31話 キノコと心強いお友達
「必要な手続きなんかはこっちで全部やっておく。ただし、部員を五人揃えるのはお前逹の仕事だからな。そこんとこは抜かるなよ」
「はい! ありがとうございます、榎田先生」
「にしても面倒だな。こんなもん、テキトーに書いとけばいっかー」
ケイ先生が取り出した申請書には顧問の名前の他にも、クラブ名、部長名、総部員数、活動場所及び日時、主な活動内容を記す欄がある。
今まで経験は無かったけど、事務手続きって結構大変そうだな。
「ほらよ。後は部員の名前を書いて、ケイ様かハゲ校長のところに持ってこい」
「ありがとうございます。よしっ、ここまでは順調だわ!」
一通り記入欄を埋めてある申請書を受け取り、グッと握りこぶしを作る眞城。
その際、申請書の内容がチラリと見えたが……それは余りにもお粗末なものだった。
「あの、本当にこんな申請書で大丈夫なんですか……?」
「きぃのさぁきぃっ! 人の善意にケチを付けてんじゃねぇぞぉ!」
「す、すみませんでした……」
頼みに来たのは俺達の方だから、ケイ先生の言い分は分かる。
でも……活動場所【その辺】や、活動日時【暇な時】とか、活動内容【麗しい顧問の先生に下僕逹がキノコを捧げる】なんて書いてあったらツッコミたくもなりますってば。
「何もテスト期間中にやるこたねぇと思うが、ケイ様を抱き込んだからにはしっかりとやれよ。美味いキノコ料理と温泉宿の為にもな」
「ええ、善処します。では私達は教室に戻りますので」
受け取った申請書をクリアファイルに挟むと、眞城は踵を返して職員室から出て行く。
一限目からテストもあることだし、俺達も早く教室に戻るべきだな。
「じゃあケイ先生、私達も教室に帰りますね」
「待て、橙乃。おい木之崎、一つだけいいか?」
俺を抱えた橙乃も続いて職員室を出ようとするが、後ろからケイ先生が呼び止める。
「はい? なんでしょうか?」
「……橙乃と江園とはまた違う、いい友達が出来たようだな」
廊下を親指で差し、普段からは想像も付かないほどの柔らかな表情を見せるケイ先生。
「好きな男の為に必死になれる女に悪い奴はいねぇ。その女が悪くなっちまうのは、男の方がダメだからだ。そこんとこをよく理解しておけ」
「ケイ先生、それって……」
もしかすると、ケイ先生は眞城の用意した餌に釣られたのではなく……あそこまでして説得しようとしたアイツの懸命さに打たれたのかもしれないな。
それに対して俺は、眞城の交渉に嫌な印象しか抱かなかった。
眞城は俺の為になりふり構わずに部活を作ろうとしてくれたのに、俺は加勢の言葉すら出さなかったんだ。ケイ先生はきっと、そのことを言っているのだろう。
「ま、そんだけだ。分かったらとっとと教室に戻れ」
柄にもない台詞を口にして恥ずかしいのか、ケイ先生は逃げるように立ち去ってしまう。
なんだ、教師らしいことも言えるんじゃないですか。見直しましたよケイ先生。
「反省、だね。木之崎君」
「おう。眞城の努力に応えないとな」
俺を抱く橙乃の腕の力が、ぎゅうっと強くなる。橙乃もまた、俺と同じ気持ちのようだ。
「杏ぅー! 丈人くーん! 早く来なさいよー!」
「あ、ごめんね優夢ちゃん! 今行くからー!」
廊下から呼ぶ眞城の声に返事をすると、橙乃は駆け足で職員室を後にした。
職員室の目と鼻の先にある階段の前で待っていた眞城と合流し、俺達は三階にある二年A組の教室へと向かっていく。
「榎田先生に呼び止められていたようだけど、何を話していたの?」
「大したことじゃないよ。眞城が最高の友達だって話さ」
「はうぁっ! さ、さささっ、さいこぉの友達ですってぇ!」
「うんっ。私も優夢ちゃんのこと大好きだよ! ライバルだけどね!」
「ふにぃっ! な、なによ……おだてたって、私は木に登らないわよっ!」
耳たぶまで真っ赤にして、眞城は肩を震わせている。
おーおー、びっくりするほど分かりやすい。眞城の照れ屋は当分治りそうにないな。
「で、でも! どうしてもって言うなら登るわよ! 親友のこの私がね!」
「どうしてもなんて言わないっての。なんで木登りなんか……」
「仲良くおしゃべりをする余裕があるとは、この俺も随分と舐められたものだな」
階段を上りきり、俺達の教室が見えてきたところで不意に声を掛けられる。
気が付けば俺達の横に針馬が並んでいて、探るような視線を送りつけてきていた。
「よう針馬。追いついていたなら、声をかけてくれよ」
「くだらん、今日の俺は貴様の相手をしている暇は無い。気安く話しかけてくれるな」
「えっ? 江園君がそんなこと言うなんて有り得ないよ!」
「あら、ようやくBLを卒業したの?」
橙乃逹の驚きはもっともだ。というより、この中で俺が一番ビックリしている。
針馬が俺を拒絶するとは、まさか本当に偽物なんじゃ……?
