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第12章 聖剣③

聖剣③




▪️▪️▪️▪️





“聖剣対策”に全員一丸となって、取り組む事になった3日後。


先に、ギルナーレ王国から動きがあった。

“クルス商会優遇政策”の契約の為に来て欲しいとの事だ。


最初から、“クルス商会優遇政策”を行う事が決定してからの訪問依頼だった。

明日の訪問の約束をしてから、早速、ハルマール王国に情報を流す。



その日の夕方に、ハルマール王国からも訪問依頼が来た。


先にハルマール王国に行きたいのは山々だが、ハルマール城訪問は明後日にして、ギルナーレ王国との結果も交渉材料に使う事にした。


ドルレア王国との武力差だけよりも、経済的な圧迫が有る方がより、聖剣に近づける可能性が高いからだ。




翌日、ギルナーレ城の応接室。

オレが入ると、既に南の魔王と前回会った時の2人に加えて文官っぽい2人の計5人が待っていた。


「クルス様、本日はわざわざお越しいただきまして、有難う御座います」


…………南の魔王以下、全員が頭を下げて出迎えて来た…………

一国の王と一商人の関係として、どうかと思う…………


「いえいえ、魔王陛下。

この度は、私の商会にとって有益なお話を頂戴出来るとの事、此方こそ有難う御座います」


そう言って、頭を下げて、キチンと丁寧に“クルス商会優遇政策”について協議していった。


ドルレア王国との内容を踏まえて、ギルナーレ王国にはビルスレイア女王国と同様の内容を進めた。


戦時中のドルレア王国と違い、早急な変革よりも、着実に計画を立てて無理なく進めて行く事を提案した。


南の魔王も含め、同席していた者達の同意も得たので、その内容で契約をする。

もちろん、ただの親切では無い。

ハルマール王国との交渉への布石だ。



「ところで、陛下。

先日は私の義父である、ブランド リカーヅ閣下がご迷惑をお掛けしたとか。申し訳御座いません」


「いえいえ、ブランドのヤツもやり方は別として、良かれと思っての事でしょう。

クルス様が謝られる必要は御座いません」


「寛大なお言葉、感謝致します。


しかし、陛下。

ビルスレイア女王国の宰相閣下のお話しでは、何でも、折角早く到着したにも関わらず、初日を無駄にされたとか?」


「え!!いや、それはですな…………」


「もちろん、状況も伺っております。


が!!以前お話しさせて頂いた様に、この国の民は皆、陛下の背を常に見ております。


たった2人を背負い、ブランド閣下の怒声を浴び、配下の粗相が掛かった程度で陛下が他国のトップの時間を無駄にさせる様な事があってはいけません。


それでは、この国の民達は、その程度の事で他国の者に温情を掛けられ、相手を蔑ろにしても良いと考えるでしょう。


ブランド閣下にも至らぬ点があったと思い、次回からは、陛下の集中を乱さぬ様、黙っておぶさり、陛下の集中が切れそうになった場合も黙って叩く様にと、配下の方の技量を見抜き、必要であれば気絶させてからお運びする事をお教えしましたが、陛下ご自身が高い意識を持って、他国との対等な関係と敬うお心を民に示さねばなりません」


