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#70

 発砲音が、絶え間なく鳴り続ける。

 戦場を、私はただひたすらに駆け抜ける。


(……鈴音が倒れた今、全員を倒すのは困難)


 そもそも、鈴音がいても難しいことだ。だからこそ、狙うべきは別の勝利。

 早くに、援軍が来てくれると助かるのだけれども。


(でも。思った以上に、援軍が遅い)


 私も鈴音も、かなりの時間逃げ回っている。

 後方から来ないのは理解が及ぶ。マルロクの第二層以降で、現在強力な魔物の発生と伴い、それどころではない事態になっている、

 しかし、助力に来る冒険者の姿がないどころか、入口方面からやってくる冒険者の気配すら探知サーチにひっかからない。

 もしかすると、地上側でもなにか起こっているのかもしれない。

 だとすると。……かなり、覚悟を決める必要があるだろう。


「チイッ、化物の分際でちょこまかと小癪な!」


 逃げ回る私に銀弾が当たらないことで、聖銀会の連中が痺れを切らし始める。

 私が空中に逃げられるとわかったこともあり、やつらの思考には私が空へと回避した場合のことを考慮する必要性が生まれた。

 おかげさまで、ほんの少しだけ弾幕が多方に散らばり、薄くなっている。

 まあ、実際のところは。《虚空蹴り》は乱発できないから、あんな動きはできて数回なんだけれども。

 そもそも、先程までの私が《虚空蹴り》なんていう手立てがあるのに使っていなかったのは、使わなかったのではなく、使えなかったという背景がある。

 《虚空蹴り》は、かなり負担の大きいスキルだ。なんなら、私の身体能力では扱えない。

 月村さんとの練習や分析によってある程度固有スキルの性質は判明していて、使いようによっては空中を歩いたりすることだって可能とのことではあるが、とりあえず現状ではそんなことできもしない。というか、先述のとおり、そのままでは使えない。


 では、どうして今の私が使えているのか、といえば。《獣化》による身体機能の強化があるからだ。

 《虚空蹴り》を使用するには足りない範囲を《獣化》によって無理矢理に補填している。

 これが、私がまだ固有スキルを保持、使用できる段階ではないにも関わらず、強引に使用できているカラクリ。


 だから、あんまり連発はできないし、使えるとしても使わないほうが吉ではある。

 こと、今のように。いかにして時間を稼ぐかという持久戦に於いては、スタミナを大きく削る《虚空蹴り》は体力切れを早める要因になりかねない。


(――っ、はやく)


