第12章 聖剣①
聖剣①
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聖樹暦20,019年5月25日、この日、世界地図に新たな島が追加された。
島の名前は“第1クルス島”。
Sランク冒険者パーティーを率いるSランクの冒険者で、Sランクの魔法使い。
更にSランク商会の会長をしている“クルス”こと、オレの発見した島だ。
冒険者ギルドで島の現状を報告して、所有権を主張した際に、「私有地につき、無断で立ち入った場合は命の保証はしかねる」と伝えたそうだが、「一応、その様に告知しておきますが、誰も近付かないのでは?」と、言われたそうだ。
それもその筈で、この島の周囲は、“原初のモノ”の1人、北海の主、コンティネントジェリー ネーレウスの支配領域で眷属の魔獣が大量にいる。
そして、島そのものは、ダンジョンから溢れた魔物が積み重なる程溢れ返っている。
一攫千金を狙うにも危険過ぎる島だ。
喧嘩祭り……合同訓練を行った翌日、ハルマール王国、ドルレア王国、ギルナーレ王国の“クルス商会優遇政策”の進捗状況を聞きに行こうとしたところ、第1クルス島の手続き完了の報告を受けて、報告会兼今後の方針会議にする事にした。
前以て何方も行う可能性を伝えていた為、直ぐに集まって開始する。
まずは、ギルナーレ王国の報告から。
ギルナーレ王国は、クルス商会幹部への面会を求め、その際に用意させていた、ビルスレイア女王国との協議資料を渡したそうだ。
現在は、王城で協議中とのことだ。
ハルマール王国は、宰相が資料を請求して、此方も協議中ではあるが、ハルマール王国の王侯貴族は、“クルス商会恐怖症”を患っている者が多く、イエスともノーとも答える事が出来ない、話し合いとして、成り立たないモノになっている様だ。
そして、肝心のドルレア王国だが、早急にオレに来て欲しいと既に打診が来ているそうだ。
噂を流したその日の内に、ビルスレイアとの協議資料の請求があり、その日の内に、最短でオレに来て欲しいと言って来たらしい。
昨日までは、オレの予定が詰まっている事、今日以降の予定は確認が取れない事を伝えてあるそうだ。
今日以降、いつ来て貰っても構わないから最短で来て欲しいとの書状が来ていた。
一通り報告を聞いてから、
「分かった。なら、今日、会議が終わったら行くと言って置いてくれ。
それと、オレが今日、ドルレア王城に向かったとハルマール王国とギルナーレ王国の諜報部に情報を流す様に。
それにしても、西の魔王は毎回フットワークが軽いな。
その割に、自身で戦場には立たない……何かあるのか?」
オレの呟きに、セバスが、
「それについては、噂の域を出ませんが、『西の魔王は聖剣を恐れている』と、言われています」
と、情報をくれた。
「ハルマール王国にある、2,000年前の勇者が使った聖剣か?そんなにヤバいのか?」
「ご主人様、おそらく、相当危険なモノなのは間違いないと思います。
私達、元大魔王様の十将の中で、勇者と対峙して生き残ったのは、彼だけです。
それも、倒したとか、逃げ延びたでは無く、彼の持つスキルで、生き返ったから生き延びられたのです」
と、キスラエラが当時の事を教えてくれた。
「つまり、西の魔王は一度、聖剣で殺されたって事か。
そりゃあ警戒もするだろうな。
それに、大魔王もその聖剣の餌食になってる…………
雷十ノ助さんもそうだが、他の2人の勇者も、確かに一般的には強いんだろうが、大魔王と渡り合える様になるまで、地道に努力したとしても、その前に殺される可能性の方が圧倒的に高いだろうと思ってたが、勇者が強いんじゃ無くて、“聖剣を持った勇者”が強いのかも知れないな」
「その可能性は十分にあるかと思います。
あの戦争で私も別の勇者とは戦いましたが、大魔王様が遅れを取る何処ろか、私にも傷一つつけられておりませんでしたから」
「そうか、せっかくなら、その辺の事も西の魔王から聞けたらラッキーだな」
とりあえず、西の魔王とも直接会えるかも分からないので、この話しは一旦終了して、“第1クルス島”についての話しに移る。
「じゃあ、次は“第1クルス島”だが、せっかくだから、みんなの経験値にしてしまおうと思う。
シルバーウィングの報告では、夜になると、2時間おき位に10体前後の魔物がダンジョンから溢れて来ているらしい。
つまり、夜になると新たな魔物が生まれて、押し出されて来ているか、夜行性の強力な魔物が居て、夜になるとそいつに追い出されているかの何方かの可能性が高い。
なので、まずは日中に島の魔物を狩って、日没前にはシルバーウィングに退避して、島の魔物を間引いて行こうと思っている。
今回は自由参加ではなく、キチンと編成を組んで行った方がいいと思ってるんだが、実際に見た感じ、ガリーとセスラーナはどう思う?」
「はい、私もお館様の仰る通り、念のため、応用力のあるパーティーを組んでから向かうべきだと思います。
基本はロックゴーレムだろうとは思いますが、正直な所、私の“鑑定”では、何処から何処までが1体の魔物なのか判断が付かない形状でしたので、どういった攻撃が来るか予想が付きにくいです」
「私も同意見です。
突然変異の様な特殊な個体のいる可能性も十分にあり得る状況だと思います」
「よし!!なら今回は、最高幹部14人による全員参加のチーム戦にしよう!!