「も、申し訳御座いません…………」


南の魔王の配下は若干引き気味だが、南の魔王本人は涙目で謝罪して来た。

分かってくれた様で何よりだ。


南の魔王が涙目のまま、「クルス様!!魔王とはどうあるべきでしょうか!!」と、聞いて来たので、小一時間、魔王がなんたるかを教えて上げた。





▪️▪️▪️▪️





ハルマール城、謁見の間。

その中央のやや奥にソファーが置かれている。


謁見の間にソファーを準備するなど異例の事だろうが、少しでも、オレに近くに来て欲しくない国王とオレの気分を害さない様にとの苦肉の策だろう。


オレが黙ってソファーに座ると、後ろにセバスとリンドレージェが控える。


国王はオレとセバスを忙しなく交互に見ているだけで、一言も発さず、代わりに宰相が挨拶をして来た。


「クルス会長、本日は急な要望にも関わらず、お越し頂き有難う御座います」


「いいえ、どの国とも1度は、交渉の席に着く約束だったのでお構い無く。

ただ、余り視線の気持ちが良い席では無いので、さっさと進めましょうか」


オレがそう言うと、リンドレージェが資料を取り出して数歩前に出る。

国王の横に控えていた騎士の1人がそれを受け取って宰相に渡し、リンドレージェもオレの後ろに戻る。


資料に目を通した宰相は、青い顔でオレに尋ねて来た。


「クルス会長、こちらの内容は既に締結していると言う事でお間違いないでしょうか?」


「ええ、ドルレア王国の国内情報になる為、その資料には入れていませんが、既に全ての予定が組まれています」


「他の者にも伝えても宜しいでしょうか?」


「ええ、どうぞ」


「今、クルス会長から頂いた資料は、クルス商会とドルレア王国との政策協定の決定事項です。


皆様もビルスレイア女王国との内容は既に理解されている物として、相違部分だけお伝えします。


相違部分は3つ。

1つ目は、店舗出店場所及び出店順はクルス商会が指定するという物。

2つ目は、自国民が大型商品を購入する際に、国が無担保無利息の融資を行うという物。


……そして、3つ目…………。

ドルレア王国の国内販売網が完了する迄、クルス商会は他国には出店しないという物です…………」


「なんだと!!」「それでは、我が国が大きく遅れをとるでは無いか!!」「だから、早く交渉すべきだと言ったんだ!!」などなど、騒ぎ出した。


その中で、「この!!死の商人め!!」と言った者の腕が飛ぶ。

「ぎゃぁ〜〜!!腕がぁ〜〜!!」との叫び声を効果音に、


「セバス、そのくらいにしておけ。

済まないな、宰相殿、謁見の間を汚して」


「い、いいえ!!

こちらこそ、我が国の者が失礼な発言をしてしまい申し訳御座いません」


「で、だ。ハルマール王国としては、どういう考えなんだ?


宰相殿には分かっているだろうが、どれ程の好条件を出した所で、ドルレア王国との契約を反故にするメリットはクルス商会には無いぞ?」


「……ええ、そうですな。

ドルレア王国がこの条件を呑んだという事は、ドルレア王国が我が国を滅ぼす方がクルス商会の利になりましょう」


「「「!!!!」」」


宰相の言葉で、状況を理解した者達が、声には出さず顔を引き攣らせる。

国王は既に放心状態だ。



そう、宰相の言う様に、ドルレア王国がハルマール王国を占拠すれば、その土地はドルレア王国だ。


もちろん、クルス商会の出店も同様の条件で出来る上、長年戦争をしていたニ国がクルス商会を取り込んだ方が勝利したと言う世界的な宣伝効果になる。



オレ自身は戦争反対派だが、戦争真っ只中のハルマール王国とドルレア王国のお偉いさん達にとっては、さっきのヤツの言った様に、オレは死の商人以外の何者でも無い。


オレは、周囲の貴族達が状況を理解し、ハルマール王国の悲しい未来を想像する迄、しっかりと間を置いて、


「宰相殿、たった1つだけ、抜け道がなくも無い。


それは、ドルレア王国への出店を進める傍らで、ハルマール王国でも店舗の準備を進めて、ドルレア王国の出店計画が終わった翌日に全店舗を一斉にオープンする方法だ。


だが、これはクルス商会には非常に不利な内容だ。


こんな事をすれば、ドルレア王国との軋轢が生まれるのは、もちろんの事。

このハルマール王国は“人種族”しか働く事が出来ない。


我が商会の“人種族”で優秀な者は、既にハルマール支店、ガルン支店、ラットック支店に勤務している。


この国で働ける者を教育しつつの出店準備、尚且つ準備のみで営業開始はドルレア王国での出店が終わるまで出来ないのだから、クルス商会にはデメリットしかない」


「…………しかし、そのお話しをして頂けたという事は、対価次第では、可能性が有るという事ですな」


放心状態だった国王も、クワッと目を見開く。

オレは立ち上がって、指を3本立てる。


「条件は3つだ。

と、その前に、もちろんドルレア王国と同様の条件を呑んだ上でだが?」


「はい、其方は問題御座いません。

同様の条件はお受け致します」


「分かった。

では、1つ目は、クルス商会の敷地内を治外法権として、国の法も領地の法も一切関与しない事だ。


これは、貴国にもメリットがある。

先程言った、人員の問題が“魔族も働ける”事によって、解決する。


もちろん、無用なトラブルを避ける為に、見た目は人種族と変わらない者を働かせるつもりだが、万が一、オレの従業員に対して、差別的な発言や行動があった者は容赦無く殺す。これが1つ目だ」


