↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の國(血)  作者: ねろ
PR
11/35

愛を欲した彼女 その4

「ほう」

如何にも高級感溢れるそのホテルの一室で、黒矢昴は本を読んでいた。

何の本かなんてのはさして重要でもないので、僕は気に留めず話を続ける。

「だからさ、黒矢──とりあえずは、柿本と一緒に来たんだけど」


「他人にお礼を言いたがるなんて、今どきの若者らしくないことをするな…。俺はそこのお嬢さんに何かしたわけでもなんでもない。ただ"たまたま"怪物に襲われたガキの話が"たまたま"俺の耳に入り、"たまたま"そいつの知り合いの少女も憑神によって影を失っていて、"たまたま"怪物のガキの方がその少女を助けようとしたところ、"たまたま"憑神そのものと戦闘になり、"たまたま"殺されかけていて、"たまたま"俺の蹴りでそいつは助かった、と──。」


そういうことに過ぎない、と素直じゃないのかなんなのか、とにかく頑なに柿本の礼を拒絶する黒矢。

「それでも、あなたが関与したのは事実です。それなら、私はあなたにお礼を言う権利があります。」

柿本は柿本で、お礼を言うという気構えを崩すつもりはないようだ。


「それはな、お嬢さん──。ええと、柿本とか言ったかなあ。本来それは俺の主義に反しているのだ。鎌田には言ったが、俺はあくまで裏方──舞台に立って何かしようというわけでもない。憑神と縁がある人間がいたとしても、それはあくまでそいつの問題だ。俺が引き受けることは出来ないし、あくまでそいつの人生の主役は、そいつでしかないんだよ。誰も代わることは出来ない。今回の件だって、さっき言ったように偶然に偶然が重なっただけだ。この世は偶然の塊だよ。」


そう言いながら、いつも通りの平坦で冷淡な口調で黒矢はページを捲り続ける。僕はその話になるほどと思うところがあって、何も口出しせずに聞いていた。黒矢と柿本の貸し借りに関する話において、柿本がけじめをしっかりつけようと言うのなら、今回は僕こそが裏方であるべきなのだ。


「・・・しかし、だ。今の鎌田には他にやるべき事があるだろう──。俺に聞きにきたことがあるのだろう。柿本、気持ちだけ受け取っておいてやる。だからお前はもう、憑神に関わろうとするな。」

普通の人であれ、と。

黒矢はそういった。

「さて教えてやろう、お前が今気にしている、愛憎の憑神『宵闇(ヨイヤミ)』についてな────。」

『宵闇』。

白銀色の体毛を靡かせる狼。

街を夜な夜な徘徊しては、目的もなく消えてゆく憑神。

──しかし、僕が黒矢から教えられたのは、とんでもない事実だった。

「──残念ながら『宵闇』という憑神など、俺は事細かに知らん。元々そんなものは聞いた事がないぞ。つまりお前に情報を与えるとすればだな…。」

「──『宵闇』は、未知の憑神だ。全てが未だに解明されない。謎の憑神というのではなく、謎そのものというわけだ……。取り扱い注意ってことだな。」


え……。

マジで?


結局、収穫ゼロ。

あいつも案外、全知ってわけでもないよなあ(当然)。

僕たちはそのままホテルを後にし、帰路半ばで柿本と別れる。

左手首に巻いた腕時計を見ると、夜21時。

自転車を押しながら歩いていると結構な距離で、予想よりも大幅に時間を消費してしまった。

僕たちの住む街も、結構な田舎町なので、辺りに街灯は少ない。

ビルの明かりなんてこの時間帯に点いている方が珍しく、故に辺りは真っ暗だった。


その時だ。

僕は有り得ないものを目の当たりにする。

憑神の存在自体、文明の発達した現代の基準に則っていうならば"有り得ない"のだが、僕の場合、それは有り体に言って、憑神よりも有り得ないものに感じてしまった。


背の高い少女。

見覚えのある紫のパーカー。

それは今朝、彼女の家で見たものであった。

特徴的なポニテは解いていて、長く艶やかな髪を下ろしている。

しかしながらその髪は、まるで獣の体毛のようにところどころが逆立っていて、色は美しい白銀色をしていた。

顔や体にはきめ細かく鱗のような模様が刻まれていて、普段の優しく穏やかな目つきは一変、僕を猫のように鋭く見つめる睨眼と化していた。


嘘だろ…。

これも、僕と関わってしまったからなのか?

それとも、偶然に偶然を重ねた必然なのか?

なんで、お前が・・・・!!


その少女…井上 咲は、小さな呻き声をあげながら、次第に人間と狼の要素を織り交ぜたような姿から、大きな白狼へと変化した。

その目は尚も、僕を睨み続けている。


その時の僕は、ふと脳裏に思い出していた。

彼女の、残酷という言葉では足りないような、そんな凄惨な生い立ちを──。

時系列的には、「愛を欲した彼女 その2」に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。