勝負はレベルアップ競争だ!!」
そう言って、今回のゲームのルールを決めて行った。
参加者は、妻達とオレの直轄の配下、現在724人全員、シロネコ達“原初のモノ”の参加は無し。
対象は島の魔物のみで、海にいる魔獣は対象外。
そして、開催期間中のゴーレム訓練場でのレベルアップは不可。
期間は5日間で、必ず1人1日のみの参加。
レベルが1上がると1ポイント、但し、例によってダメージを受けたら脱落なので、低レベルの者に無理なレベルアップをさせてはいけない。
今回のリーダーとなる、最高幹部達に求めるのは、部隊の編成と運用。
全体の戦闘力の底上げ。部下教育の出来る部下の育成だ。
全員に共通認識を持って貰ってから、人員の振り分けは平等になる様に任せた。
最後に賞品は、優勝チームの全員に、ユニーク装備を1つづつ作ってあげる事にした。
但し、こちらもダメージを受けた脱落者には無しだ。
最後にセバスから、妻達、ラル、ランド、グッサス、ブランドの扱いをどうするか聞かれたが、基本は1人の戦力として、何処かのグループに配置する様にさせ、ラルだけは、本来の領主の仕事の合間で参加可能なら参加させるようにさせた。
今回は島のみで、ダンジョン内は、オレが行って見てから判断する事で決定した。
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今日のお供のシエラールルとゴラジスを連れて、クルス商会ドルレア支店からドルレア城に歩いて向かう。
城門で、本人確認の“鑑定”を受けただけで、すんなりと城内へ。
かなり広めの応接室に通されて、待つ事しばし…………
ノックと共に、瓶底メガネにローブを纏った細身の男性が扉を開けて、その後に続いて、2m以上ある、ムキムキのゴッツイ軽鎧に真紅のマントを羽織った男性と貴族っぽい服装の初老の男性が入って来た。
オレが一応立ち上がって、
「本日はお招き頂きありがとうございます」
と、頭を下げると、ムキムキさんが、目の前に来てソファーに座り、残りの2人が後ろに控えた。
「まあ、座れ」
と、言う、ムキムキさんに従って、オレもソファーに座る。
「今日はビルスレイアと行っている、お前の商会への優遇策を我が国でも取り入れるつもりで来て貰った」
「ありがとうございます。ところで、オレはあなたと話せば良いんですか?」
と、オレが言うと、ムキムキさんはオレを睨みながら、低い声で、
「どう言う意味だ?」
と、言うので、
「後ろの魔王陛下と話さなくていいのか?って言う意味です」
と、軽く答えた。
しばしの沈黙…………
「…………時間の無駄だな、代われ、オレが話す」
瓶底メガネがそう言うと、ムキムキさんは立ち上がって一礼して、後ろに控えた。
「どうして、分かった?」
「見る目が無ければ、商人は務まりませんから」
「ちっ、種明かしもしないのか!!」
「……何か、対価がお有りでしたら、お教え致しますが?」
「…………いや、止めとこう。吹っかけられそうだ」
「左様で御座いますか。
素晴らしいスキルをお持ちですね」
「こっちの事はお見通しかよ。質の悪ぃ、野郎だ。
まあいい、察しの通り、オレがルザンクス ドルレアだ」
そう言って、瓶底メガネを外す。
野性味のある目つきの悪いイケメンと言ったところだ。
「初めまして、クルス商会会長のレンジ クルスです。
では、早速本題に入りましょうか」
「…………おまえ、相手は仮にも魔王だぞ?