宰相が国王の方を見ると、国王はゆっくりと頷いた。


「分かりました。その条件はお受け致します」


「では、2つ目は、ドルレア王国に対して、平等な条件での休戦条約を提案する事だ。


内容が平等であるなら、お互いに不干渉でも、構わないし、ドルレア王国側に断られても構わない。

但し、必ず、“平等な休戦条約をハルマール王国側から提案する”事が条件だ」


周囲の貴族達がザワつき、国王も宰相もオレの策を読み取ろうとしている。


もちろん、そんな事が出来る訳が無い。

彼らはオレが戦争反対派だとは微塵も思っていないからだ。

この条件には全く裏が無いのだから、策も何も無い。


「クルス会長、ドルレア王国側に断られても構わないとの事でしたが…………」


「ああ、そのままの意味だ。

断られても別にいい。


但し、ワザと断られる様な内容の条約や行動を取った場合は、生きて家に帰れるとは思わない事だ。


あくまで、ハルマール王国は、休戦を望んで条約を提案する。

それでも、断られたら仕方がないと言う事だ」


宰相はもちろん、国王も周囲の貴族も疑問顔のままだが、困惑しながらも国王が頷く。


ハルマール王国が不利になる条約ならともかく、平等な条件でドルレア王国が休戦条約を受けるとは、思っていないのだろう。


しかし、オレの意図が分からなくとも、国王としては、頷く他ない。

無茶な事を言われている訳では無いからだ。



「分かりました。そちらの条件もお受け致します」

国王の頷きに宰相が答える。


「なら、最後の条件は、この国の最も重要な宝。“本物の聖剣”を貰いたい」


「「「!!!!」」」


オレの“本物の聖剣”と言う言葉に驚く者が3割程、残りの者は意味を図り兼ねている様だ。

本物の聖剣の存在自体を知らないのだろう。


「クルス会長、しかし、聖剣は…………」

「宰相!!」


宰相が話し始めたところで、国王が初めて声を出した。


国王が宰相を手招きして、耳元で囁く。

もちろん、オレは聞こえているが、宰相が話し始める迄待った。


「クルス会長、聖剣はこの国の最高の国宝です。

ですので、此方からも条件を出させて頂いても宜しいでしょうか?」


「……とりあえず、言ってみてくれ」


「はい、まず条件は2つ。


1つ目は、クルス会長を鑑定させて頂いて、勇者で無い事を確認させて頂きたい事。


2つ目は、もしも、クルス会長が聖剣に選ばれず、持ち帰る事が出来なかった場合でも条件を満たした事にして頂きたいと言う事です」


「…………聖剣は、勇者以外には持つ事も出来ないのか?」


「申し訳御座いません。

国家機密に付き、お話し出来ません」


「…………良いだろう、その条件を呑もう。

聖剣がどれ程のじゃじゃ馬なのか楽しみだ」


オレはニヤッと笑って見せる。


もちろん、聖剣が使用者を拒んだり、硬くて抜けない様な物では無く、半透明で触れる事も出来ない事は知っているが、知らない風を装う。


オレの表情に、国王も真実を知る貴族達も笑いを堪えている様だ。



オレはステータスの偽装を看破する魔導具を使われ、鑑定をされる。

鑑定を行った貴族は、尻餅をついて、真っ青な顔で後ずさった。


「レ、レ、レベル9,999……ステータスも全て、9,999,999……スキルも魔法、剣術、何もかもレベル10…………」


「な、なんだと〜〜!!」「ば、化け物!!」「信じられん!!」と、口々に驚きの言葉を出す。

国王は、もう一度、放心状態に戻った。


セバスが「化け物」発言に無反応だったので、化け物って褒め言葉だったっけ?

