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自分だけが『音』を『視る』事が出来たなら  作者: るる


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1/8

1話

もし良ければ高評価等よろしくお願いします

音とは何か考えた事はあるだろうか?

 

音とは、物体の振動によって波として伝播する現象である。


人間はその波を聴覚器官で検出して「音」として認識している。

それが音の正体である。


もしその「音」が見えるようになったなら、いったいどんな事が出来るようになるだろうか?


——例えば音響。

コンサートや映画館などの音響調整が格段にスムーズになる。


——例えば整備士。

エンジンやモーターから異常な振動や音が出ている場所を、的確に見つけられるだろう。


——例えば医療。

心音や肺音が見えれば、人体異常の発見にいち早く気づく事ができる。


——例えばゲーム。

サバイバルゲームやFPSで音が見えたらどんな敵も確実に見つけられる。


これは突然その「音」が見えるようになった元天才ピアニストが、その能力を駆使して消防の特別救助隊として、


がれきの中から聞こえにくい助けを求める声や叩く音をなどを視覚的に追跡し、人々を救助していく物語である。


ピピピピと目覚まし時計が部屋に鳴り響き、薄らと目を開ける。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

 

ゴーーーーーーーゴーーーーーゴーーーーーーーゴーーー

ゴーーーーーーーゴーーーーーゴーーーーーーーゴーーー

 

ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン…


「ウッ……」

俺が目を覚ますと自分の心臓の音や目覚まし時計の音。

エアコンの音など、全ての『音』が視覚情報として自分の「目」に飛び込んでくる。

 

フゥー、と息を吸い込み意識を集中しその「目に見える音」の情報を「OFF」にする。

 

「……フゥ」

 

すると「通常の人」と変わらない「目」に戻る。

……朝は苦手だ、起きたばかりはいつもこうなってしまう。


ダブルベットから体を起こし身支度を整える為にリビングに向かう。

 

リビングに入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは

大きなピアノ。

 

そのピアノの前に立ち、コーヒーを飲みながら指でなぞる。

 

「今」はもう、まともに弾くことも出来ないと分かっていてもつい音を鳴らしてしまう。

 

「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」「ド」


こうやってピアノを鳴らすと昔を思い出す。

 

天才ピアニストとして数々の賞を貰い、ピアノ界ではとても有名な

『ショパン国際ピアノコンクール』への参加資格も手に入れた輝かしい過去を。

 

…突然、通り魔にナイフで刺されて生死を彷徨う事になるまでは。

 

一命は取り留めたがそのせいで繊細な指の動きができなくなった……。

 

俺のピアニストとしての人生はそこで終わったんだ……。


「あの時は荒れたな……。」

あれからもう5年か……。

『もう今までのようにピアノを弾くことは出来ない』

 

医師にそう告げられた時はこれまでの人生を否定されたようで自暴自棄になった時もあった。

 

でも、その時から俺は——「音」が見えるようになっていたんだ。


そしてリハビリを続ける中で、俺は考え続けた。

『もうピアノは弾けない。なら、この力を何か人の役に立てられないだろうか。』


一度前を向くと決めてからは早かった。


俺を救ってくれた医師。

毎日励まし続けてくれた看護師。

 

そして

——同じ通り魔事件で俺を庇った為命を落とし、その心臓を託してくれた兄。


あの人たちに報いるためにも、今度は俺が誰かを救う番だ。

 

そうして俺は、人を救う仕事——消防士の道を選んだんだ。


ーーーーーーーーー


「よし、今日も一日頑張ろう」

こうして今日も俺は自らの職場である消防署に向かうのであった。


消防署の重い扉を開けると、いつものように仲間たちの賑やかな声が響いてきた。

 

「おはようございます!」

「おう、タクマおはよう!」

 

「おはようございます、高橋さん!」

朝の消防署は、いつもこんな調子だ。

 

笑い声が絶えず、くだらない冗談が飛び交う。

『常に気を張っていては精神が消耗し、いざという時に正常な判断ができない。緩める時は全力で緩めろ』

 

それが隊長の方針だからこそ、ここにはいつも居心地のいい空気が流れているんだ。

 

だが、ひとたび出動要請(指令)が下れば、その空気は一瞬で霧散する。

 

誰一人としてふざける者はいない。

全員が、人の命を救うために自らの命を懸けるプロの顔になる。ここは、そういう場所だ。

 