もうちょっと、なんかねぇのかよ」
「…………魔王陛下、この度はご尊顔を拝謁させて頂く、栄誉を賜り、光栄の極み。
さらに、我が商会に対して、格別のご配慮を賜れるとの事、感謝の言葉も御座いません。
今後も陛下のドルレア王国の民がより豊かな生活が送れる様、微力ながら努めさせて頂きます。
では、此方にサインを」
「……なんだ、その、無駄に高い演技力は、心にもねぇくせに…………」
「演技などと、滅相も御座いません。
全て本心からで御座います」
「へいへい、要は、おまえの商会を優遇しようが、特に感謝の言葉もねぇし、オレや国じゃなくて、あくまで民の豊かな生活だって事だろう?
まあ、其処はいい。
民が豊かになるのは国が強くなる事だ。
だが!!
なに、しれっと、ビルスレイアよりも悪い条件にサインさせようとしてんだよ!!」
「よくご覧下さい、魔王陛下。
より良い条件をお持ち致しております」
「ああ、そうだな!!おまえにな!!
おまえにより良い条件だろうよ!!
とりあえず、ソイツを引っ込めろ、用意してあんだろ?ビルスレイアと同じ条件のを」
「左様で御座いますか。残念です。
此方であれば、ドルレア王国を最優先で着手する内容だったのですが…………
では、此方がビルスレイア女王国と、同一の条件で御座います」
「…………なるほどな……ハルマールとギルナーレにも打撃を与えたいなら、さっきの条件を飲め、そうじゃねぇなら、グラールだけで我慢しとけって意味か…………」
「ご想像にお任せ致します」
最初に提示した条件。
それは、ビルスレイア女王国の内容に加えて、2つ条件が追加されている。
1つは、建設場所と出店の順番をこちらが指定すると言うモノだ。
この場合、貴族や軍に便利な場所ではなく、庶民の往来の最も多い場所に出店するのと、冒険者が多く、魔獣に対策が必要な街から順次出店して行く事になる。
魔王もオレがそうする事に気付いているだろう。
ドルレア王国の要望としては、軍に有利な出店をさせたいだろうから、目論見としては完全に不利になる。
もう1つは、高額商品の購入時に、国が無金利融資を行うと言うモノだ。
これは、急遽追加した、農場用の魔導具を買いやすくする目的と、ついでに自動車がもっと普及したらいいなぁ〜っという目的がある。
無金利の融資など、国にとっては何のメリットも無い上に、確実に回収出来るとも限らない。
しかし、この2つの条件を飲む場合は、ドルレア王国での出店を行う間は、他国への出店はしないと言う特典もある。
ビルスレイア女王国と同一の条件の場合は、出店順はこちらが決めるので、ドルレア王国、ギルナーレ王国、ハルマール王国に1店舗づつ増やして行く事もあり得る訳だ。
何故なら、ビルスレイア女王国とも、優先して出店する様な条件は無いからだ。
しばし、考えていた西の魔王が口を開いた。
「クルス、ビルスレイアと同じ内容で、ウチの主要都市を最優先で出店するってのはどうだ?
タダでとは言わねぇ。オレの娘を2、3人やっても良い」
「お断りします」
「!!!!」
オレの返答に、魔王が驚愕の表情をして、後ろの貴族っぽい人物の方を見る。
「陛下、クルス会長は、姫様方のお顔をご存知無いからでは?」
「!!ああ、そう言う事か。
なら、今城にいるヤツらをとりあえず呼んでこい」
「いえ、魔王陛下、別に容姿の問題でお断りした訳ではありません」
「!!!!なんだとぉ〜〜!!2、3人じゃあ足りねぇってのか!!
おまえ、既に何十人も囲ってやがんだろぉ〜が!!」
「いえ、人数の話しでも無く、お嬢様方を頂くのをお断りしたのです」
「…………どう言う事だ?」
「オレの方こそ、魔王陛下が何を仰りたいのか分かりかねます」
「……おまえは、領主の妻だろうが公爵の娘だろうが、気に入れば、殺してでも奪い、ビルスレイア城に若い女を招いては、酒池肉林の晩餐会を行っている、無類の女好きなんじゃねぇのか?」
「……………………はぁ〜〜……。
行った事は事実ですが、女好きだからではありませんよ。
領主と公爵の件は同一人物で、事情があったからです。
晩餐会は従業員を祝う為に、従業員の家族を招いて行ったものです。
酒池肉林などではありません」
「…………そうなのか?なら、オレの娘が気に入らねぇんじゃ無く。
女じゃぁ動かねぇって認識で良いのか?」
「はい、その認識でお間違い御座いません」
「…………ならよ、クルス、おまえが、ブランドのオッサンに勝ったてのは事実か?」
「いいえ、勝ってなどいません」
「ほぉ〜……。こちらも間違いだと?」
「はい、そもそも勝負はしていませんので…………」
「勝負は?」
「ええ、ブランド リカーヅ閣下が是非訓練を付けて欲しいと頼んで来たので、少し指導した迄の事です」
「「「!!!!」」」
笑顔で答えると、西の魔王だけで無く、後ろの2人も驚きを露わにした。
「あのオッサンが、おまえに頭を下げたと?」
「ええ、閣下はよくオレに頭を下げられていますよ?そんなに珍しい事ですか?
