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第1章 集団異世界転移



「もし我々が自分にできることを全て実行すれば、自分自身に対して文字通りびっくりすることだろう」

トーマス・アルバ・エジソン




▪️▪️▪️▪️



来栖クルス 蓮二レンジ27歳、派遣社員


自分で言うのもなんだが、ルックスは中の上、上の下くらいだと思う。

学校や会社で1番とはいかないが、クラスや部署で2番目とか3番目とかの“そこそこモテる”そんな感じだ。


2年前、彼女と別れてからは1LDK1人暮らし、仕事が終わればコンビニ弁当を買って帰り、マンガやラノベを読みながらゲーム……

休みの日に気が向けば一眼レフをぶら下げて、風景写真を撮りに行ってチョット美味いものを食って帰る……

独身生活を可もなく不可もなく、なんとなく生きる、そんな生活だった、あの運命の11月13日までは……



11月、12日13日14日と久しぶりの3連休だ。

折角なので旅館の予約を取って京都に来ていた。


12日は移動とちょっとした食べ歩き、その後は旅館の風呂でゆっくりした。


そして13日、朝から有名な“鳥居いっぱい神社”にお気に入りの一眼レフを握り締めて来ていた。

“秋の京都”“紅葉と神社”をカメラに収めたくて早起きしたつもりだったが“秋の京都”を舐めていた。

平日のまだ9時前なのに人人人だった…………


1番の理由は高校生の遠足?修学旅行?だ。

少なくとも2校はいる。


先程、たまたま、偶然、不可抗力でパンチラを低いアングルから激写してしまったブレザーの女子高生とセーラー服の女子校生がいる。

もちろん男もいるが男の服装の違いを感じ取る事はオレには出来ない!!


人混みは残念だが、折角来たんだし山頂まで行けば何処かに良いスポットがあるに違いない!!

と、意気込みましたが無理でした……

途中の急勾配に耐えきれず引き返した。

ここが運命の分かれ道だった、頑張らなかった自分を心から褒め称えたい!!


もう少しで本殿というところで視線を感じて目を向けて、そっと自然に戻した。

朝のパステルピンクパンツの女子高生と目が合ったからだ。

完全に見られてるなー、と思いながらも『無視に徹する』と心に決めた時……


世界は真っ白になった……




▪️▪️▪️▪️



真っ白な視界が徐々に戻って来た……


瞬きをしながら周りを見ると石造りの体育館の様な場所で、ところどころに見える窓の外は真っ暗だった。

そこでオレを含め大勢の人がキョロキョロしながらザワザワ言っている。



『コレはアレだな、異世界転生?そのまま来たっぽいから異世界転移か?どう見ても“騎士の訓練場”みたいな場所だし……お!?』


と、思ってると一段高い場所に“私はお姫様です”と言わんばかりの20代半ば位の女性が上がって来た。


真っ白な“某もものお姫様”みたいなドレスに初めて実物を目にした金色のデッカい縦ロールの髪、顔は比較的美人といったところだが、なにより、マンガやアニメでしか見た事がなほどの巨乳だった!!



「みなさま、わたくしはハルマール王国第一王女 ルースレン フォン ハルマールと申します。現在、我がハルマール王国は魔王軍の進行により多くの街や村が被害に遭っております。王国救済の為、どうか、みなさまのお力をお貸しください。」


そう言って王女が軽く頭を下げると、壇上にもう2人上がって来た。



白に金の装飾が入った全身鎧を着込んだムキムキっぽい体格、カストロ髭で仏頂面の50代後半くらいのオッサンと濃いグリーンに金の刺繍の入ったジャケットを来た痩せ方ノッポ、カイゼル髭で澄まし顔のこちらも50代後半くらいのオッサンだ。


“聖騎士です”“近衛騎士です”と、“大貴族です”“大臣です”みたいな雰囲気バリバリだ。


「私は近衛騎士団長のラナザ トルーツルイセだ」

「私はクロイルード侯爵家当主、軍務大臣をしております。ザラザラルール クロイルードと申します」


『見たまんまかよ!!』

心のツッコミを入れていると、2人が堅苦しい言い回しで説明を始めた。


要約すると


魔王軍が相手の為、勇者が必要だった。

王女は異世界から勇者を召喚できるスキルを持っているが、特殊な条件が必要な為、以前召喚が行われたのが2,000年以上前で過去の召喚を知る人が殆どおらず、どんな召喚になるかはっきりしないまま召喚の儀式が行われ予想外に大勢の召喚になってしまったそうだ。


こんなに大勢が来るとは思っておらず、これから急いで受け入れ準備をするが、それまでは王国軍の宿舎で待機して欲しいらしい。


と、一方的な内容だった。

3人が壇上から降りようとすると、一緒に転移して来た旅行者っぽい黒人男性が叫んだ!!


「ちょっと待て!!あんた達さっきから何言ってんだ?オレは明後日のフライトで国に帰る予定だし、大阪のホテルに妻と子供が待ってんだ!さっさと帰らせてくれ!!」


3人は“大阪のホテル”と聞いて一瞬反応したが、ルースレン王女が黙ってクロイルード侯爵に目を向ける、侯爵は一瞬面倒臭そうな顔をしたが直ぐに取り繕って、


「申し訳ありません。元の世界にお返しするには魔王の持つ魔導具が必要です。それについても明日、詳しくご説明致しますので今日のところはごゆっくりお休み下さい」


そう言って頭を下げる、と、同時にラナザ近衛騎士団長が大声を張り上げた。


「おい!!ご案内して差し上げろ!!」


後ろで バタン!! と扉が大きく開き、全身鎧の騎士達がゾロゾロと入ってくる。

みんな息を呑んで黙って見つめるなか、騎士達はオレ達をぐるっと包囲する様に規則正しく歩いて行く、最後に入って来た20代半ば位のイケメンが入口で優雅に一礼し、


「みなさま、どうぞこちらへ」


と、爽やかな笑顔を向けてきた……




▪️▪️▪️▪️




建物から出ると外は明るかった。

『さっきは暗かったよな、日食?さっきの特別な条件って日食か?まぁいいか……』


そんな事を思いながら、オレは最後尾をついて行った。

1番後ろを歩く、80代90代くらいに見える老夫婦が少し心配だったから、その後ろにさりげなく回った。


昔の小学校みたいな木造の建物に入り、指示された部屋に行く。

着いて行った順に部屋を割り振ったのか、オレは老夫婦と3人で同じ部屋になった。


部屋に入り、


「大丈夫ですか?」


と、老夫婦に声を掛けると、2人は一瞬見合ってから笑顔で、


「ありがとう、心配してくれて。わしも妻も全く問題ない」

「えぇ、えぇ。むしろ私も主人もこちらに来てからとっても調子がいいの」


「そうだなぁ〜、身体もどこも痛みが無いし、羽根の様に軽い」

「今なら空も飛べそうよねぇ〜」


と、笑い合った……


『それ、あの世じゃない?』

と、心でツッコミつつ、


「なら良かったです」


と、笑顔で答えておいた。



自己紹介をして、お互いの話しを少しした。


おじいさんの方は南坊城 雷十ノミナミボウジョウ ライジュウノスケさん、奥さんはキヨさんで、2人とも88歳。


2人は幼馴染みで子供の頃、防空壕でずっと手を握り締めて励まし続けてくれた雷十ノ助さんに恋に落ちたという馴れ初め話しと、キヨさんが如何に美しく、戦後の復興の中どれ程雷十ノ助さんを支えてくれたかという惚気話しを延々と聞かされた……


ラブラブだ!!金婚式すら余裕で過ぎているのに2人はラブラブだ!!


