令嬢は見た!××な浮気現場 006
王太子の企みを明らかにする為に、我が家で対決をすると決めてからが忙しかった
まずは帰ってきたお父様に事情を聞かれ、虫除けの婚約者候補である事を隠して説明をした
お父様は報告を聞いて何か考えるような素振りを見せて次の日から早くお城へ向かうようになった
きっと大した事を出来ないと思うので、私は自分に出来る事をすることにした
「執事長、申し訳ないのだけど貴族名鑑で調べたい事があるのだけど、ダンスの練習は調べ物が終わるまでお休みに出来ないかしら?」
まずは、お母様の監視その2であろう執事長を懐柔すべく動き出す
「お嬢様それは…」
「フレデリック王太子殿下の婚約者候補に選ばれたのは聞いているでしょう?
ダンスは前日に特訓すれば恥ずかしくない程度には出来るようになりますが、他の貴族の方々の名前は一朝一夕に全て覚えられませんわ
もちろんマナーはこれまで以上に取り組みますわよ?」
「お嬢様…」
と執事長が涙を貯めて感極まったような顔でこちらを見てる
何か予想と違う方向だったが、調べ物の時間が出来るようになったので良しとしよう
王太子の大まかな企みは予想がついているとはいえ、それが『誰なのか』は分かっていない
変な見栄のせいで王太子を我が伯爵家へ招く事になったが、この件での主導権を握る良いチャンスになったのだ
このチャンスを生かさない手はない
参謀術数めぐる王城ではなく、我が家なら王太子の目的を暴けば素直に答えてくれる確率は高い
その為にもお母様がいない間は私が伯爵家の権力を握れるだけの力をつける必要があるのだ
( メイリンに屈したのが悔しかったからじゃないんだからね! )
結局、調べ物を始めてすぐに王太子の企みに関わっている誰かの目星は思ったより早く見つかった
「執事長、主要な貴族の方々のお名前は覚えましたわ
次は婚約者候補として王妃教育が始まると思うから、王妃様や側妃の方々ともお付き合いが増えると思うの」
今までとは違って何かと協力的になった執事長に新たなお願いをする為に声を掛ける
8歳児らしくない先を見据えた発言を混ぜてさらなるお願いをする
「我が家と王妃様と側妃の方々のご実家と取引があれば、その細かい取引の明細が欲しいのだけど用意出来るかしら?」
「お嬢様、資料はご用意出来ますが見られても商人や文官でもない限り、なかなかお分かりになるものではございませんが宜しいでしょうか?」
「分からなければ分からないで取引されている品目だけでも覚えておけば話題にはなると思うわ」
まあ、分からないなんて事はないのだけどね!
これでも領主様を経験したからね!!
「そういう事でしたら、明日にでもご用意させて頂きます」
「あら、ずいぶん早く揃うものなのですね」
「お嬢様が伯爵家の責任を全うされようとしているのを見て、他の使用人もやる気になっているのですよ」
どうやら執事長だけではなく他の使用人も懐柔が進んでいる様子
悪い不良が捨て犬に餌を与える法則のごとく、私の株が急上昇したのかしら?
「急がなくて構わないから過去5年分の資料があると助かりますわ」
「かしこまりました」
素直に従ってくれるようになった執事長に対して、結果的には王太子からは婚約破棄か別の者が婚約者を選ばれる運命にあるので、一生懸命尽くしてくれる執事長を騙すようで良心が少し痛んだ
前世や前々世で貴族社会に生きて、そんな感情は既に消えなくなっているものだと思っていたが、身体の年齢に心が引っ張られて感じた罪悪感に何ともいえない感傷に浸っていた
「お嬢様、マナーのお勉強のお時間になりました」
本当に忙しくなった…
いつもなら庭で優雅に紅茶を楽しんでいる時間なのに、今は鞭を持ったメイドのメイリンが見える
「疲れてるのかしら私・・・」
「えぇ、お嬢様が余計な事をしたせいで私も忙しくなって疲れていますので、さっさと動いて下さらないなら私も優しく出来ませんよ?」
そう言って手に持っていた鞭をピシッ!と両手で伸ばす
「幻覚じゃなかった!」
メイドであるはずのメイリンが鞭を持って現れるなんて本来なら有り得ない事だ
「侍女長に『お嬢様と一緒に王宮に上がるのですから、あなたもしっかりマナーを身に着けなくてはいけませんね』と言われて、大変厳しい指導を頂いているのですが、そんな状況を作り出した張本人がまさかマナーの授業から逃げませんよね?」
普段からマナーに関してはただでさえサボり気味なのに、お父様が王宮から連れてきた新しいマナーの講師が大変厳しい方だった
厳しいマナーの授業に堪えかねた私は侍女長に「私の王城での御付きはメイリンにお願いしますわ」の一言で見事にメイリンを巻き込んだ
( オーホッホッホ! 今まで主を蔑ろにしていた報いですわ!! )
そして、その恩恵を受けてメイリンも個別にマナーの授業が行なわれて今のようになってしまったらしい
いつもならマナーの授業へ向かう足取りは重いのだが、今日はメイリンへの仕返しが達成できた喜びと背後から追い立ててくるメイリンから逃れる為の足取りはいつもより想像以上に軽かった…まさに羽のように!




