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第13章 北海の島③

北海の島③





▪️▪️▪️▪️





ダンジョン攻略から帰った翌朝、一緒に帰って来たキングA達は普通にいた。


朝になったら消えて、夜になったらまた現れると思っていたので、そこについても聞いてみると、夜にしか現れないのは、ダンジョンの効果だった様で、昼間は“ディファレントスペース”の様な異空間にいただけで消えていた訳ではないとの事だった。



西の魔王と南の魔王に密会の要望の手紙を持って行かせて、ダンジョンの入り口を塞ぐ様に、キングA達用の中世っぽい城を建てた。

この“第1クルス島”の警備詰所だ。



第1部隊に島の資源や植物の情報収集を任せて、空いている幹部を集め、“第1クルス島”とダンジョンの活用方法の会議を行った。


協議の結果、現在、我が家の地下にある、魔力電池と装備品の製造ラインをダンジョンに移動する事にした。


それに伴って、第3部隊のミミッサス村に住む者達には、この島に住居を作って引っ越して貰い、家族がいる為に、ミミッサス村に住む事が出来なかった、ビルスレイア女王国からの通勤組も希望者は住める様にした。


こちらにも、畑や牧場を作り、家族達にも仕事がある様にし、子供達に限らず、誰でも通える学校も建設する事で、配下の家族もオレの直下で働ける様に学べる環境も作る様にした。

もちろん、孤児院の学校と同じ様に、卒業後は別の仕事に付いても問題ない。



建物は例によってオレ自身が作る事にしたが、街並みの計画はビルスレイア組の幹部に任せ、移住希望者達の要望も取り入れて、家の間取りの設計までを行う様にさせた。



第2部隊には、クルス商店第1クルス島支店の設計を任せる。


通常の店舗と違い、食料品や衣類、生活用品から書籍まで、全ての取扱いが必要になるので、今までの店舗とは全く違うモノになる。


商品に関しては、店舗の担当者が、別の街で仕入れて来て、同額で販売するだけだ。


従業員の給料の分だけ常に赤字になるが、福利厚生の一環だ。

店の運営も管理職以外は、島に住む事になる家族に任せるつもりだ。


一通り決めて、今日の会議を終了すると、西の魔王、南の魔王共に、密会の要望を受けてくれたと報告が来た。





その日のサーラールの街の深夜24時。

クルス商会本部の応接室に、オレとキスラエラとクリシュナ、そして、西の魔王と南の魔王だけが居た。


西の魔王も南の魔王も配下1人すら連れていない。

オレ達以外は、給仕の為に、部屋の隅にシエラールルが1人いるだけだ。

そのシエラールルもお茶を配って出て行った。



「悪いな、急に呼んで」


「おまえが、わざわざ1人で来いっつたんだ。よっぽどの事なんだよな?」


「クルス様、全ての魔王を呼ぶ程の出来事なのですか?」


西の魔王も南の魔王も非常に真剣な表情だ。

3ヵ国に分裂して以来、初めての魔王達の会合だろうが、それ以上の緊張感があった。



「ああ、急を要する訳じゃ無いが、出来るだけ早く共有しておく方がいいと思ってな。

最初に確認なんだが、ギムルスタ陛下は聖剣の事は全て知ってるのか?」


「全てとは?」


「聖剣の効果については、大魔王様が殺された時に報告してるが、それ以降の事は言っちゃいねぇ」


「そうか、まあ、効果を知ってるなら問題ない。

因みに、今、聖剣はオレが封印している」


「!!そうでしたか!!

あの、忌わしい聖剣を封印して下さいましたか!!」


「ああ、だから、それについてはもう、問題無いんだが、新たな問題が出て来た」


そう言って、“ディファレントルーム”に移しておいた、“第3の聖剣”を3本出して見せる。


「「!!!!」」


「オレが新たなダンジョンを発見したのを聞いてるか?

