飾りの笑顔
庭での話し合いを終えて私達はお父様達のいるサロンへ戻って来た。
「おお二人とも、戻って来たのか」
「どうだ、親交は深められたか?」
「ええ、とても。彼女は素敵な人だ」
また先程の笑顔。よくもまあ思ってもいない事をこんなに爽やかに言えるものだと感心する。
「ありがとうございますマルセル様。マルセル様こそ私には勿体無いほど魅力的な方ですわ」
そう言ってマルセル様を横目で見るとほんの一瞬だけ彼の口元が引きつった様に見えた。
「そうかそうか!それは良かった!私とロベールの一存で婚約を決めてしまったからな。二人とも気が合うか心配だったのだ」
「まあそうだったのですか?ですが彼はとても理解のある方で私は嬉しいです」
あらマルセル様、また口元が。
先程庭でした会話で変な女だとでも思われているのでしょうか?私達の考え方は似たようなものだと思うのですが。
そこから4人で談笑し、式の日取りなどの予定を立てたところで、私とお父様はデュークリス公爵家を後にした。
結婚式は今から半年後に決まった。
アールノア家に帰り、お母様に今日デュークリス家で立てた今後の予定について話し、一息つく頃にはすっかり夜になってしまっていた。
ベッドに入るとデュークリス家への訪問で意外と疲れていたようで、珍しくすぐに眠る事ができた。
そして月日が経ち、結婚式を3日後に控えたがこの半年近くマルセル様とはお会いしていない。
最初の話し合い通り私には興味がないようで、手紙のやり取りを少しする以外全く関わってくることはなかった。
手紙のやり取りというのも私とマルセル様が二人で会っているという嘘の口裏合わせであり男女でするような色気のある内容は一切無い。
うん、素晴らしいですマルセル様。これが私の求めていた婚約者です。
お父様とお母様もよくマルセル様と上手くいっているのか聞いて来ますがマルセル様は私と似た考え方を持っているので実に上手くいっていると言えるでしょう。
そう思い笑いながら大丈夫だと言えば二人ともとても嬉しそうにします。
こればかりは両親を騙しているようで罪悪感がありますが。
式の準備のため王都の教会に入り当日の流れをしっかりと頭に詰め込みます。
国一番の貴族であるデュークリス家の結婚式ともなれば国中から様々な方がいらっしゃいます。周りの人達に恥をかかせないように気を引き締めていかなければ。
そうして時間が経ってデュークリス家の方々が到着し、挨拶に向かったりしていればもう式当日。
今日ほど晴れやかな空は久しぶりだ。
王都中に鳴り響く鐘の音を聞きながら周りをうかがえばたくさんの人。
一度にここまで人を見るのは初めてかもしれませんね。
緊張することなく祭壇で待つマルセル様の元へ歩いて行きます。今日のマルセル様は式用の正装に身を包みただでさえ美しい容姿がさらに輝いて見えます。
ええもう視界に入れるのが煩わしいほどに。
神官様の前で誓いの言葉に内心愛?と首を傾げながらも宣誓しマルセル様と向き合います。
「それでは、誓いのキスを」
ベールが取り払われ無駄にキラキラした顔が近づいて来ました。
ああ、そういえばこれがファーストキスになるんだなーー。
浮かんだ感想も特になく神官様に優しく促されマルセル様と並び立ち振り返ります。
嬉しさに涙するお母様や何処か寂しそうに此方を見るお父様。誇らしげに微笑むロベール公爵や祝福する貴族の方々や親の仇の様に私を睨みつけるご令嬢達。
それらを見渡しマルセル様と私は笑い合う。
お互いが浮かべる笑顔の心の内は私達だけが知っていた。