質素な夕食が届くまで3〜4時間あったがお互いの話しを少ししか出来なかったのは、2人が88歳になってもラブラブだったからだ!!



食事を取り、寝る段取りになりベットを決める、部屋には2段ベットが左右にあり、2人の年齢を考えて下の段を2人にオレは雷十ノ助さんの上の段で寝る事を提案したが、いつも通り一緒に寝るから反対側のベットは2段とも好きに使いなさいと笑顔で言われた。


マジでラブラブだ!!“いつも通り一緒に寝る”とサラッと言うくらいラブラブだ!!


トイレに行ってから寝るから、おやすみなさい と、声を掛け部屋を出た。



廊下には等間隔でメイドさんが立っている、


「どうかされましたか?」


と、言うメイドさんにトイレの場所を聞くと、


「ご案内致します」


と、先導された。


廊下の窓から外を見る……

幾つものテントが並び、長槍を持った大勢の兵士が“こちらの建物の方を向いて”待機していた。

苦笑いを浮かべながら、


「すいません、俺たちが部屋を使ってるせいで兵隊さん方をテントに追い出してしまって」

「いいえ、皆様方はこの国を救う勇者になられるかもしれないお方々。この程度のことは国民として当然です」


と、振り向いてにっこり笑った。


『はぁ〜…… どう見ても軟禁だよなぁ〜……

兵士完全にこっち向いてるし、建物からしてどう考えてもテント多すぎだし…………


それに、“この国を救う”かぁ〜……

王女も救国とかなんとか言ってたし、相手が魔王でも救うのは“世界”じゃないんだよなぁ〜……』


そんな事を思いながら、部屋に戻って今日は寝ることにした…………




▪️▪️▪️▪️



翌日

昨日に引き続き、パンとスープだけの質素朝食のあと、昨日転移して来た訓練場に集められた。

侯爵の言った通り詳しい説明があるそうだ。


説明役は宿舎に案内したイケメン騎士、第三騎士長 クルルストス セルリステスト

まずは、一通り説明を行い、その後で質疑応答の時間を設けると言って始まった。



魔王軍が進行して来た、勇者が必要だった 最初は昨日と同じだった。

その後説明が続いた。


異世界召喚の儀式で本来は、勇者とその仲間たち、数名から十数名が来るものだと王国は思っており、その為の迎賓館とステータスプレートが準備されていたが予想外の大人数だった為、宿泊施設とステータスプレートは現在、急ピッチで準備中、ステータスプレートに関しては明日の朝には準備出来るが宿泊施設はまだ時間がかかるらしい。


明日の朝、もう一度集まってステータスを確認して欲しいそうだ。


ステータスプレートには“称号”の項目があり、勇者とその仲間は直ぐに分かるそうで、勇者とその仲間は王国に協力して魔王軍と戦って欲しいが、それ以外の人達は王城の敷地内から出ず宿泊施設か兵士宿舎で魔王が倒されるのを待つか、城を出て庶民として暮らすか選んで欲しいそうだ。


もし、城を出て暮らす事を選んだ場合は“冒険者ギルド”に登録だけは必ずする事、冒険者ギルドに登録した場合、別の街や村へ移動した時にその街や村への移動記録を残す必要があり、魔王が倒された時や、もしもの事があった場合に連絡が付くからだそうだ。



そのまま、質疑応答に続いた。


魔王を倒す以外に元の世界に戻る方法は無いのか?

世界には様々なスキルや魔導具が存在する、他の方法もあるかもしれないが王国では分からない。


他の方法は探してくれないのか?

魔王軍がいる限り闇雲に探す余裕は無い。有益な情報があれば捜索する。


元の世界に戻る魔導具を魔王と交渉して貰う事や盗む事は出来ないのか?

魔王と交渉することは不可能。魔王城の宝物庫は魔王を倒さなければ開けられないので盗む事も不可能。


勇者とその仲間でなかった場合、冷遇されるのではないか?

魔王軍との戦争中の為、贅沢はさせられないが出来る限りの協力はする。


勇者とその仲間以外の者も魔王軍と戦う事は出来るか?

一兵卒として協力して貰えるなら歓迎する。武勲を挙げればそれに見合う待遇もする。


冒険者ギルドがあるなら、冒険者になる事も出来るのか?

勇者とその仲間以外なら民衆を守る為の冒険者に是非なって貰いたい。


やはり魔物もいるのか?

魔物も魔獣もいる。


ドラゴンもいるのか?

いる。魔物や魔獣に関しては冒険者ギルドで個別に聞いて貰いたい。


冒険者以外に仕事は無いのか?

もちろん他の仕事もある。“商業ギルド”に行けば人材募集への応募や開業が出来る。


概ね、必要そうな話しはそんなところだった。

『ステータスプレートに冒険者ギルド、ファンタジーだ。剣と魔法の世界、ファンタジーだ。


あれ?そう言えば誰も聞かなかったけど魔法あるよな?

スキルと魔導具があるんだからきっとあるな!!


勇者とその仲間はハズレだな、完全に戦争の道具だし。

途中から魔王討伐が魔王軍との戦争になってたからな。

勇者だったらどうしよぅ〜……いや、オレが勇者は無いか!!


