、私もお館様の御子を授かりました」
と、俯き気味にサーニヤが言った。
ラムが身重だと知って、側に控えたモノとばかり思っていたオレは、一瞬、固まってしまった。
自分の普段の行いを棚に上げて、僅かにでも、サーニヤの見た目での妊娠に疑問を持ってしまった事を反省した。
オレはサーニヤの正面に行き、膝を付いて抱き締め、
「サーニヤも、ありがとう」
と、言ってキスをした。
ラムとサーニヤを抱き寄せて、
「じゃあ、明日の狩りの後は、みんなでトナカイパーティーにしよう!!」
と、オレが言うと、全員が拍手で、ラムとサーニヤの妊娠を祝福してくれた…………
翌日の狩りはオレも参加した。
もちろん、ラムとサーニヤに美味しいトナカイを食べさせて上げる為だ。
ラムにとっては、5人目だが、オレにとっては前の世界を含めても人生で初めての子供だ。
サーニヤも初めてらしい。
ちょっと、ほんのちょっとテンションが上がり過ぎてしまったオレは、アルティメットレインダーを狩りまくった。
トナカイの“原初のモノ”が、思わず止めに来るくらい、狩りまくった。
オレが、「コイツはもっと美味いかな?」と言うと、クリシュナに全力で止められた。
さすがに、そんな理由で“原初のモノ”を狩るのはやめてあげて欲しいと、涙目で訴えて来たので、やめてあげた。
そんな訳で、大量のトナカイ肉で、トナカイパーティーだ。
わざわざ、オレの直轄の配下全員が、入れ替わり立ち替わり来てくれた。
現在、オレの直轄の配下は、1,500人程だが、アルティメットレインダーは、ビル程の魔獣だ。
正直言って、1匹で十分だった…………
しかし!!無駄にはならない!!
我が優秀な第2部隊の部下は、大量のトナカイ肉を、唯一肉の販売をしているサーラール本店でゴリゴリ売りまくった。
曰く、『クルス会長が懐妊した、ラム奥様の為に、自ら狩って来た、アルティメットレインダーの肉!!期間限定!!無くなり次第終了!!』だ、そうだ…………
サーラールの街だけで無く、王都からも買いに来る者がいるほどの人気で、巷では、「クルス会長が元気な子供が産まれる様にわざわざ狩りに行った」とか、「この肉を食べたら子宝に恵まれる」とか色々言われて、大儲けだそうだ…………
と、言う様な事がありながら、オレ達の新婚旅行は徐々に、キルス王国を南下して行ったのだった。




