僕らは皆生きている
後日談。
結局あれから、燦士郎と黒矢はしばらくのあいだ入院した。
葦継 燦士郎は。
退院後は、先述した通り、燦士郎は無事に上手くクラスに復帰出来たようなので、僕としてもそれは嬉しい話である。身体の傷も、憑神が離れていったので自然治癒力が作用するようになったらしい。
彼はもう、僕と話す時に俯いたりはしていなかった。
柿本 永音は。
彼女は彼女で、無事に過ごせているらしい。友人も多いらしく、学校でも皆と笑っている姿がよく見られる。勿論、地には彼女の影がハッキリと伸びている。
井上 咲は。
これもまあ、平穏無事な生活を過ごしているようだ。
他人から「愛」を求めるのも、他人に「愛」を振り撒くのも、気づけば彼女はしなくなっていた。
しかしながら、それでも咲の性格は少しも変わらず、あくまで「自然な自分」として生きていたいそうだ。
ならば僕は、自然体のままの彼女を愛そうと、胸に誓った。
これからもずっと、彼女の気持ちの良い爽やかな笑顔を見ていたい。
その隣にいたい。
佐渡山 幾郎さんは。
思い返せば"感情が潰えた"と大仰な物言いをしたように思うけれど、しかし彼も自身が抱える問題に向き合うべきだと思い直したらしい。
彼は憑神を自力で克服した。
失われた感情を取り戻すわけでもなく、また新たに創り直した。
この前、幼い頃の佐渡山さんを捨てた両親が二人とも亡くなっていたことを彼から聞いたけれど、素直にそれを悲しく思っていた彼を見て、不謹慎ながらに少し安堵してしまった自分がいる。
黒矢 昴は。
彼は──黒矢は、気づけばこの街から去っていた。
もうどこにも、いなかった。
極端に言えば、生きているのか死んでいるのかも、分からない。
今どこにいて。
何をしているのか。
僕はあの愚かしい嘘を、最後の最後まで見抜けなかったのだ。
「でも、それでいい。」
歩きながら、僕は言う。
「そうだよね。誰も間違っていない。カズくんが間違っていないのだから。」
咲は言う。
「正しいとか間違っているとか、そういう話でもないけれどね。まあ慥かに、それでも私たちの行動は、意思は──決して誰も否定出来ないわ。」
柿本は言う。
「えっと、まあ、いろんなことがあったよね。皆、自分というものを初めて直視した。」
佐渡山さんは言う。
「別にいいじゃん。最後くらい、その愚かしい嘘に騙されてあげようよ。・・・・その嘘に、僕たちは助けられたんだ。」
燦士郎は言う。
「そうだよな──。」
「僕たちの人生、これまでいろんなことがあったけれど、これから先はもっと色々あるんだろう。この夏休みで、僕たちが失ったものは数え切れない。けれども得たものだって、同じくらいあるはずなんだ。それでいい。」
心に陰があるのは、そこに少なからず陽が差しているから。
ならばそれでいいじゃないか。
僕らは一生不幸せなままで、報われない。
それでいいじゃないか。
向き合っていこう。
それが憑神だろうと怪物だろうと。
心の傷からは逃げられない。
心の影からは隠れられない。
心の闇からは目を逸らせない。
ずっと。
「だって、これが僕達の────。」
僕たちは。
堂々と憑神と向き合った僕たちは、口を揃えて、声を揃えて、そうして一言、こう言った。
『青春なんだから』
日は変わって、8月29日。
僕は今、一人で真夏の炎天下の下を歩いている。
学生服姿で補習に向かうわけでもなく、ただ単に、少し散歩がしてみたくなった。
燦々と日光が照りつける、炎天下の真夏日である。
僕はなるべく影に隠れながら、それでも鮮やかに輝く青空を見つめる。
目が眩むほどに真っ青で。
それは、僕たちの目指している色だった。
「鎌田先輩」
何やら目の前から僕を呼ぶ声がした。
「よお、江花」
僕は軽くひらひらと手を振って、久しぶりに見る後輩に挨拶をした。
横断歩道の赤信号が青へ変わると、僕は小走りで彼女の方に駆け寄る。
「暑いねえ、先輩。私は夏が嫌いだよ。」
「ああ、僕も嫌いだ。」
「でも、今年の夏は楽しかった。皆がいたから、すげえ楽しかったよ。」
「まあ色々あったよね。私の知らないところもあるだろうけれど、触れないでおくとしよう。」
「そうしてくれると助かるぜ。」
不意に、風が吹く。
「鎌田先輩、補習は終えたの?」
「ああ、もう終わり。まあすぐ学校が始まるからさ、気は抜いてらんねーんだけど・・・・。」
「また一緒に補習になったら、よろしく頼むね」
「よろしくされたくねえよ。そんなの二度と御免だぜ。」
僕は呆れて溜息をつく。
「鎌田先輩、溜息をついちゃ駄目だと言ったろう。」
「ああ・・・。たしか、幸せが逃げるからとかだっけ?」
「いや──でも僕は、充分すぎるくらいに幸せだぜ。心に色々面倒なもんを抱えたままでも、こうして幸せになれた。皆のおかげで。」
ふふふ、と江花は可愛らしく微笑む。
「そうだよね」
「うん」
僕の後輩は、全てを分かったように、しっかりと頷いた。
「それじゃあ鎌田先輩、行こうか。」
「・・・・・・・・・・・。」
先に歩く少女の背中を眺め、僕はなんとなく考える。
しかしそれも、ここでは語るまい。
「────おう。」
僕は誰に言うでもなく呟いて、そうして歩き出す。
こうして、僕の夏休みは終わる。
第1部終了です。
最後らへん終わり方雑で本当に申し訳ないです。
次からも頑張りますので何卒!!