それより、勇者の仲間だな、括りが曖昧だし、絶対この国怪しいからなぁ〜……』



異世界転移説明会が終わってもう夕方だ。

昼メシ抜きで腹も減ったし、明日はステータスプレートだし、粗食を食ってさっさと寝よう。


食後の惚気話しを3時間聞いて、“おやすみのキス”の音を聞きながらやっと眠れた…………




▪️▪️▪️▪️



今日はステータスプレート祭りだ。

質素な朝食もなんのその!!南坊城夫婦と元気良く訓練場に向かった。


みんなソワソワしていた、オレもソワソワしていた。


今日はグループごとに兵士に誘導されて並ばされた。

1番前には机があって事務員っぽい男女が列の最前に向かい合って座っていた。

事務員の後ろには1人づつ騎士が立っている。


昨日と同じくクルルストス騎士長が壇上に上がり千円札くらいの銀色の板を掲げて説明を始めた。

『ステータスプレートきた〜!!』


「これから、兵士が1人一枚づつステータスプレートを配って行く。

受け取ったらステータスプレートに利き手を置き、集中して魔力を流し込む様に。


上手く出来ない人は列から横にずれると兵士がアドバイスをしに行く。


ステータスが表示された人は順に前に進んで、座っている経理員にステータスプレートを見せて、質問に答えてくれ。

終わったら部屋に戻って待機、部屋に順次対応の者が行く」


説明が終わるとステータスプレートが配られ始めた。


満面の笑みでステータスプレートを受け取って右手を乗せた。

『魔力を流すってこんな感じかなぁ〜?』


なんとなく感じるままにやってみると、

『お!?これだな、多分出来た』

手を退けると、文字が浮かび上がっていた。初めて見る文字だが普通に日本語で読めた。



----------


名前   レンジ クルス

年齢   27

種族   人種族

称号   異世界転移者、派遣社員

レベル  20


体力   8,000/8,000

魔力   15,000/15,000


力    700

耐久   700

知力   2,000

魔法耐久 700

俊敏   700

器用   2,000


スキル  創造LV1、環境適応LV2、言語理解LV2



----------



『異世界転移者は良いとして、称号が派遣社員って……無職じゃないだけマシか?

でも、とりあえず、勇者はちゃんと回避出来てるし、その仲間でもなさそうだな。



…………いや…………ちょっと待て…………スキル、創造?…………


これ、ヤバくないか?めっちゃヤバいヤツじゃないか?


落ち着け!ステータスプレートは便利アイテム!

こういうのは触ったら詳細情報とかインフォメーションとか、そんなのが出てくるはず!!

まずは、異世界転移者、出てこい説明!!』



意を決して、異世界転移者の文字を触る。


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詳細


異世界転移者


内容 異世界から来た者

条件 異世界から転移して来る

効果 環境適応LV2、言語理解LV2獲得


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『よし!よしよし!詳細情報きた!!

いや、まだだ。オレはまだ興奮している。落ち着け、落ち着け。次は……』



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詳細


派遣社員


内容 非正規雇用、派遣先で勤務に従事するもの

条件 労働者派遣事業会社にて雇用を受け、派遣先にて勤務を行う

効果 無し


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『あぁ〜……うん、次行こう……

いや、創造は最後にしよう!!』



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スキル


環境適応

LV1 人種族と同等の環境に適応

LV2 人種族にも若干困難な環境に適応(寒暖)


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スキル


言語理解

LV1 汎用語での会話が可能

LV2 汎用語の読み書きが可能


----------



『そうか、あの薄っすい布団でも寒くないなぁ〜って思ったらスキル効果か。

言語理解は予想通りだな。会話も出来るし、ステータスプレートも読めるしな。

よし!最後だ!オレは落ち着いている。そう、オレは落ち着いている』



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スキル


創造

LV1 両手に収まる大きさの物を自由に作り出す事が出来る


----------



『……………………』

『……………………』


『やばいやばいやばいやばい……どうする?どうしたらいい?どうすればバレない?』




▪️▪️▪️▪️



順番が進んで行く……

みんなが、ワーワー言ってるのが聞こえる……


“スキル 創造”

名前からしてヤバいと思った……


“自由に作り出す”

この世界の価値観は分からないが、お金とか宝石とか作ったらとんでもない事になりそうだ。


この国はハッキリ言って怪しい、監禁されて延々と宝石作りとかをさせられるかもしれない!!

幸い、勇者の仲間の可能性は限りなく低い、城を出て自分で対処出来る様になるまでは隠し通さないといけない!!


どうやって隠そうか……そう、考えていると歓声が上がった。



「うぉ〜!!亮太すげぇ〜!!勇者じゃん!!」

「フッ……やっぱりオレは選ばれた人間だったな」


『フッ…って言った、アイツ今、フッ…って言ったぞ。

初めてみた、本当にフッ…って言って髪を掻き上げるヤツ』



勇者亮太(笑)のステータスプレートを兵士達が覗き込む。


「素晴らしい!!さすが勇者様だ!!」

「レベルも800!騎士団長に迫る勢いだ!」

「魔法スキルも火属性と風属性があるぞ!最初からLVも3だ!」

「隣のキミも凄いじゃないか!魔法剣士でレベルも500!火、水、風、土、4属性全てのスキルがある!」

「間違いなく、勇者パーティーだ!」



周りの人達も「おおぉ〜……」と、どよめく、そんな中、


『ナイス情報だ、兵士諸君!!オレは自分のっぽいスキルは創造しかないが、スキルは複数持てるっぽい。それに“勇者”も“魔法剣士”も称号っぽいから、称号“派遣社員”のオレは勇者の仲間になる確率は無しで確定だろう』


そう思っていると、後から大きな声がハッキリと聞こえた。


「レンもじゃない!!すごい!!」


その声に首が捩じ切れるくらいの勢いで振り向いた。

“レン”と言う呼びかけに思わず“呼ばれた”“バレた”と、思ってしまったからだ。


振り向いて「はぁ〜……」と息を吐く。


“レン”と呼ばれたのは、アノ、パステルピンクパンツの女子高生だった。

目が合わない様にそっと前を向いて、聞き耳をたてる。


どうやら、あの子も勇者の様で隣の声の大きな子は聖騎士、後ろの2人が賢者と神官。完全に勇者パーティーだ。

さっきの勇者くん(笑)に続いて2人目だ、勇者は1人じゃないらしい、それにしても、


『焦った……超焦った……普通に考えてオレの事を“レン”って呼ぶヤツがこの場に居るわけない。オレは自由で寂しい1人旅行だったんだから……でも、おかげですごく冷静になれた。


この世界には“スキル、魔法、魔導具”がある、オレの“創造”は“両手に収まる大きさの物を自由に作り出す事が出来る”だ。なら、ステータスプレートを誤魔化せる魔導具を作ればいい!!


スキルを使ったら、音や光が出る可能性がある。音はこれだけ騒がしければ大丈夫だと信じよう。

光は念の為、手をポケットに入れて行おう。


作るのは、ステータスプレートを誤魔化せるスキル効果のある指輪だ。

よし!やるぞ!!』


気合いを入れて、右手をポケットに突っ込む。

頭の中で『スキル!創造!』と念じる、何となく、右手に魔力が集まっている様な感じがする。

イメージする、ステータスプレートを誤魔化せるスキル効果の指輪!!


