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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうして勇者様は魔境へ向かう
182/182

181.空をいく夜

あけましておめでとうございます!




 舞踏会は粛々と、まるでお通夜のような雰囲気を一部に残して始まりました。

 原因は、明確です。

 ええ、一部から勇者様が魔境に行っちゃう情報が漏れているせいですね(笑)

 引止め工作が恐らくえげつない事になるだろうと、まぁちゃんと2人でわくわくしています。

 今夜の主役は、勇者様だから。

 私達は(あらかじ)め企てた計画通り、会場の隅っこ…テラスへ通じる場所の、柱の影に待機中です☆

「準備はこんなところで大丈夫ですかね…!」

 ええと、全員揃ってるよね?

 まとめた荷物(おみやげ)は、まぁちゃんに謎の空間に収納してもらったし。

 ロロイとリリフはいつでも竜型になれるよう、ちゃんと待機しています。

 ふらっと消えないよう、せっちゃんはまぁちゃんが抱っこ中で。

 むぅちゃんはこっそり勇者様に見咎められないように集めた荷物を確認中。

「むぅちゃん、それもまぁちゃんに亜空間にしまってもらおうよ」

「ちょっと待って。ポイズン草を一束、何処かに落としたかな…?」

「わあ、大変」

 ポイズン草…?

 え、そんな愉快な名前の植物がこの国に?

 ………後でむぅちゃんに分けてもらえないか交渉しよっと♪

「危険物を落としたんですか。探してこようか?」

「モモさん」

 むぅちゃんが腕組みして考え込んでいると、そろり声をかけてくる青年。

 ピンクの首輪が今日も目に眩しいね…!

「んー…モモさんが離れている間に状況が動いたら、回収できなくて置いてきぼりにするかもしれないし。ポイズン草は惜しいけど、また採取に来れば良いんだし、じっとしてなよ」

「御意」

 魔境へ連れて行くよ☆と告げた時は、引き攣った顔を見せてくれましたが…

 何にせよ、モモさんはもう行き場のない人です。

 ちょっと常識と自重の見えない新天地に連れ込まれても、問題ないよね☆

 本人も、私達の庇護下に下るしかないことはわかってるみたいだし。

「リアンカ、お前は忘れ物ないだろーな?」

「えーと、画伯へのお土産は抜かりなく梱包済みでまぁちゃんの亜空間だし…」

「ちょっと待て」

「え?」

「お前、俺の収納庫に何入れたっ?」

「ヨシュアンさんへのお土産」

「…よし、ちょっと中身チェックさせろ」

「え…っ」

「おい、その反応なんだよ…」

「まぁちゃん、中身を見るのはおススメしないよ?」

「お前、あいつへの土産って何包んだんだよ!」

「………ちょっと、十代の乙女としては口にするのも」

(はばか)るようなナニ入れた!?」

「ヨシュアンさんからのお土産リストに応じただけだよー」

「しかも本人チョイスかっ! …これは、本気で中身改めねーとな」

 これから夜逃げイベントを実行しようという、その時に。

 大量の『お土産』を一つ一つ改めてる猶予なんてありませんよ…!

 だけどまぁちゃんはごくりと、覚悟を決めるように唾を飲み下して。

 今から荷物を改めようと、そんな様子です。

 これは、何とか気をそらさないと!


 そう思った、丁度良いタイミングで。


 舞踏会の会場に、勇者様が現れたんです。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



『皆様、お聞きになりまして?』

『ええ、勿論ですわ…なんてことでしょう』

『あら? どうなさいましたの』

『ご存知ありませんの? 殿下のことですわよ』

『殿下が、何か――』


『殿下が…明日にでも、旅立ってしまわれるだなんて!』


 今宵の舞踏会は騒がしい。

 絢爛豪華な衣装に身を包む淑女の間をさわさわと、ざわざわと。

 捨て置けない情報が駆け回る。

 女性の興味の対象は、いつだって同じ。

 美しいもの、甘いもの、可愛いもの、恋の話。

 そして麗しき殿方の。

 

 宮廷中の注目関心引寄せる、たった一人の王子殿下。

 勇者様に関する噂は、小さなことでも万里を駆ける。

 それが、今後の動向に関わることであれば殊更に。

 そして彼に注目しているのは、女性ばかりではない。


『お聞きになりましたかな?』

『ああ、何とせっかちな事でしょう』

『何もこうも急がずともよろしいでしょうに』

『こちらはまだ、何も決まっておりませなんだ』

『新たな従者(・・)の選定は?』

『決まっている訳がないでしょう』

『それは……こうも急がれずとも、本当に』

『仕方ありませんな…』


 そして、今宵この場所で。

 この状況下において。


 結婚適齢期の淑女方と、中年から老年に差し掛かる重臣(おっさん)達の思惑は完全に一つとなった。


『――何としても、どのような手段を用いても』


 殿下の出立を、阻まねば………と。


 今宵のこれから、この場所で。

 この、舞踏会の会場から。

 勇者様が出立の準備を仲間達に指示していたことなど、露知らず。

 妙齢のご婦人方と油の乗った重臣(おっさん)達は心に決める。

 勇者様にとってはどこまでも苦い、妨害を。


 それを見越していたかのように。

 最初から夜逃げ同然に旅立ちの準備を進めていたのは、正解かもしれない。

 

