魔王の意企
「わぁー!!セル様、すごいです!!キレイ・・・」
ユリは、今夜も楽しんでくれている様だ。
中庭と四阿を照らす小さな沢山の灯りは、試行錯誤しながら創った。ユリが前に『すまほ』で、見せてくれたものと同じ、いるみねーしょん、と言うやつだ。上手く出来ただろうか。
出会った頃は、肩より短かった髪も、随分伸びた。長くなった髪を風に揺らし、私の手を優しく握り、私の隣で、沢山の小さな灯りに照らされた中庭を嬉しそうに歩く。
私が今夜、四阿で食事をしようとユリに提案したのには、理由があった。
ユリがこの世界に来て、私の元に来てくれて、もうすぐ一年が経つ。
ユリは私の妻として、夫婦としてやってきてくれたが・・・思えば、私はユリに愛しいと告げる事はあったものの、妻になって欲しいと伝えた事は一度も無かった。
今更と笑われるかもしれないが・・・私はユリにきちんと言葉にして伝えたかった。
あの壊れてしまった腕環は、ユリの高祖父上の石も使い、漸く新しく造り出す事が出来た。だが、今度は腕環ではない。
私が嵌める指環と同じ形の、指環にした。
指環が完成したら・・・その時こそ、ユリにこの気持ちを伝えようとずっと考えていた。
身体が快復して、ユリに指環を造ろうと決めた時、私はユリの高祖父上の文を何度も読み返した。
『貴女が湖で幻の様に消えてから、随分と時が経ちました。貴女は遂に見つからなかった。貴女もいなく、罪人である私に帰る場所などなく、後を追おうとしましたが・・・結局死ぬことが出来ませんでした。愚かな私をどうかお許しください。
廃人の様になってしまった私を救ったのは、『医者になり病を治す』という貴女と交わした約束と、私の命を救ってくれた一人の娘でした。その娘は私を叱責し、諭し、常に傍で私の心を慰めてくれました。
其れから暫く後、私は医者になりその娘と結婚しました。
息子を授かり、孫も産まれました。この国は、随分と変わりました。戦争に、東京の大震災。街も人も何もかもが変わった。愚かにも・・・私は生き延び、いまこうして貴女への最後の文をしたためています。
貴女はきっと、美しいあまりに神が連れ去ってしまったのでしょう。駆け落ちなどしようとした私への罰だったのかもしれない。
私を思い慕ってくれる娘と結婚をしたとき、私は貴女を忘れようと貴女からの文を焚き付け、燃やしてしまいました。だが、どうしても一枚だけは燃やせなかった。貴女と二人で一つの護符石も、貴女が拵えた御守り袋も。
この石の石言葉は、永遠の命と最愛の人です。それに、もうひとつ、情熱と言う意味もある。
泡となって、消えた貴女を今でもこの石が守ってくれているのでしょうか?ああどうか、そうであってほしい。愚かな私の願いです。
私亡き後、文と石の入った御守り袋を、あの湖に投げるよう、私の孫に言伝てました。
私の心はいまも変わっていません。紅玉石の石言葉の通りに、今でも。私は貴女を愛している。
どうか、この片割れの石が貴女の元へ導いてくれますように。貴女とまた一緒になることができるよう・・・祈り願っています。』
以前の私ならば理解できなかった、いや、理解しようとも思わなかっただろう。今ならばその言葉の意味が理解できる。
(愛しい、私のユリ。)
それから、指環を完成させるまでの間、今夜の為に、私は少しずつ準備をしてきた。ユリには見つからぬ様に、少しずつ。
(今ならば花も見頃だ。静かな夜、灯りに照らされた中で、ゆっくり花見をするのも悪くないだろう。暑すぎず、寒過ぎない日に。折角なら、月が出ている日の方が良いだろうか・・・。)
今夜の準備を進めながら、後はどの頃合いで切り出そうかと日々考え続けていた。ユリと四阿に座った今も実はきっかけが掴めずに、考えている。早く言わねばと、決意して閉じた眼を開けると、ユリが此方を不思議そうに見つめていた。
ユリのいつもと変わらぬ愛らしい、愛おしい表情を見て・・・今こそその時だと感じた。
「ユリ。」
意企 いき 伝達することを意図して計画すること。