 《獣化》の影響もあり、銃弾を躱すだけであればわけはない。

 しかし、当然に《獣化》中は魔力の消費は激しくなる。とはいえ、現在生命線である《獣化》を解くわけにはいかない。

 それに、躱せる速度であるとはいえ、それでも数はとてつもなく多いわけで。


「まずい――」


 銀弾を躱した先にも、別の銀弾。それらを回避した先にも運悪く、今にも銀弾を放たんとしている聖銀会の人間の銃口。

 ずっと躱し続けていれば、偶然にそんな状況になることもありうるわけで。目の前のその状態に、歯を食いしばる。

 無理矢理にでも合間を縫っていくか。あるいは、消耗覚悟で上に退避して《虚空蹴り》を使うか。

 いや、上は無理だ。そっち側にも銀弾がある。

 なら、なんとか隙間を見出して――、


「《聖光ホーリーレイ》ッ!」


 そんな声が聞こえて。同時、一筋の光線が戦場を駆け抜けて、私の正面にいた聖銀会の男の手を焼いた。銃口が、ブレた。これなら――、


「ふふっ。陽鞠さんがこっそり特訓をされておりましたからね。私も、頑張っていたんです」


 動かない左半身で無理矢理に盾を構えながら、なんとか動いている右半身を真っ直ぐに伸ばす鈴音。間違いなく、今の《聖光ホーリーレイ》は。


「鈴音! あんた、大丈夫なの!?」


「全く、大丈夫ではありませんの! でも、なにもできない、というわけではありませんので」


 体内の魔力は依然としてかき乱れており、まともには扱える状態ではない。

 しかし、十分な時間をかけて丁寧に魔力を練りあげれば、動く右半身だけで無理矢理にスキルを行使できなくもない。


「無茶してるんじゃないわよ、全く」


「それは、お互い様ではないでしょうか」


「……そうね。助けてくれてありがと」


 私は、小さくそう返す。


「腕も、脚も。まともに動きはしませんが。それでも、私にもやれることはありますから」


 えへへ、と。鈴音は小さく笑ってみせる。


 聞いていた話では、鈴音は発動系のスキルはまだあまり得意ではないと……いや、発動にはまだ時間を要するから、実用段階になってない、が正確だったか。

 それを、この魔力が乱れた中でやってのけた。……はたして、これを苦手と称していいのか。

 まあ、先程の彼女の発言を鑑みるに、特訓をしていたとのことだし、その結果なのかもしれない。

 ……というか、しれっと流しかけていたけど、私が夜な夜な特訓をしてたの、バレてたのか。いやまあ、毎晩やっていたわけだから、いつかはバレるとは思っていたけども。


「とはいっても、次の準備までにかなり時間はかかってしまいますから、あまり期待しないでくださいませ」


「大丈夫。十分だわ」


 むしろ、あまりにも鈴音が脅威とみなされて、こちらに聖銀会の連中が流れてしまうと、それはそれでまずい。

 今でこそ、魔物然とした姿をした私がいるから敵視ヘイトを稼げてはいるが、鈴音にそれらが向いてしまうと、腕も脚もまともに動かない彼女ではピンチに陥ってしまう。


「鈴音、あと、もうひと踏ん張りだから。……もし、だめそうなら千癒さんのところまで戻ってくれていいけど」


「陽鞠さん。ここまで来て、それは無粋というものですわ。最後まで、お付き合いいたしますの!」


 ……まあ、万一のときは千癒さんのほうからすっ飛んてくるだろうし、大丈夫だろう、と。そう信じておこう。


 あと、もうひと踏ん張り。正確には、どれくらいかかるか、なんてことは皆目見当もついていないけれども。

 勝機は、間違いなく。少しずつではあるかもしれないけれども、じりじりと近づいてきているはずだから。






「ぐっ、いい加減、諦めたらどうっ!?」


「それは貴様らのほうだ。疲れが顕著に見えてきているぞ。早くに救済を受け入れるといい」


 躱すために、ひたすらに走り回っていて。加えて《獣化》の影響もあって、どんどんと体力が底をつきそうになってきている。

 ときおり、鈴音もアシストをしてくれてはいるが。彼女自身もギリギリで戦っている状態。

 あがった息を無理やりに制御しながら、状況を見る。


「くっ」


 放たれた銃弾を見切りながら、絶えず、走り続ける。

 はたして、どれくらいの時間がたったのか。


 まだ、援軍は来ない。前からも、後ろからも。

 ということは、なんらかの原因があって地上からは来れていないし、出現した強力な魔物も、まだ討伐が叶っていない。


 なんとか、早くに誰かが来てくれれば――、


「陽鞠さっ、《ホーリーレ――」


 鈴音の声で、気づけた。

 気づくのが、遅れた。


 くっそ、集中が切れかかっていたのは、自分でも理解していた。だからこそ、鈴音が食らったのと同じようになる、ということは避けようとは意識していたのに。


 鈴音の《聖光ホーリーレイ》が真っ直ぐに戦場をに貫いてくる。しかし、それよりも先に。

 銀弾が、私の背後から襲いかかってくる。


 そして。銀弾は。

 右腕を、貫いて。


 同時。着弾した上腕から拡がってくる違和感。気色悪さ。

 なるほど、これは、まさしく存在の否定だ。


 鈴音が動けなくなった、というのも十分に理解出来る。見に受けたからこそ、なおのこと。


 私が体内に魔石を宿してしまっているから、ことさらに効いてしまっているのだろう。もしかすると、このままこれが全身に広がれば。きっと、魔物たちの身体が崩壊したのと、同じ結末を辿るであろうという、感覚。