すると、右手の中にいきなり金属の質感が現れた!!

ポケットの中でゴソゴソと指輪をはめる。


もう一度、ステータスプレートに魔力を流す……


『出来た!!いや、落ち着け、ここからだ!』


スキルの項目に“偽装LV1”が追加されていた、“偽装LV1”に触れる



----------


スキル


偽装

LV1 自身のステータスプレートを一定時間偽る事が出来る



----------


『スキル 偽装』と念じる、頭の中に『変更、リセット、キャンセル』と浮かんできた。

『変更』と念じて、ステータスプレートの名前に触れてみる。

『変更しますか?YES or NO』、『NO』と念じる。

変更出来そうだ、派遣社員に触れてみる。

『削除しますか?YES or NO』、『YES』、ステータスプレートから派遣社員の文字が消える。

出来る、大丈夫だ。とうとう、創造に触れる。

『変更しますか?YES or NO』、『YES』、『レベル変更 or 削除』、『削除』

スキルの項目から創造が消えて、残りのスキルが前詰めになる。


『完璧だ!いや、待てよ?追加で嘘を書き込む事も出来るのか?』


スキルの空白部分に触れてみる、『追記しますか?YES or NO』、『YES』、『土属性魔法LV1』


『今度こそ完璧だ!スキルが何にもないと逆に目立つかもしれない、それに土属性はなんとなく地味だ。あとは出来るだけ自然にやり過ごそう』




順番が徐々に迫り、目の前の南坊城夫婦がステータスプレートを若い女性の経理員に出すと、ガタンッと椅子を倒して立ち上がり、絶叫した!!


「なんじゃこりゃ〜〜〜!!雷光の勇者、レベル5,000〜〜〜!!奥さんも光の聖女、レベル5,000〜〜〜??」


女性が出してはいけない叫び声と表情だ。

今までずっと黙って見守っていたクルルストス騎士長も騒ぎ出した。



「なんだと!!王国最強の騎士団長でもレベルは1,000だぞ!!それが5,000?

それに、雷光の勇者という事は、雷と光の高位属性を2属性も持っているということか?」


「はい!!雷属性魔法と光属性魔法のスキルをお持ちです、更にスキルレベルはどっちも8です!!

更に更に、奥様は光属性と神聖属性のスキルレベルが8です」


訓練場は大騒ぎになった。

王女に騎士団長、侯爵の初日の面々に加えて、王子っぽい人や他の大臣っぽい人、魔導士っぽいなどなど偉い人が次から次へとやって来た。


おそらく剣なんて持ったことがないであろう雷十ノ助さんに騎士団長は土下座して剣を教えて欲しいと頭の地面に擦り付けていた……


おそらく魔法なんて使ったことがないであろう雷十ノ助さんに魔導士っぽい人は土下座して弟子にして欲しいと頭を地面に擦り付けていた……


『雷十ノ助さんもキヨさんもとんでもないな。そういえば、こっちに来てから身体が羽のように軽いって言ってたな、ステータスのせいだったのか。

あっけに取られてる場合じゃない、この混乱はチャンスだ。こっそり済ませてしまおう』



オレは心の中で南坊城夫婦に手を合わせつつ、経理員さんの元に行った。


「すいません、オレも進めてもらっていいですか?」


固まってしまっていた若い女性の経理員さんは、ハッとしてこちらに反応した。


「あ、あぁ〜……すいません、放心してしまってました。ステータスプレートを出して下さい」


ステータスプレートを渡すと、経理員さんは内容を書き写し始めて呟いた。


「あれ?なんだか魔力が凄く減ってますね〜?」

「え?」


ステータスプレートを覗きに込む……


魔力   10,000/15,000


『見落としてた〜、創造で魔力を使ってたのか。落ち着いて言い訳しよう。さっきの雷十ノ助さんへの対応を見る限りこの人は天然に違いない!!』


「スキルに土属性魔法があったんで、魔法を使ってみようと色々やってみたんですが、なんにも起きなかったんです。きっとやり方があるんですよね?」

「なるほど〜、魔法はですね〜……」


と、魔法について説明してくれた。



魔法の使い方は2つ


一つはスキルの魔法の中にある魔法名を念じるとそれだけで魔法は使える。


もう一つは呪文を唱えて魔法を使う。

呪文は非常に長いがスキルが無くても誰でも使える、何度も繰り返し呪文を唱えて魔法を使っているとスキルとして覚える。


ただし、魔力と知力が足りないと発動しない。

発動しなくても魔力は消費し、魔力が全く足りないのに魔法を使うと不足した分、体力を失う。



説明が終わると、経理員さんはそのまま質問を始めた。


「では、クルスさん幾つか質問させて頂きます。

クルスさんはこの世界にはどなたとこられましたか?」

「1人です。1人で旅行中だったので」


「わかりました。今後についてはどの様にお考えですか?」

「オレはお城を出て、この世界を見て周りながら自分に出来る事を探そうと思います」


「わかりました。では、午後からお城を出られる方々を冒険者ギルドにご案内しますので、宿舎の前にお集まり下さい。何か、クリスさんの方からご質問やご要望はありますか?」


「この世界の事が何もわからないので、誰かに教えて貰う事は出来ますか?

お金の価値や物価、街の施設や近隣の状況なんかの一般的な普通の事でいいんですが」

「それでしたら、宿舎に居るメイドにお伺い下さい。手の空いている者がご説明致します」

「ありがとうございます。では、昼食後に宿舎の前にいる様にします」


そう言って、ステータスプレートを受け取り、その場を離れた。

訓練場の中は大分人が減っていた、さっきのお偉いさん達も家族や友達を待っていた人達もほとんどおらず、最後尾の方の数十名だけだった。

ゆっくり歩いて宿舎に戻る。


『雷十ノ助さん達が混乱させてくれてたのもあるけど、称号が何にもなかったせいか案外すんなりだったな。魔力消費は迂闊だった。もっと注意しよう。


この世界に誰と一緒に来たかか…………

人質としての利用価値かな?それか、団結して裏切らない様に情報収集かな?


初日に騒いでた外国人、結局昨日も今日も見てない……

出来るだけ早くこの城、この街、この国を出よう!!