そうだとしたら、オレが娘の夫だからでは無いですか?」
「…………そんなわけあるか〜〜!!!!
おまえの妻の1人、ブランドのオッサンの娘、ラムは、オレの妻の1人のリュールの妹だ!!
だが!!あのオッサンは只の1度だって、オレに頭を下げた事なんかねぇ!!
オレに稽古を付けてやるっつって、オレを吹き飛ばして、新婚だったオレ達の建てたばっかの家を吹き飛ばした時も!!
オレが大魔王様から頂いた、魔槍をへし折った時も!!
オレの最初の娘を魔獣狩りに連れて行って、何年も引き篭もる程のトラウマを与えやがった時も!!
只の1度も!!只の1度も頭を下げた事なんかねぇ〜〜!!!!」
立ち上がって、絶叫する西の魔王に、オレは優しい笑顔で言った。
「大変だったんだな、お義理兄さん…………」
「!!なんだ!!その憐れんだ様な目は!!
それに、いきなりの馴れ馴れしさは!!」
「まぁ、ブランドの事はどうでも良いよ、お義理兄さん。
で、オレの方がブランドより強いよ。それがどうかしたのか?」
「おまえ、一気に距離詰め過ぎだろ!!
ええい!!もういい!!
おまえがあのオッサンよりも強ぇんなら、オレに勝ったら、最初の条件を飲む。
負けたら、オレの言った条件を飲めって事だ!!」
「それは、対等じゃ無いだろ、お義理兄さん。
オレは最初の条件を飲もうが飲ままいが、どっちでもいいんだ。
そもそも、ウチへの優遇政策は、放っておいても、ギルナーレ王国かハルマール王国が行うからな」
「チッ、んじゃぁ、対価の要望は?」
「“聖剣について”、オレの質問に全て答えて貰いたい」
「……………………良いだろう。
但し、こっちが勝ったら主要都市だけじゃ無く。
大型都市全ての出店を最優先で行え」
「分かった。
ついでにサービスで、オレに勝てたら、ブランドの土下座も付けよう。
さっき言ってた事をちゃんと、謝らせてやるよ」
「!!本当か!!よし!今すぐやるぞ!!着いて来い!!」
そう言って、西の魔王は、走り出しそうな勢いで出て行った。
1番欲しいのは、国の利益ではなく、ブランドの土下座だ。きっとそうだ…………
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西の魔王のついて行き、城の裏手の訓練場へ。
ムキムキの魔王の付き人が、訓練中の兵士達を隅に追いやって、大勢のギャラリーの中、対峙する。
漆黒の槍を構える西の魔王にオレも黒オリハルコンの槍を構える。
リムに教える用の、“クルス流槍術2”で使う、伸縮水属性槍だ。
「…………双剣を使うって聞いてたが、槍もいけんのか…………」
「ああ、まあ、色々使うよ」
「武器を持ち替えて使うっと……教えて良いのか?」
「今日は槍しか使わないからな」
「その余裕が、いつまで続くかなっと!!」
そう言って、西の魔王が突っ込んで来る。
魔王の突きにピッタリ合わせて槍を伸ばし、魔王の“槍を貫く”。
そのまま、槍を振って、魔王をギャラリーの所まで吹っ飛ばしたが、ギャラリー達にぶつかる前に魔王が消える。
消えた魔王は、先程の突きを放つ姿勢で、貫いた槍と同じ槍を持って現れ、再度突きを放って来る。
もう一度、槍を貫き、吹っ飛ばした。
今度は空中で大勢を整えて、両手に真紅の短槍を持って、空中を蹴って向かって来た。
左右に僅かな時間差を付けて突いて来る魔王の両腕の手首、肘、肩を一瞬で突いて、石突で顎を打ち上げる。
のけぞった魔王の腹に、槍を投擲して、槍ごと魔王を後方へふっ飛ばす。
ギャラリーがガヤガヤ言う中、ゆっくりと大の字に倒れる魔王の所まで歩いて行き、槍を抜くと、“神聖属性魔法”で回復してやる。
西の魔王はゆっくりと目を開いて、
「負けちまったか…………」
と、小さく言った…………