と、思っていると、宰相だけがちゃんと仕事をした。


「それで、称号は?」


「は、はい!!魔導王、神獣召喚士、錬金術師、剣王です。

勇者は有りません」


「では、陛下」

宰相の呼び掛けに、ハッと我に返って頷く。


それを見て、オレもリンドレージェに頷き掛け、2部の契約書類とペンを受け取り、先程の内容を追記してサインをし、戻す。


リンドレージェ、騎士、宰相経由で国王に手渡され、サインが終わると、反対周りで1部だけ返って来る。


「なら、先に出店計画を決めてから、聖剣の所に案内して貰おう。

出店計画もここで決めるのか?」


「いえ、出店計画は、私と経済大臣、5大都市の領主のみでお伺い致しますので、会議室の方へご足労願えますでしょうか」


「国王無しで決めて良いのか?」


そう言って、国王にニヤッと笑って見せるが、宰相がすぐさま、


「はい、王都には既に店舗が御座いますので、問題ありません」

と言うと、国王も激しく頷いた。






会議室に移り、各地の人口や馬車の便等を確認しながら、街や村の状況に合わせて出店する場所を決めて行く。


各出店場所に対して、第1候補地から第3候補地迄を決めて会議は終了。

土地の買収が出来次第、順次、ハルマール支店に連絡を入れさせる様にした。


いよいよ、聖剣とご対面だ。



宰相の後をついて地下へと向かう。

オレとセバス、リンドレージェの後ろには3人の騎士がついて来ていた。


重々しい扉の中は宝物庫で、そこから更に奥へ。

先程よりも更に重々しい扉が有り、鎖で厳重に施錠され、魔導具での封印もされている。


宰相が鍵を外して、持っていた短剣を扉に翳すと、ゆっくりと扉が開いた。


広い部屋の中心に人1人が通れる程の祠が有り、そこから更に地下へと階段が続いていた。


地下に2階分程下ると、ドーム状の真っ白な部屋に辿り着いた。


中央に台座が有り、そこに聖剣の名に相応しい、見事な装飾の施された“半透明の聖剣”が突き立っていた。

それ以外は何も無い…………



「クルス会長、此方が真の聖剣で御座います…………」


「なるほど、国王のあの表情はこういう事か…………」


「はい……聖剣は聖剣の使い手が手にする迄、実体が御座いません…………」


「そして、聖剣の使い手は勇者のみだと…………」


「左様で御座います…………」



オレは1人、聖剣に近づいて、“鑑定”を行う。




--------


虚像の聖剣


真の所有者が現れた時、聖剣はその姿を現す


--------


続いて、この部屋に、



--------


聖剣の間


聖剣を生み出し続ける。“スキル 自動修復”の効果がある。



--------



続いて、台座のみ、壁のみ、階段のみで“鑑定”したが、全て、聖剣の間だった。

それにしても、“スキル 自動回復”じゃなくて、“スキル 自動修復”か…………


もしも、誰かが作った物だった場合、魔導神の可能性が高いな…………




続いて、台座、壁、階段をほんの少しだけ、壊してみる。

騎士達が何か言っていた様だが、セバスが黙らせた様だ。


少し待つと、壊した部分が元に戻って行く。

“グランドディフォメイション”で壁に穴を開けてみる。

少し待つと、穴が塞がり元に戻って行く。


もう一度、“グランドディフォメイション”で壁に穴を開けて、そのまま、奥の地面にも穴を開ける。

少し待つと、壁は元に戻って行ったが、奥の地面はそのままだ。


「よし!!宰相殿、さっきの部屋まで一旦戻ろうか」


「……もう、宜しいので?」


「ああ、この部屋はな」


そう言って、オレは階段を登って行く。

セバスとリンドレージェは黙ってついて来て、宰相や騎士達は慌ててついて来た。


先程の祠の部屋に戻って、


「じゃあ、宰相殿。聖剣は貰って行く」


そう言って、祠の入り口を掴むと、“グランドディフォメイション”で、“聖剣の間”の周りの土を全て消して、“聖剣の間”を引っこ抜きながら、オレの”ディファレントスペース”の中に放り込んだ。


「「「な!!」」」


宰相や騎士達が、一瞬で出来た地下2階分の大穴と、“ディファレントスペース”の中に消えて行く聖剣の間に絶句して固まった。


何事も無かったかの様に、“グランドディフォメイション”で穴を塞ぎ、ついでに部屋の床も全て塞ぐ。


「聖剣もちゃんと受け取ったから、これで、失礼する」


そう言って、さっさとハルマール城を後にした。






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