雷十ノ助さん達は心配だけど、あの感じなら無下にはされないだろう……


おそらく、雷十ノ助さん達がこの国の最強のカード。

そうなったら間違いなく本陣、お城の防衛の為に前線に特攻とかはないだろうからな。

むしろ雷十ノ助さん達がいる事で勇者くん(笑)とパステルピンクパンツ勇者ちゃんが無理な特効とかさせられるかもなぁ〜……


ま、いっか、レベル20のオレが心配する事じゃないな』




▪️▪️▪️▪️



宿舎前に集まったのはたった3人だった。

左右に椅子が付いただけの荷馬車に乗って3人の兵士が冒険者ギルドまで案内してくれるそうだ。


御者に1人と最後尾左右に1人づつの兵士、案内より連行のほうがしっくりきそうだ。



冒険者ギルドまで約1時間、その間に3人しかギルドに行かない理由を教えて貰った。

ほとんどの人はまだ迷っていて、今日、お城を出ると答えたのが3人だけらしい。


さりげなく、なぜお城を出るのか聞かれたので、

「同じ場所にずっと居るのが、すごく苦手なんです」

と、答えておいた。


ちなみにもう2人は声を揃えて、

「「ドラゴンを見に行く」」

と、答えていた。2人は一緒に行動するらしい。



▪️▪️▪️▪️





冒険者ギルドは絵に描いたような冒険者ギルドだった。


木造2階建て、入って右手にカウンターが並び、奥にギルド職員。

左手にボードがあり依頼表が張り出されていた。

その奥は酒場で鎧やローブ姿のいかにもな冒険者がいかにもな感じで昼間から飲んで騒いでいる。



オレ達は兵士と一緒に2階に上がり、学校の教室の様な部屋に通された。

兵士と一緒だったせいか“新人冒険者にCランクくらいの酔っ払い冒険者が絡んでくるイベント”は発生しなかった。


しばらく待つと体格のいいおばちゃんのギルド職員が入って来た。

“ギルドの美人受付嬢との出会いイベント”も発生しなかった…………


おばちゃんは冒険者ギルド ハルマール王国本部 副本部長の マリアンヌ テレーゼさん、この国の冒険者ギルドで2番目に偉いらしいが、見た目と名前のギャップに驚いて偉さはいまいち入ってこなかった。



マリアンヌ副本部長がギルドと魔物について説明してくれた。


ギルドは冒険者ギルド、魔法ギルド、商業ギルド、農業ギルド、船舶ギルドの5つがある。


各ギルドは国毎に本部と支部があり、それをまとめる総本部がある。

総本部の場所は各ギルド毎に違う。


ちなみに冒険者ギルドの総本部はハルマール王国の北にあるグラール帝国にある。



ギルドは国とは別の組織で全世界に建前上は中立である(ハッキリと建前上はと言った)


冒険者ギルドは冒険者と依頼の管理、斡旋、魔獣や魔物の素材の買取、販売、卸しを行っている。

魔法ギルドは魔法や魔導具の開発、研究、技術販売を行っている。

商業ギルドは人材募集、人材斡旋、開業登録を行なっている。

農業ギルドは農業、林業を行うものの土地権利の管理と出来高に対しての納税の管理を行なっている。

船舶ギルドは海運と海上保安を行なっている。




魔物と魔獣について。

そもそも、魔物と魔獣は全く違う。


魔物は魔力の濃い場所で発生する。

基本は魔力溜まりかダンジョンで発生しそこから溢れて来る。

人間や魔獣を殺して魔力を奪う為、死体を食わない。魔物同士は襲い合わない。

魔物は体内に魔核があり壊れると消える。死体は残らない。魔核が壊れるまでは死なない。

魔核は大きいほど価値があり、魔物を倒すときは魔核を砕くより、真っ二つにする方がいい。


魔獣は魔力の高い動物で、普通の動物が魔力を多く得て魔獣になる事も魔獣から普通の動物が生まれる事もあるが種族自体が魔獣の場合はもちろん魔獣しか生まれない。

例えば、ドラゴンの子供もドラゴンなのでもちろん魔獣。ビックボアやグレートボアは元は猪なので、普通の猪が生まれる場合もあるらしい。


魔獣は生き物なので人間を殺せば大体は食べる。中には草食の魔獣や空気中の魔力だけで生きている魔獣もおり必ず死体を食べるわけではない。魔獣は人間だけでなく、同じ魔獣や魔物も襲う。

魔物を襲う場合は魔核を食べるらしい。


魔獣にも魔核はあるが壊れても弱体化するだけで死なない。代わりに普通の動物と同じで殺せば死ぬ。だから、魔核も無傷で手に入れる事が出来、死体から素材も手に入る。

牙、角、皮、毛皮や鱗だけでなく、肉も骨も素材として売れるから、解体や血抜きの技術がある方が冒険者としては儲かる。


魔物も魔獣も上位の者は知力も高く、言葉を話す者もいる。

魔物の場合はダンジョンボスやダンジョンマスター、魔獣の場合は霊獣や神獣などだ。


霊獣や神獣は縄張り意識が非常に高く、基本縄張りに近づかなければ出会う事は無いが、もしも出会ったら運良く逃げれる事に掛けて逃げるか、諦めて死ぬしかないらしい。





ここまで話し、質問タイムになった。


オレ以外の2人が真っ先に、

ドラゴンは何処に居るのか?と、聞くと、


いろんなところに居るが、有名どころだとこの大陸の最北の国、トルナ王国はワイバーンライダーがいるくらい、ワイバーンがいる国だ。


あとは、西の大陸の北の霊峰に白龍の住処と山頂に聖龍、南の山脈に黒竜の住処と暗黒竜がいるらしい。


それだけ聞くと、2人は大人しくなったので、オレが色々と質問させてもらった。


冒険者をしながら得た魔法技術は魔法ギルドに所属していなくても取り引き出来るか?

魔法ギルドに開発者登録が無いと商品として成り立たない為、技術販売をする場合には魔法ギルドへの登録は必須。ただし、魔法技術の開発は簡単な事では無い為、販売出来るだけのものが出来てからギルド登録しても十分だ。


魔導具の販売ならどうか?

手に入れた魔導具を商店に持ち込んで販売するのは自由、冒険者ギルドでも買取は可能。自分で作った場合は魔法ギルドに登録しないと類似品を作って登録されたら販売出来なくなる。


なら、魔導具店は魔法ギルドと商業ギルド、両方に登録しているのか?

そうだ。魔法ギルドには商品の登録、商業ギルドには営業、販売の登録をしている。


冒険者にはギルドランクがあるのか?

ある。D〜A、Sまでの5段階、個人ランクとパーティーランクがある。

パーティーは2人以上なら何人でもいい。複数のパーティーに登録は出来ない。

ランクアップは規定の条件さえ満たせば期間や試験の縛りはない。

ちなみに、冒険者だけでなく、全ギルドにランクはあり、D〜A、Sの5段階ある。


高ランクのメリットは?