「違う! 俺は断じてBLじゃない! たまたま好きになった相手が男だっただけだ!」
「よかった、いつもの針馬だ。おはよう!」
「あはっ、心配して損しちゃった。おはよう、江園君!」
「おはよう。江園君、朝から驚かさないでくれる?」
「あ、ああ。おはよう……」
針馬と絡む時はこの冗談が無いと、物足りないからな。
どうせ本気じゃないっていうのに、針馬の演技が迫真だからいつも笑えてくるんだ。
「くっ、結局いつものペースに乗せられてしまうか……!」
「いいじゃないか針馬。俺はこういうノリは楽しくて好きだぜ」
飾らずに等身大の自分で話せる友達の存在が、どれほど俺の救いになっているか……
橙乃、針馬、眞城。俺には勿体無いくらいの――友達だ。
「友情に浸るのは構わんが、テスト前だという事を忘れるなよ?」
「大丈夫さ。しっかり三人で勉強したしな」
「うんっ! テストなんて怖くないよ!」
「まぁね。天才の私にとっては焼け石に水だったけど」
「……三人で勉強? おいどういう事だ? 説明しろ丈人!」
「使い方を間違えてるぞ眞城。いや、焼け石に水だったのは事実か……」
「うるさいわよ。テスト如き、私がねじ伏せてやるわ」
「話を聞け! なぜ俺を誘っていない? 勉強会をしたのか? そうなんだろう!」
「フラグを建てるなよ。それ、完全に爆死コースだぞ」
「丈人ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
お約束の針馬スルーをしつつ、俺と眞城が話していると……テスト開始五分前を告げる鐘の音が鳴り響いてきた。しまった、もうこんな時間か。
「あ、予鈴が鳴ってるね。職員室で話し過ぎちゃったかなぁ」
「橙乃、ここまででいいよ。後は自分で歩いていく」
俺はぽむっと床に向かって飛び降りると、眞城達と一緒に後ろの方の扉から教室に入る。
テストの時は通常の授業とは違って先生が早めに来るからな、急がないと。
「鉛筆さんと……消しゴム君を出して。はい、これで準備オーケーだよ」
橙乃は俺の机の上に筆記用具を並べてから、自分の席に着く。流石にテスト中ばかりは他人の手を借りるわけにはいかず、こうして自力で記入を行わなければならない。
「ありがとう橙乃。うしっ、頑張るぜー!」
「お前ら全員席に着けー。もうすぐテストを始めるぞー」
俺の声に被さるようにして予鈴の鐘が鳴り終わり、教室に数学の高峰先生が入ってくる。
危ない危ない、結構ギリギリセーフだったな。
「おっ、ちゃんと全員着席しているな。お前逹、もう私語は慎めよ」
「んしょっと。一限目から数学か……」
「それではテストを配るぞー! まだ中は見ないようにな」
サイコキノシスで机の上に乗っかると同時に、高峰先生が問題用紙を配り始める。
「ふん、この俺を除け者にしたことを後悔させてやる」
先頭の席から回ってきた用紙をバンと、片手で俺の机に叩きつけながら……針馬
が言う。
「すぐ根に持つのがお前の悪いとこだぞ」
「なんとでも言え。俺の海よりも深い心が傷付いたのだからな」
針馬は捨て台詞を残すと、席に着いて前を向く。
口に出せている時点で、そこまでダメージが無いのは丸分かりだっての。
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