JK、イケメン魔王に笑われる。
涙でまた視界がぼやけてる。困った様子のフェイさんがベッドの上のわたしに手を伸ばそうとした時、冷たい声がした。
「我が王の仰せのままに、お妃様、失礼いたしますわ。」
にこっと微笑んで、フェイさんが、消えた!?どうなってるの!?またパニックになるわたしの前に、いまフェイさんがいたその場所に、突然黒いカタマリが現れた。
「お前達の会話は、すべて聞こえていた。こうなると思ったから子供は嫌だったのだ。」
黒いカタマリは、美しい人の形になった。またため息をつく。っていうか、わたしだって、嫌なんですけど!?
いくらイケメンでも、結婚なんてまだ早すぎる、お父さんお母さんお兄ちゃん、おばあちゃんに、学校の友達、みんなに会いたい、夢なら早く覚めてほしい、夢見てる時にこれは夢だなんて思ったことも無かったけど。
(帰りたいーーー・・・。)
涙でもう目の前にいる人は見えない。声は出ないけど、子供の時みたいに大声で泣いた。
(・・・っく、・・・泣いて、も、覚めない・・・。)
あれからどれぐらい泣いてたのか、泣き疲れてきた、久し振りにこんなに泣いた。目の前の人は、ずっと動かない。目をこすりながら顔を上げると、その人の赤い目と、目が合った。
(眉毛が下がってる・・・怒ってない、心配、してるの・・・?っていうか、魔王、だっけ・・・。)
無表情に近いけど、心配そうにこちらを見つめてる、ずっとそうしてたのか、立ったまま、動かない。なにこの人。生きてる・・・?
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
お互い何も言わず、見つめ合ったまま動けなかった。こんな風に人と見つめ合ったの人生初かも・・・こんなキレイな男の人と!急に恥ずかしくなって、目をそらした。
「・・・・・・少し落ち着いた、か。無理もない、急なことで、混乱しているのはわかっている。怒ってはいない。」
声が柔らかく、なった?でも、ため息はついてない。魔王はゆっくりと、囁くように言った。
「・・・召喚の儀は、我らの身勝手だ。手荒な真似をして、すまなかった。」
ボソ、ボソと小さな声になる。さっきまでのよく通る声は、どこいった?魔王って、こんなだっけ?
(・・・家に、帰らせてもらえませんか。)
なんか泣いたら今度はイライラしてきた、なんでこんなところにいるんだろう、この人が呼んだんなら、帰すことだってできるでしょう!!
魔王とか聞いてたけど、目の前のこの人は申し訳無さそうにしてるし、無表情だけど。頼んだら、家に帰れるんじゃない?
「悪いが、それは出来ぬ。お前は、これからこの城で暮らすのだ。・・・私の妻として。」
(はあ!?いま、謝ってたよね!!??魔王なんじゃないの!?魔王って、魔法とか、使えるよね!?)
思わず叫んでしまったが、声にはならない。パクパクと口を動かすわたしを見て、魔王が、笑った。・・・笑った!?
「っくく、ああ、すまない・・・いや、思いのほか、お前の表情が・・・くるくると変わるので面白くて・・・く、う・・・」
なにがツボに入ったのか知らないけど、なんか、口抑えて震えてるし、あ、魔王ってやっぱ手袋してるんだー、あ、この人ツノも生えてる、マントの下はなんか着物みたいな服着てるんだ、ズボン履いてないのかなー・・・って、そうじゃなくて!!なんか、失礼じゃない?人の顔見ていきなり笑い出すとかさあ!
(あの!!なんで、帰れないんですか!?魔王、なんでしょ!?)
なんかもう全然怖くないし、泣きすぎて涙も出ないし、こっちは怒ってるのに笑ってるし。夢じゃないなら、とにかく早く帰らせてほしい!!!
「く・・・ああ、そうだったな、いや、帰らせてやりたいのだが、元の世界に還す方法が存在しないのだ。」