冒険者はランクまでしか依頼は受けられないので、高ランクの方が高収入の依頼を受けられる。

その他ギルドでは利益に対するギルドの接収率が下がる。D30%、C25%、B20%、A15%、S10%

あと、Sランクには特別に権利がある。ギルド総本部評議会での投票権、議題提案権、評議員への立候補権。冒険者に限り、ギルド指名依頼の拒否権。



『有益な情報が手に入ったな。“スキル 創造”が活躍するとしたら宝飾店か魔導具店だ。

入手先を追求されない為には自分で経営したい。落ち着く場所が見つかったら挑戦しよう』


その後、冒険者ギルドでの登録用紙を記入してお城に戻った。




▪️▪️▪️▪️




宿舎に戻ると南坊城夫妻がオレを待っていた様だった。


「おかえりなさい、クルスくん、ちょっといいかしら?」

「?えぇ、大丈夫ですよ、どうかされましたか?」


「私達、今日から王城のお部屋に移る事になったの」

「クルスくんさえ良ければワシらと一緒に来ないか?」


『そうか、きっとこの2人は最優先、特別最高待遇を受けるんだろうな。

それにしても、2人とも優しいな……。

多分、オレを誘う為だけに、ずっとここで待ってくれたんだろうな……。


この2人を置いてオレは出て行こうとしてるのか……。

いや、今のオレじゃぁなんにも出来ない。国から誰かを助けようと思うなら、しっかりした地盤と集団の力が無いとダメだ。

それに、しっかりと優遇されるなら、2人にとってはこの国は良い国かも知れないからな』


「誘ってくれて、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。

オレ、明日にはお城を出て、この世界を見て周ろうかと思ってます。


それに、お2人の愛の巣にずっと一緒に居られるほどオレは野暮じゃ無いですよ」


そう言ってニッと笑った。


2人は優しい笑顔で頷くと、


「そうか、寂しくなるがしっかり楽しんで、沢山土産話しを持って来てくれ」

「身体だけは大事に……何かあったら遠慮なく私達を頼ってね」


「ああ、いつでも来ると良い、ワシらの“愛の巣に”、遠慮はいらんからな」

「はい!!お2人もお身体に気をつけて下さい」


オレは深く頭を下げた。


2人の出て行った扉に、


「2人がピンチの時は必ず助けます」


そう、呟いた……



▪️▪️▪️▪️




夕食後の食器をメイドさんが下げに来たので声を掛けた。


「すいません、この世界の常識を教えて欲しいんです。

経理員さんにメイドさんから教えて貰う様に言われまして。

出来れば、お金とか日用品とか可能な範囲で実物も見せてもらいたいんですけど」


「畏まりました。では、その様に手配致します。少々お待ちください」


2、30分ほど待つと、20歳くらいのメイドさんが荷物を抱えてやって来た。


「お待たせ致しました。レンジ クルス様ですね?アイリ クルートと申します。

今夜はお相手を務めさせて頂きます」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


「今から始められますか?」

「えぇ、お願いします」

「畏まりました」


そう言って、アイリちゃんは灯りの魔導具を消す……


「え?なんで消すの?」

「失礼致しました。明るい方がお好みでしたか」


そう言って、今度は灯りの魔導具を付けて、メイド服を脱ぎ始めた。


『あぁ〜……これは完全に勘違いされてるな〜。

夜の相手が欲しくて、常識教えてうんぬんは口実だと思われてるなぁ〜……

どうしよっかなぁ〜、結構かわいいし勿体ないけど、雷十ノ助さん達に明日出て行くって言っちゃったしなぁ〜…………。

ヤバい、これ以上は我慢出来なくなりそうだ』


オレは下着に手を掛けるアイリちゃんに慌ててストップをかけて、事情説明をした。




▪️▪️▪️▪️



「申し訳ありません、先輩の勘違いで。

私もこういったお務めは余り多くないもので緊張していまして」


そう言ってメイドのアイリちゃんは深々と頭を下げた。


なんでも、貴族連中はその場で即手を出す為、給仕をする上位のメイドが相手をするらしい。

オレが要件を付けて呼んだから『もっと若い見習いを来させろ』と、受け取ったようだ。

目の前の本物メイドに手を出して当たり前とか、貴族許すまじ!!


「いやいや、キミみたいな若くてかわいい子なら、是非相手をして貰いたいところなんだけど、明日にはお城を出るって雷十ノ助さん達に言っちゃたから時間がないんだ」


「雷光の勇者さまに。なるほど。では、早速ご説明させて頂きますね。

あ!!それと、こちらに伺う前にクルス様のステータスを確認させて頂きました。

お褒め頂いて大変嬉しいのですが、私、年上ですよ」


「え??」

「では、まずそこからご説明致します」


アイリちゃん改めアイリさんに色々教えてもらった。


まず、1番驚いたのは最初の年齢についてだった。

アイリさんはどう見ても20歳くらい、なんなら10代でも行けそうな感じだが、実は40歳だった。

彼女だけが若いわけじゃない。勘違いした先輩メイド、彼女も30代半ばくらいに見えていたが、なんと90歳以上正確な年齢は知らないそうだが驚きだ!!あの人はキヨさんより年上だった。


王女の年齢は教えてくれなかったが、50代後半に見えていた騎士団長と侯爵は200歳を超えているらしい。そもそも寿命が200〜300歳くらいで高レベルの人なら500歳くらいまで生きるらしい。それが普通の人種族でこれでも他の種族に比べれば短命らしい。


人種族は15歳で成人でそこまではオレの感覚での成長と変わらない様だが、そこからの成長、老化はとても遅い様だ。


他の種族に関しては様々で詳しく知らないそうだが、例えで教えてくれたハイエルフの最古の巫女は2万歳だと言う。



その流れで暦を教えてくれた。

今日は聖樹暦20,017年11月13日、奇しくもこの世界に飛ばされた日と同じだ。

聖樹暦はエルフの里にある聖樹に生った実を食べ、最古の知恵ある生き物が生まれたのが始まりだそうで、ハイエルフの最古の巫女もその1人。今日、ギルドで聞いた聖龍と暗黒竜もそうらしい。

ちなみに聖樹暦の前は魔導暦といい、魔導暦の終焉とともに全ての生き物は一度滅んだらしいが詳しい言い伝えや文献は無いらしい。


1年は12ヶ月360日で1ヶ月は5週間30日、1週間は6日で月、火、水、木、土、太陽。金曜日が無く、日曜日が太陽曜日だ。1日は24時間で午前、午後は同じ、ただ午後1時とか午後2時とかは無く、午後13時とか13時と言うらしい。1時間60分、1分60秒は同じだった。