この、“第3の聖剣”はそこで、見つけた」


「つまり、聖剣が他にも存在するっつぅ事か…………」


「ああ、それが1つ目の問題だ」


「1つ目…………。他にも重大な問題があるという事ですな、クルス様」


「ああ、まず、その前にオレが調べたこの世界の歴史を簡単に説明する」


「歴史で御座いますか?」


そう言って、南の魔王がチラッとクリシュナの方を見るが、


「いや、聖樹暦よりも前の歴史だ」


「魔導暦の事か?」


「それもだな、まあ、聞いてくれ。


オレが知る事が出来たのは、今から4万年くらい前の事からだ。

聖剣はその頃に作られた。


聖剣を作ったのは、創造主と呼ばれる“人種族”だ。

そして、聖剣の呪われているかの様な効果だが、これは、当時の技術の為に生まれたモノで、本当に人種族を救う為に作られたらしい。


当時の魔導具の技術で、等価交換の理というモノがあって、これはデメリットを負えば負うほど、高い効果を得られるというモノだ。


そして、聖剣のあそこまでやらないといけなかった理由は、その当時、別の星から“天使種族”と“悪魔種族”という種族が侵略に来ていて、それに対抗する為だったらしい。



2つ目の問題は、この攻めて来たという、“天使種族”の方だ。


こいつらは、人を操る“歌”を歌い、操ってる間に、その洗脳が解けなくなる魔導具を取り付けて、支配下に入れるらしい。


さっき言った“悪魔種族”もそれで操られているそうだ。



とりあえず、当時は人種族が勝ったんだと思われるが、また、攻めて来られたら困るから、その、“天使種族の歌”への対策が必要だって事だ。



で、次の問題は、魔導暦だ。


今から2万7,000年くらい前に魔導神と呼ばれる人物が生まれた。

そこからが、魔導暦だ。


その魔導暦には、“人種族”しか居なかった。


今いる、魔族やエルフ種族、獣人種族なんかは、その魔導神が生み出した種族だったんだ。


そこで、3つ目の問題だ。


今いる全ての種族が元は人種族だったという事は、それよりも前から存在する聖剣は、もしかしたら、どんな種族でも使えるかも知れないって事だ。


オレの方でも対策はするけど、いつ、誰が聖剣を手にするか分からない事と、いつまた、天使種族の侵略が始まるか分からないから、一応伝えておこうと思ったんだ」


「「…………」」


僅かな沈黙。

それを破ったのは、予定通りキスラエラだ。


「我がビルスレイア女王国は、クルス様のお話しを重く考え、聖剣の捜索を行うと共に、音波攻撃及び洗脳解除の対策を研究し、一定の成果が出れば各国に無償で情報提供を行うつもりだ」


「…………なるほどな、要するに、ビルスレイア経由で、対抗策を配ってやるから、疑わずに受け取れって事か?」


「いや、そうじゃない。

出来れば、ドルレア王国でも、ギルナーレ王国でも対抗策を研究して貰いたい。


歌が単純に音波なら、遮断は簡単だ。

だが、歌という方法を取った精神波だったり、魔力での伝波だった場合は別の対策が必要になる。


可能な限り対策を考えておくに越した事はないからな。


それに、いざという時には、全世界へ配布する必要も出てくる。

残念ながら、現状、他国に情報共有をする訳にはいかないからな」


「ハルマール王国や、グラール帝国の人種族至上主義者達で御座いますな」


「そう言う事だ。

そいつらに、今回分かった歴史を教える訳にはいかない。

絶対に増長するからな」


「チッ、やっぱ、休戦じゃなくて、侵略しちまった方が良かったんじゃねぇのか?」


「いや、戦争での解決は最終手段にして欲しい。

出来れば自分達で変わって欲しいが、難しいだろうから、せめて、内乱か国内での革命が望ましい」


「…………おまえ、なんかやってるな?」


「別に、大した事はしてないよ。

ハルマール王国で、クルス商会の敷地内が治外法権になってて、魔族でも働ける様にしてるのは知ってるよな?」


「ああ、おまえのとこから話しは聞いてるし、ウチの方でも観察はしてる」


「じゃあ、既に知ってるんじゃないのか?

今、ハルマール王国内の支店に勤めてるのは、未婚の美男美女を集中して働かせている」


「…………で?」


「それだけだ」


「…………おまえ、そいつらと付き合いたい“人種族”が内乱起こすとでも思ってるのか?」


「ああ、多分な」


「そんな事で内乱が起きてたまるかぁ〜〜!!

それなら、とっくに奴隷に惚れたヤツとかが、内乱を起こしてんだろぉ〜が!!」


「はぁ〜〜……。分かって無いな、お義理兄さん。


奴隷や娼婦なんかは、基本的に自分が助かりたいって望んでるだろ?

だから、惚れた相手はその人の事を助け様とする。


でも、クルス商会の従業員は違う。


別に、生活に全く困ってないし、むしろ、その辺のヤツらよりも良い生活をしてる。

そして、店内の魔導具で、こっちに戻って来れば、自由に出歩ける。


むしろ、困っているのは、惚れてしまった自分達の方だ。


食事やデートに誘う事も、付き合ったり、結婚したりする事も国の法律が邪魔をする。


なら、どうするか。

法律の方をどうにかする以外方法がないだろ?


だって、クルス商会の従業員は、金で買い取る事も、一緒に逃げる必要も無いんだ」


「おお〜〜!!さすが、クルス様!!

その様な方法で改革をお考えとは!!」


「いや、それでも内乱が起こる程の事態になんのか?」


「ちゃんと、従業員達には、お客さんが勘違いして、言い寄られても、『店舗から出れない』って、断れば済むから、出来るだけ気持ち良く買い物をして貰える様に接客しろと言ってある。


別に、国が転覆する程の事態にならなくても、人種族至上主義が無くなればそれで良いから、少し、片想い君達の背中を押してやれば良いだけさ」


「…………おまえ、普通なら、刺されてんぞ」


「大丈夫だ。

刺されそうになったら、先にソイツを殺す」


「…………まぁ、そうだろうけどよ…………。まあいい。


さっきの話しはウチも協力してやるが、聖剣の探索は良いとして、研究ってのは、あんま得意な分野じゃねぇ。


だから、似た様なスキル持ちが居たら、ソイツを研究に協力させる。

もちろん、人体実験とかは認めねぇがな」


「我がギルナーレ王国も、同様の協力をさせて頂きます。

それと、資金援助や減税等が必要な場合はお申し付けください」


「ああ、助かる。

今回は直接来て貰ったけど、今後の情報共有の為に、専任の人員を準備しといてくれ。

簡単に見つかる事は無いだろうが、他国に密会がバレると面倒だからな」



こうして、“対天使種族及び聖剣探索”の3ヵ国の協力体制を得ることが出来たのだった。





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