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38話 キノコのボディチェック


「じゃあまずは体の構造についてチェックしましょ」


 言いながら眞城は俺の元に歩み寄り、くねくねと両方の指を蠢かせる。


 そしてそのまま、橙乃とシーナを合わせた三人で……俺の体へと手を這わせてきた。


「傘は柔らかいわね……ぷにぷに、むにむにという感じ」


「やんっ、茎は太くて……すごぉい、こうして触るとビクビクしてるねー」


「我慢。ごくっ、木之崎先輩は……凄く、美味しそう……です……じゅるり」


「はぅあっ……! そ、そんなところはやめぇ……」


 四方から迫り来る六本の腕によって茎をシュッシュッと上下に擦られたり、掌で転がすように傘を撫で回されたりと……全身を襲う快感の波に俺は身悶えしてしまう。


「キサマらぁぁぁぁっ! 卑猥な手付きで俺の丈人に触れるなー!」


 ただ一人参加しなかった針馬が声を荒らげ、俺を助けようと三人に抗議する。


「江園君は触らなくていいの?」


「ふ、ふざけるなよ……! まだ婿入り前の体に、みだりに触れていいわけないだろう!」


 針馬の妨害を受けて、眞城逹は渋々と手を引っ込める。

 助けてくれたことには礼を言うが……言葉の端に気色悪さを感じるのは俺だけか?


「意外。直に、触れてみると……温かった、ですね。驚き……ました」


「触ってみるとよく分かるけど……あくまで体の形だけがキノコになっているって感じよね。五感はあるし、考える事も出来るんだから」


 顎に手を添えて思考を整理し始める眞城に、横から見ていた針馬が口を挟む。


「キノコと化した丈人の身体構造は既に、多くの専門機関がチェック済みだ。俺達学生が今更調べたところで、新たな発見など出てはこないだろう」


「慌てないで江園君。これはただの確認……私逹の活動はこれからが本番よ」


 我に秘策有り。眞城の自信に満ちた声は、俺達にそう訴えかけていた。


 本来なら信用すべきなのだろうが……一周回って逆に胡散臭いな、うん。


「杏、ゲームで仲間のキャラが状態異常になった場合はどうする?」


「決まってるよ! 状態異常を治す万能薬を使うか、専用の回復魔法だねっ!」


「そう! ということで江園君! 丈人君に魔法をかけてちょうだい!」


 ほらな。脈絡なく、とんでもない指示が飛んできた。


 いやいや、そんな雑なネタ振りがあるかよ。針馬もいい加減怒るに決まって……


「……フッ。魔法を掛けられたのは俺の方だ。恋の魔法に魅入られた――哀れな囚人さ」


 乗るんかい。


「キモイ」


「誰得だからやめて欲しいかなーって」


「恐怖。これが、本物の……うおぇっ……おっ、ぇぉっ……おぇぇっ」


 おふざけに乗った針馬も針馬だが、乗せておいてこのリアクションをする眞城はまさに鬼だ。シーナに至ってはガチの反応なのが心に突き刺さるな、こりゃ。


「はぁ、男の子なら回復魔法の一つや二つを会得しておきなさいよ」


 心底失望したと表情で訴え、眞城は大きな溜息を漏らす。

 すまん。おふざけじゃなく、本気で言っていたんだな……お前。


「おいおい、魔法や万能薬があったら苦労しないって。もっと違う方法を探そうぜ」


「なら……絵本や昔話を参考にしようかしら」


「むっ! むむむむむむっ! 優夢ちゃん! それは、アレだよね!」


 心当たりがあるのか、椅子から飛び上がって反応する橙乃。


「カエルの王子様って話があるって前にも話したでしょ? カエルの姿に変えられた王子様が、お姫様のキスで元の姿に戻るのよ……」


「ひゃぁーっ! キス! キスだよ木之崎君!」


「接吻。唇と唇を、触れ合わせ……時には、舌を絡ませることで……唾液の、交換を……」


「生々しく言わんでいい。で、そのキスがどうしたってんだ?」


 淡々と述べるシーナを遮って、俺は眞城に訊ねる。

 ここでその寓話がどう関係してくるのか、俺にはイマイチ分からなかった。


「どうした? んふっ、ここまで言っても分からない? 私逹は丈人君を助けたいのよ?」


「き、木之崎君を元に戻す為だもんね! 仕方ないよねっ! ねっ!」


「そうよ! これは仕方のないことなんだから!」


「はぁっ? まさか、ここでキスをするつもりか!」


 やっと事情を把握し、そのあまりの荒唐無稽さに俺は狼狽える。


「それはダメだろ。付き合ってもないのに……」


「にゃ、なな何を言ってるのよ! これはあくまで、きゅ、救助活動なの! 海で溺れた人に人工呼吸をして、それをキスと呼ぶ? いいえ、呼びはしないわ!」


「そ、そうか? 針馬、お前はどう思う?」


 マシンガンのように連射された眞城の言葉には妙な説得力がある、あるのだが……どうも腑に落ちない。俺は親友に助けを求める事にした。


「が……ま……」


「あれー? 江園君、どうしてこんなところで寝てるのかなー? 風邪ひいちゃうよー?」

 

「は、針馬ぁぁぁぁぁっ!」


 振り返った視線の先。そこでは巨大なたんこぶをこしらえた針馬が、卓上に突っ伏してノックアウトされていた。酷い……誰がこんな事を?


「失神。後頭部を……強打、された事による……ショックが、原因。ざまぁ」


「ほぇー、物騒だねー。一体誰がやったのかなー? だーれだろー?」 


 ここぞという時に頼りにならないのが針馬クオリティ。

これはもう、完全に詰んだか。

 ファーストキスがこんな形で失われる事になろうとは……

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