東西南北も同じだった。太陽が登るほうが東、沈む方が西。北半球と南半球も同じで赤道から北と南、ハルマール王国は北半球だ。夜の方角の確認方法は南十字星と北も北十字星で窓から指差して教えてくれた。南は十字で北は×字だった。



次は超大切、お金の説明だ。


お金は、銅貨から白金貨まであり、単位はエル。

銅貨1枚が1エルで大銅貨は10エルそのまま10倍で銀貨100エル、大銀貨1,000エル、金貨10,000エル、大金貨100,000エル、白金貨だけが100倍で10,000,000エル。

銅貨から大銀貨までは実物も見せてくれた。

さすがに金貨以上は勝手に持ってくることは出来なかったらしい。


お金以外にも色々持って来てくれており、実物を見せながら説明してくれた。

毎日食べてるコッペパンみたいなパンが1個10エルくらい、コップとフォーク、ナイフが1個、50〜100エルくらい、包丁が500〜1,000エルくらい、解体用の長包丁が3,000エルくらい、兵士用の剣が10,000エルくらいだそうだ……

荷物の中の刃物率が異常に高い、手を出さなかったのは英断だったかもしれない……


魔導具も少しあって、火が出て着火が出来る魔導具が5,000エル、魔力で水を出し続ける水筒みたいな魔導具が20,000エル、部屋ある灯りの魔導具が10,000エルらしい。


宿屋の料金と一般月収も確認しておいた。

宿屋は夕食、朝食付きで大体500エルくらいが相場。

月収は普通の商店に勤めて大体10,000〜20,000エルくらいが一般的らしい。



『ざっくり、日本円の10分の1くらいか?1エル10円、10エル100円みたいな感じかな?


ただ、やっぱり魔導具は高いな。

ライター50,000円、懐中電灯100,000円、壊れるまで永久に使えるとはいえ、感覚的に高過ぎる。まあDランクの商店だったら商業ギルドと魔法ギルドに合計60%持って行かれるんだから仕方ないか』



そして、お金の話しはここからがオレにとっての本番だ。


幾つか質問してもいいか?と、切り出し、疑問を口に出しただけの様に見せる。



お金の価値や硬貨は全世界共通なのか、各国で違うのか?

硬貨のデザインは発行した国によって違うが価値は世界共通でどの国でも同じ様に使える。

大きさと重さが決まっている為だ。

だから、大昔に滅んでしまった国のお金でも同じ様に使える。


偽物のお金で騙されたりはしないのか?

偽物を作るメリットが無い。お金は各国が“お金を掛けて”作っている。

金貨1枚は20gで20gの金塊は金貨1枚10,000エルする為、加工する分、作ると損をする。

他の硬貨も重さと価値が同じになっている。

別の金属を混ぜて作ると重さが変わり、商人達は持っただけで気付くらしい。


貧乏な人やオレの様に大金貨や白金貨を見た事がない人が偽物で騙されたりしないのか?

偽物で騙す様な連中なら、働かせた後、報酬を渡さずに殺す。見せるだけなら本物で済む。



『世知辛い世界だなぁ〜……

でも、滅んだ国のお金でも使えるのは美味しい。

大金が必要になったら、滅んだ国の白金貨を大量に創造したらどうにでもなるな。

白金貨か大金貨あたりを手に入れたら、何処の国のか確認しよう』


最後に王国の地図を見ながら大きな街の場所と特徴を教えて貰った。


王国は西は海、北はグラール帝国、北東もグラール帝国で南東はミミッサス大森林、南西は魔王軍との国境戦線だそうだ。魔王国との国境とは言わなかった。

東西距離は長い所で5,000kmくらい南北距離は長い所で3,000kmくらいのほぼ四角い形の国土だ。


アメリカのルート66が確か5,000kmくらいだったから、アメリカより少し大きいくらいかもしれない。

ちなみに、北の帝国は王国の3倍以上、南東のミミッサス大森林は王国の2倍以上はあるらしい。



ハルマール王国には5大都市と呼ばれる大きな街がある。

最大の街、王都ハルマール、今いる王城のある街だ。


王国内では北東にあり、王国の全ての中心地でお城から南に向かって街が広がる。

ちなみに、お城の北側は軍や王国管理の施設があり、その先の森と山は王国直轄地らしい。


王都の北には、国境の街ルルレ、北の帝国との国境にあり、北の大砦に北方国境警備軍がいる。

帝国との貿易で栄える街で慣例的に最も上位の貴族が治める街らしい。


王国の西に広がる海岸線の真ん中あたり、海上の街コクスク。

出っ張った岬にある街で海の上にある訳ではなく、海上貿易の中心地らしい。


南西の戦線の少し手前に、城塞の街ガルン。

元々は砦と近くに小さな村があっただけだったが長い年月の戦争で徐々に砦が拡大し、村を飲み込んでもさらに拡大を続けて5大都市と呼ばれる程、巨大な砦になったらしい。


王都の真南に、王都から最も近い大都市、中継の街ボードード。

北の王都、西のコクスク、南西のガルンへと続く主要街道の交わる街で王都の玄関口になる街だそうだ。

王都の厳しい入場審査に比べ、ほぼ、入場審査のない街で王国中から色々な物が集まる交易の非常に盛んな街らしい。

王都から馬車で半日ほどで、3時間に1本馬車が出ているらしい。



「と、こんな所でしょうか」

「ありがとう。遅くまで付き合わせて悪かったね」


「いえいえ、夜明けまでお務めの可能性も考えていましたので、これくらいは全く問題ありません」

そう言って、持ってきて荷物を片付け始めた。


「お務め……やっぱ、このまま帰すのは勿体ないような……」

「なにか?」

笑顔で振り向くアイリさん。右手には光り輝く解体包丁!!


「いえ!!あの!!……。明日、お城を出るので準備して貰いたいものがあって!!」

若干、声が裏返りながら慌てて誤魔化す。


「あ!!そうですね。いつ頃出られますか?」

「朝食を頂いたら出ようと思ってます」


「畏まりました。路銀と保存食は準備しておきます。他に何か必要なものは有りますか?」

「その解体包丁くらいの大きめのナイフと毛布、あと地図と灯りの魔導具が貰えたらお願いします」


「畏まりました。全てご用意が出来るかは分かりませんが出来る限りご用意しておきます」

お辞儀をした後、荷物を抱えてアイリさんは出て行った。


『よし、明日お城を出たらそのまま王都を出よう。

まずはボードードの街、そこから南東に向かってミミッサス大森林を目指そう!!