 貴族達の知らない、その内に。

 舞踏会は、どちらが先手を打つかという殺伐とした戦場と化しつつあった。


 その状況を客観的に把握し、成り行きを理解している者。

 それは…貴族達の動向をテラスから観察していた数名。


 リアンカ達は双方の思惑を把握し、顔を見合わせて頷きあった。


「取りあえず、対策必要かな」

「投網の一つも準備してりゃ大丈夫だろ」


 果たして、貴族達は無事で済むのだろうか…。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 出立を決めたその足で。

 しかし何も言わずに旅立てる程、奔放には生きられない。

 だからこの舞踏会を別れの挨拶の場にさせてもらって、関係各所に挨拶をしているのだけれど。

 気のせいかな。

 何故だろうか………


「………先程から、凄い悪寒がする」


 そして、この這い寄る不安と危機感には、物凄く身に覚えが…

 確認せずとも、わかる。

「くっ…女性に襲撃される前兆だ」

 改めて意識したり警戒したりせずとも、高確率でそういう気配が察知できるようになった我が身が物悲しい。

 相手が素人集団の貴族女性達なら、予感はほぼ確実だ。

 ………いや、力量でもあげてきたのか、最近(たま)に察知できない時もあるけど。

 それでも、高確率で襲撃の気配がわかるのは経験のなせる業か…正直、辛い。

 物凄く便利だけどな!

 幾度となく、この感覚に助けられて生きてきたがな…!

 それでも、やるせなくて切なかった…。

「この感覚だと………長居は、危険だ」

 俺の勘が告げている。

 四半時もせず、囲まれる…!


 幸い、挨拶は既に粗方終わっていた。

 旅立ちの名目も、父上への謁見の際に説明している。

 このまま逃亡しても、恐らく父上が俺の意を汲んで周囲の納得がいくように説いてくれるだろう。

 ………もう成人済みの身で、父上にそこまで甘えるのも心苦しいけれど。

 だけど、今を逃すと身の危険が跳ね上がる。

 そんな気がしたし、この上なく切実だ。

 責任放棄だと眉をひそめられるかもしれない。

 それも、致し方のないことと思ってもらえれば良いけれど。

 父上、これから公の場だというのに、俺は無作法に走ります。

 本当に済みません…。


 心の中で懺悔しながら。

 さり気無く視線の動きだけで周囲を探ってみると…俺を取り囲むような配置で、此方に注意を向ける者が何人も。


 ………八、九、十。

 …………………二十八、二十九、三十。

 ……………………………あれ、五十人…超過?


 身に迫る危機感が、一気にレッドゾーンを駆け抜けた。

 強引に推し進めようという、力技の気配。


 やばい。

 逃げないと、しぬ。


 我ながら、背中を伝い流れる冷や汗の量が正気を疑うレベルだった。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 遠巻きに勇者様を取り囲む、包囲網。

 わあ、囲い漁を見ているみたい…

 これは逃亡に失敗すれば、今日こそ勇者様は人生の墓場に引きずりこまれるかもしれない。

 そんな緊張感が、私達を襲います。

 え、まぁちゃんの顔が笑ってる?

 気のせい。

 ええ、きっと気のせいですよーう?

「ロロ、リリ、変身準備!」

「ばっちり万端です、リャン姉さん!」

「いつでも行ける!」

 私達を待つ形で、ドラゴン少年少女はテラスの柵に足をかけています。

 よし、良い子!

「モモさん、勇者様を陰からサポート! そういうの、得意でしょ?」

「承知した」

 短く簡潔に応えて、モモさんは下げられていた覆面をぐいっと上げます。

 そのまま顔を隠せば、戦闘態勢はそれだけで整ったのでしょう。 

 すいっと自然な動作で会場の中へと歩みだします。

 あんな全身黒尽くめ、滅茶苦茶悪目立ちすると思うんですけど…

 何をどうやったのか、モモさんの姿は光の中に紛れて消えた。

 凄い、アレが本場忍者の技なのかな?

 

 自分の状況をいつの間にか認識したのでしょう。

 勇者様って、本当に勘が良い。

 注意して見守っていた私達にはわかります。

 ずっと一緒にいたし、勇者様の動作を見れば何となくわかるよ。

 ぴくっと一瞬、身体を強張らせるような反応。

 勇者様の全身に、緊張が走ったの。

 それから視線は鋭く、ご自身の周囲へと走らされて…

 己を取り巻く包囲網が完成されつつあることに気付いたのでしょう。

 ひくっと、勇者様の顔が引き攣って。

 テラスに潜む、私達の方へと目線が向けられる。

 目配せしてもわからないかと思ったので、私も真面目な顔で頷きました。

 ついでに指で指示して、勇者様包囲網の実態を教えて差し上げます。

 指を立てて、まずは数を。

「まぁちゃん、あれって全員で何人いるのかな?」

「あー………七十八人ってとこか?」

「えっと、じゃあ七、八……っと」

「野郎は家の外に出たら七人の敵がいるっていうが、その比じゃねーよな」

「軽く十倍以上ですからねー…」

「しっかしえらく手馴れた包囲だな? 厚みが均一で、手薄な方位が全然ねーぞ」

「勇者様狩りで鍛えたんじゃない? 今のところ、全戦全敗でしょうけどご令嬢方も頑張りますねー…っと」

「おー…勇者の顔、真っ白だな」

「アレってもはや顔芸の域ですよね」

 私達が悠長に雑談している間にも、勇者様を追い詰めんと令嬢方の包囲網がじわじわ縮められていきます。

 でもその外側をさり気無く囲んでいる、あのおっさん達は何なんでしょうね?