「っ、なら!」


 覚悟を決める。いや、元々、決めていた。


 左の剣を、右肩の後ろに来るまで、一気に振る。


 幸いにも、右腕だ。利き腕、という意味ではかなりよろしくはないが。とはいえ、今の私は双剣を扱っていて、左腕でもそれなりに戦える。


 それに、なにより。右腕は。

 ――かつて、一度喪った腕だ。なにを、躊躇う必要があるか。


「あがっ、いぎ、があっ!」


「陽鞠さんっ!」


 上腕の肉を、周辺ごと削ぎ落とす。

 猛烈な痛みに耐える私の耳に、悲痛な鈴音の声が届く。


 思わず意識が吹き飛びそうになるが、なんとか堪える。

 血が、吹き出るが、ひとまずまだ致命ではない。

 もっとも、リミットも長くはないけれど。あのまま、崩壊してしまうよりかはよっぽどマシだ。


 判断を惜しまなかったこともあり、腕をすべて落とすことなく、銀弾の影響を抑えられた。まだ、少し残っているが、これくらいなら問題はない。

 とはいえ、わずかには残った銀弾の余波、そして痛みに起因する損傷により、十分な制御を要する《獣化》の維持が保てなくなり、元の姿に戻ってしまう。


「ぐぁ、……はぁ、はぁ」


「捨て身の覚悟、だったようだが。その状態ではむしろ苦しみが伸びるだけであろう。さあ、我々の救済を――」


「受けるわけないって、言ってるでしょ! ぐっ……」


 血が少しずつ不足してきて。足の動きも、緩慢になってくる。


「まあ、もっとも返答など聞いてはいないが――」


 銃口が、私に向く。

 くっそ、足が。躱さないと、いけないのに。


 やつらの指が、引き金にかかって。

 トリガーが、引かれ――、


「《爆閃光フラッシュバン》ッ!」


 鈴音の声。そして。

 背後から撒き散らされる、強力すぎる閃光。

 乱反射で私の網膜へと入ってくる光量だけでも網膜が焼かれそうになるその閃光に、当然聖銀会は目を瞑らざるを得ず。

 トリガーを握りこむ瞬間に、その銃口が虚空を向く。


「ぐっ、小娘。無駄な抵抗を。心配せずとも貴様も、この化物の娘を救済した後に、同じく救済を齎してやるというのに」


 鈴音は、半ば地を這うようにしながら、なんとか動く右半身だけで私の方へと近づいてきて。その盾を構える。


「そんな救済不要ですの! それに、何度も言っているように、私も、陽鞠さんも。れっきとした、ただの、人間です!」


 力強く、鈴音はそう言って。


「陽鞠さん、盾の陰に」


「なに言ってるのよ。鈴音も、まともに左半身動いてないんでしょ?」


 まだ、連中は目がまともに見えていないのだろう。銃口をあちこちに向けながらに乱射をする。


 それを受けようと、鈴音が構えた盾に。

 私は、かろうじて動く左腕を添える。


「生き残るのよ。ふたりで」


「……はい!」


 盾は、ふたりを守るにはいささか心許ない大きさで。

 けれども。


「この数なら、まだ。なんとか」


 狙いの定まっていない銃弾は、こちらに届く数が、限られている。

 とはいえ、ふたりとも、もう力もギリギリで。盾で銃弾を受ければ、伝わってくる衝撃に、顔をしかめて。


 それでも。


「あと少し、きっと、あと少し――」


 朦朧とする意識を、無理やりに叩き起こしながら。

 諦めずに。立ち向かっう。


 ターンッ、ターンッという忌々しい銃声が鳴り響く戦場。

 ただ、ひたすらに盾を構え続けて、しばらく。


 だんだんと彼らの視界も戻ってきたのだろう。こちらをしっかりと狙ったものが増えてきて。


 対する私たちはというと、盾は構えてはいるものの、大きさは不十分。

 飛んでくる銃弾に合わせて移動をさせてきたが、負傷と疲弊により、その動きも鈍くなってきて。


「これで、終わりだ――」


 ひとりの男が、しっかりと狙いを定める。

 無論、狙いは私たち。


 カチャリ、と。トリガーの握りこまれる音がした。

Tips:星宮 鈴音

 スキル適正は光系統。光系統スキル自体の扱いが高難易度ということもあり、戦闘に組み込むのは困難になっていたが、陽鞠が支樹と個別の特訓をしている間に千癒に特訓をつけてもらい、少しずつ扱えるようになってきている


Tips:小夜 陽鞠

 冒険者としての活動の経緯や、自身の戦闘スタイル。これまで魔力を十分に吸収してきておらず、保有魔力量が少なかったことなどもあり、まだ適正スキルの診断をしていない。

 適正スキルよりも先に固有スキルが判明しているというなかなか稀有なケース。




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