今オレに1番必要なのは隠れ家だ。

全力で“スキル 創造”を研究、活用するなら誰にも見られない広い場所と家が必要だ。

それまでの道中も出来るだけ人との関わりは避けて行こう。さぁ、準備だ!!」




▪️▪️▪️▪️



1人になった部屋で気合いを入れ直し、ステータスプレートを出してステータスを表示


魔力   15,000/15,000


ちゃんと回復してるな


今日1日、暇な時間には“スキル 創造”の活用法と旅に最低限必要な物を考えてた。


まずは、これだ!!

指輪の魔導具とスキルをイメージして“スキル 創造”と念じながら両手で空洞を作る。

手の中に金属の輪っかの感触がする。心配していた、光も音も何にも無かった。


指輪をはめて、ステータスを確認、


魔力   10,000/15,000


スキル  魔力消費0


----------


魔力消費0

魔法、スキル使用時に魔力を消費しない


----------



出来た、次だ!!“スキル 創造”と念じる。


……あれ?


もう1度、しっかりイメージして念じる。


…………ダメか…………


『魔力を消費しないと、そもそもスキル自体が発動しないんだな。

多分、魔法も発動しないだろうな。

失敗作、お蔵入りだな。なら、次のプランだ』



指輪の魔導具と効果をイメージして念じる。

出来た指輪を付ける。


お!!


ステータスプレートを確認、


魔力  15,000/15,000


成功だ。今回は“身に付けると魔力が最大まで何度でも回復する”指輪にした。

魔導具の効果なのでスキルには表示されないが、付けた瞬間、魔力が回復したのを感じた。


ちなみに、第3案の魔力を最大値で維持する指輪もスキルが不発でお蔵入りとなった。



その後、魔力を何度も回復しながら作ったアイテムは以下の通りだ。


レベルアップの指輪

スキル 自動レベルアップを習得

1分間に1づつレベルアップする


火属性魔法の指輪

スキル 火属性魔法LV1を習得


火属性魔法の指輪2

スキル 火属性魔法LV2を習得


水属性魔法の指輪

スキル 水属性魔法LV1を習得


水属性魔法の指輪2

スキル 水属性魔法LV2を習得


土属性魔法の指輪

スキル 土属性魔法LV1を習得


偽装の指輪2

スキル 偽装LV2を習得


最後に1番気合いを入れて作ったのはこれだ!!


無限収納袋小

無限に物を入れる事が出来る

袋の中は時間が止まっている為、劣化しない

取り出す時は内容物のリストが頭に思い浮かび、イメージした物を取り出せる



機能をイメージするのが難しく、何個も失敗作が出来たが満足する仕上がりになった。


危なかったのは“偽装”だ。

レベル1でステータスプレートをレベル2で“スキル 鑑定”を誤魔化せる効果だった。

今日、鑑定をされたらアウトだった。


とりあえず、偽装1と偽装2、土属性の3つの指輪を付けて、それ以外は失敗作も含めて収納袋、収納袋はこの世界に一緒に来たカバンに入れて、明日に備えて眠りについた。




▪️▪️▪️▪️



旅立ちの朝、そう、旅立ちの朝だ。

天気もバッチリ、澄み渡った秋晴れの青い空を見上げて大きく息を吸う……


「お待たせ致しました。では、参りましょう」


アイリさんに案内されて、宿舎から少し歩いて城門の詰所に入る。

先に座って待っていると、アイリさんが奥から荷物を持って入って来た。

机の上に並べられたのは、リュックサックと畳んだ服それと小袋だった。


「昨夜クルス様がご希望された物はご用意出来ました」


そう言ってアイリさんがリュックから中身を並べる。

刃渡りが30cmほどのナイフに硬そうなパンの入った袋と干し肉の入った袋、ランタンみたいな魔導具と昨日の地図、最後に昨日見せてくれた水筒の魔導具が出てきた。


「雷光の勇者様より、出来る限り便宜を図る様にとのご指示だったのでこちらの魔導具もご用意致しました」


そう言って水筒の魔導具をさす。そして畳んだ服を拡げる。内側は白いファー生地、外側は黒い綿生地っぽいロングコートだった。


「毛布は嵩張りますのでこちらをご用意致しました。こちらは“スーパーウルトラグレートホワイトベアの毛皮”を裏地に使った、非常に保温、通気、撥水、防風に優れたコートになります。

そして、こちらが路銀です」


と、小袋から硬貨を並べる。


『魔獣のネーミングセンスは一旦置いといて、金貨2枚に大銀貨5枚、銀貨5枚か25,500エル日本円なら255,000円くらい、この国だったら一般の人の1月分の給料より少し多いくらいか……

雷十ノ助さんのおかげで奮発してくれたんだろうな、魔導具は高いし、コートも高そうだし』


「なにからなにまで、ありがとうございます。

雷十ノ助さんとキヨさんにもお礼を言っておいてください」

「畏まりました。お気をつけて」


荷物を入れて、コートを羽織り城門を後にした……




▪️▪️▪️▪️



王都を南に向かって歩く。

昨日は馬車移動だったのであまり見れなかったが、街並みはザ・ファンタジーな中世っぽいレンガ作りか板壁の木造の建物が並んでいた。


しかし!!街を歩く人達はファンタジーっぽく無かった!!

貴族、騎士、兵士、メイドに冒険者。昨日までに見た人達は貴族っぽい服にドレス、鎧、軍服、メイド服、ギルドの職員は制服っぽいワンピースだった。勝手に街の人達も中世な格好だと思っていたが、ある意味普通の格好をしていた。


トレーナーにパーカー、ワイシャツ、ジャンパー、コート。下もチノパンやジーンズ、スカートもさまざま。色もデザインも多種多様で逆に同じ服を着ている人もいる。

素材は布や皮っぽいが作りは今風だ。違和感の無い服装が逆に違和感だった。


『間違いなく、地球から来てる人が過去から現在まで大勢いるな。

単位とか魔導具の発想とか大昔に来ていた可能性は高いと思ってたけど、間違い無く最近の人間も来てるな。

……そして、業の深い人間も間違い無く来ている!!』


そう思いながら、通り過ぎざまに建物の中をチラッと覗く……


診療所っぽい建物の中にミニスカナースが見えた!!

喫茶店っぽい建物の中にミニスカメイドが見えた!!

路地裏には喧嘩の仲裁をしているミニスカポリスが見えた!!


『明らかに定着している。先達の業の深さ……。

完全に定着させている、熱意と手腕にただただ脱帽だ……』


そうこうして南門にたどり着いた。ステータスプレートを見せて門を潜ると、昨日準備した指輪をはめていく。


真っ直ぐ地平線まで続く街道を見、空を見上げて大きく息を吸う……


「異世界生活の始まりだ!!」






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