魔王の提案
美味、だな。
ユリが私の為に用意してくれたものは、街で飲んだ紅茶、という茶とけーきという菓子だった。
このけーきには、畑で取れた人参が使われているらしい。柔らかく、甘く、口の中で蕩ける。まるで、あの時のユリの唇の様だ・・・。
「おいしいですか!?」
ユリの黒い瞳が、此方をじっと見つめる。ああ、物思いに耽ってしまったな。
「うむ、これも初めて食したが、なかなかに美味だ。ユリは、何でも作れるのだな。」
「それ、おばあちゃんの直伝のレシピなんです!ちっちゃいころはニンジン嫌いだったけど、それ食べたら食べれるようになりました!」
ユリの祖母上との思い出の味か。
勿体無くて、ゆっくりと味わう。うむ、この紅茶にも良く合うな。これは美味い。
ユリも懐かしそうに美味しそうに人参のけーきを食している。この時間こそが至福というのであろう。
「ユリは、毎日楽しいか?」
私といて、飽きたり寂しい思いをしたりは、していないだろうか?
「はい!毎日楽しいです!みんな優しいし・・・それに、セル様もいるし。」
ユリは頬を染めて両の手で顔を抑える。だが、黒い瞳に何か戸惑いの様なものが過った。
「・・・夜とか、静かになると、部屋で1人になると、家族とか友達の事思い出して泣きそうになっちゃうけど・・・。」
そうか、あの広い部屋では寂しかったか。無理矢理に此方に連れてきてしまった。己の事しか考えず、浅慮だったと思う。
「ユリは、元いた世界に帰りたいと、思っているのだな・・・。すまぬ・・・。」
「えっ、そりゃ寂しいですけど、でも帰れないし、もし帰れたとしても、セル様にも会えなくなっちゃうじゃないですか!」
解っている。しかし、還す方法は今無いが、探す事は出来るだろう。私の魔力を持ってすれば、決して不可能では無いかもしれない。
「ユリ、今は方法など無いが、お前の為ならば、元いた世界に帰れるよう、方法を探そう。」
ユリは黒い瞳を見開き、またじっと此方を見る。何か考えている瞳だ。
「・・・それって、セル様は、私に帰って欲しいって、事ですか?」
哀しそうな瞳に変わる。違う、そうではない。本当はユリを離したくなどない。私の側に居て欲しい。私だけを見ていて欲しい。だが・・・
「・・・そうではない。お前を愛しているのだ。側に居て欲しいという気持ちは変わらぬ。しかし、ユリに寂しい思いをさせたくは無いのだ。お前には、何時でも幸福に、笑っていてほしい。」
ユリは此方をきっと睨み付けると、言った。
「わたしはセル様の側にいるのが幸せです!セル様と会えなくなっちゃったら、笑ったり、できない!」
立ち上がって一気に捲し立てると、ふうと、一息ついて座り、茶を口にする。
震えるような、喜びの感情が、私の中に広がる。ユリは私の側に居たいと言ってくれた。しかし、ユリの寂しさを少しでも解消するならば、どうしたら良い?
帰る方法は、無論オーム達に言って調べさせよう。あの時贈れなかった首飾りは、未だ執務用の卓の引き出しの中に仕舞ってある。いつ渡そうか、考えあぐねていた。だが、そんな物で、ユリの不安や寂しさなどが紛れる筈もなかろう。目下の不安を解消するにはどうしたら・・・そうだ。
「ユリ、提案だが・・・部屋を移らないか?夜は、私の部屋に、来れば良い。」
言ってしまってから、しまったと思った。ユリと同衾など、今の私が耐えられる筈もない。
提案 ていあん 案を出すこと。また、その案。