俺はこの消防署の特別救助隊——通称『レスキュー隊』に所属している。

 

火災、交通事故、土砂災害、建物倒壊。

人命救助が必要な現場なら、どんな最前線にでも駆けつける。

それが今の俺の誇りだ。

 

危険と隣り合わせの過酷な仕事だが、チームの誰もがこのオレンジの服に強い誇りを持っていた。

 

……まあ、もっとも。俺には一つだけ、誰にも話さなくなった秘密があるのだが。

 

消防士になったばかりの初々しい頃、一度だけ自分の能力について話したことがあった。

 

「俺、音が見えるんです」と。

 

結果は言わずもがな、誰も信じなかった。

信じないどころか、真面目に聞く耳すら持ってもらえなかった。

 

あの時はさすがに少し凹んだが、突拍子もない話なのは重々承知している。


「普通はそう思うよな」とすぐに割り切った。

それ以来、この能力のことは完全に胸の奥に仕舞い込んでいる。

 

信じてもらえなくてもいいんだ。

目の前で助けを求める命を救うこと。それが俺の任務であり、ここにいる理由なのだから。

 

「そういやさ、最近のタクマって、ぶっちゃけ神がかってねえ?」

 

過去の記憶に浸っていると、ベンチプレスで汗を流していた先輩隊員の一人が、バーベルをラックに戻しながら口を開いた。

 

その一言をきっかけに、周囲でプロテインを飲んでいた仲間たちが一斉に俺を見ながら頷き合う。

 

「ああ、それ俺も思ってた。この前の住宅火災のときもさ……」

 

「そうそう!二階なんて煙が濃すぎて一メートル先も見えなかっただろ?

普通なら壁づたいに一部屋ずつ検索していくのが基本なのに、タクマの奴、迷わず奥の子供部屋まで一直線に突っ込んでったんだよな」

 

「それ、活動報告書で見ました!途中の部屋、一回も確認しなかったって本当ですか?」

 

「マジマジ。俺、後ろついてって焦ったもん。

 

なのに『こっちだ!』って迷いなく走り出して、本当にベッドの隙間で倒れてた女の子を抱えて戻ってきた。あの時はマジで鳥肌が立ったわ」

 

隊員たちが「すげえよな」と口々に言い合う。

 

「隊長も驚いてたよ。アイツのいざって時の『勘』は異常だって。そのあとの報告書、つじつま合わせるのすげー苦労したらしいぜ?」

 

「ハハハッ!俺なんてその後、隊長から『現場ではとりあえず高橋の後ろだけ死守してついて行け』って言われたしな!」

 

ドッと署内に笑い声が響き渡る。

しかし、話はそれだけで終わらなかった。

 

「いや、勘っていうなら、この前のビル倒壊現場もだろ」

別の隊員が真剣な顔で言った。

 

「レスキュー犬すら反応しなかったがれきの前で、タクマだけが『ここです、ここにいます』って言い切って一目散に掘り始めたんだ。

 

そしたら、本当に数分で隙間から生存者が見つかった。あれは正直、奇跡だと思ったよ」

 

「ちょっと怖いくらい当たるよな。……お前、さては天才の類か?」

 

仲間たちからの称賛の視線を受けながら、俺は一人、静かに目を瞑った。

 

少しだけの優越感と、ほんの少しの寂しさを混ぜ合わせたような、妙な気分に浸る。

 

(本当は違う。勘なんかじゃないんだ……)

 

助けを求める声が、がれきを叩く微かな振動が、俺の目には鮮やかな「音」としてハッキリ見えていただけだ。

 

……もっとも、その事実を知るのは、世界中で俺一人だけでいい。どうせ言ったところで、誰も信じてはくれないのだから。

 

「よし、朝礼を始める!全員集まれ!」

突如、隊長の野太い声が署内に響き渡った。

 

さっきまで下らない話で笑っていた隊員たちの表情が、一瞬で引き締まる。

 

一瞬で空気がピシッと張り詰める。

この恐ろしいほどの切り替えの早さこそが、俺がこの人たちに命を預けられる最大の理由だ。

 

俺もキャップを深く被り直し、素早く列に加わる。

今日もまた、世界のどこかで発せられる、誰かの「助けて」を見逃さないために。


全7話予定です。


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