 そうして、私達の見守る中。

 勇者様が動きました。

 じわじわと囲む、百人近い包囲網の真ん中から。←更に狩人増

 彼が選んだのは、強行突破。

 高飛びするのがわかりきっているからこそ、後腐れのない短期決戦です。


 思いつめた顔を、緊張で引き締め。

 青年は、走った。

 走った、走って、目の前に立ちはだかる障害。

 それは厚みのある人垣。

 普通の人間であれば、その囲みを破ることは出来なかっただろう。

 普通の人間、であれば。

 分厚い囲みは、きっと猪を相手にしても弾き返したはず。

 しかし勇者様の場合、まともに正面からぶつかるのは下策だ。

 そんなことをした場合、下手をすると取り込まれてしまうだろう。

 全身に絡みつく、女達の細い腕。

 もみくちゃにされ、絡め獲られる。

 それこそ、蜘蛛の巣にかかった蝶のように。

 そんな未来が、考えずともわかったから。


「…っせい!」


 人垣の、一歩手前で。

 勇者様は強く踏み込んだ。

 まるで溜めるように、効き足に反動を込める。


 次の瞬間、勇者様は空にいた。

 その背に、真っ黒な翼を花のように開かせて。


『ごはん♪ ごはーん♪』


 能天気なヤタガラスの声が、勇者様の身体からみるみる魔力を吸い上げていく。

 だが、そのことに今更頓着はしない。

 自力での高い跳躍。

 高度が頂点へと達し、あとは墜落するのみとなった時。

 皆の頭上に顕現したのは、カンちゃんの翼。

 最近ご無沙汰だった、勇者様のカンちゃん融合ver.!

 

 勢いをつけて一直線に、勇者様の身体はテラスへ…外へと向かう。

 そのあまりの姿に、舞踏会の会場は騒然となった。

 殆どの者が、翼の生えた王太子など勿論初見で。

 国王夫妻ですらかぱーっと口を開けて固まっていた。

 

 一部、目に分厚いフィルターのかかった重度の信奉者達は勇者様に見蕩れて神の如く褒め称えていたが。

 そんな彼らも、勇者様の翼が白くないことに不平を漏らす。

 

 人々は完璧に勇者様の翼へと気をとられ、総じて行動が一歩遅れた。

 神の獣の飛翼は、人々の思惑をすら越える。

 それでも辛うじてギリギリ反応を示し、足を踏み出そうとする凄腕狩人(おじょうさま)もいるにはいたが…


「…っ!!」

 

 瞬間、その足元に飛来したのは鋭い鉄の苦無。

 文字通りの足止めは、令嬢達の足を傷つけることはなく。

 しかし確実に、そのドレスの布を床へと縫い留めていった。

 そして、ついで聞こえた掛け声。


「そぉーれっですのー♪」


 ころころと転がる鈴のような、愛らしい声。

 場違いな掛け声と共に、舞踏会の天に広がったのは…


 頑丈そうな、鉄線の編み込まれた 投 網 。


 投げるだけでも腕力を有するだろうに、その投網は広く、大きく。

 しかし物理的な負担などまるで無視するように。

 令嬢達を一人も逃さないとでも言うかのように。

「きゃぁぁああああっ」

「な、なんですの!? なんですのー!?」

「やだぁ…ちょっと、乗らないで下さいまし!」

「この体勢で無茶を仰らないで!」

「やぁん、殿下ー!!」

 絹も引き裂けよと(つんざ)く、少女達の悲鳴。

 綺麗に大きく丸く広がった投網は、見事に令嬢達を一塊に絡め取った。

 それこそ、鼠一匹逃さぬように。



 一気に排除された障害には目もくれず、勇者様は駆け込み乗車でもするかのようにテラスへと。

 それに続けと滑り込む、黒い影…モモさん。

 モモさんの背には、せっちゃんが背負われています。

 彼らが確実にテラスへと躍り出たのを確認して、私とまぁちゃんが動きます。

「滑り込みセーフっ!」

「発射オーライ!」

 勢い任せの掛け声と共に、テラスに繋がるガラス戸をバンッと閉めました。

 会場からテラスへと繋がる他の出入り口は、既に予め施錠済みです!

「まぁちゃん、そっち!」

「リアンカ、先に行け!」

 まぁちゃんが扉に鍵をかける代わりに、準備しておいた箒で閂をかけます。

 それを尻目に、私もテラスの奥へと急ぎました。


『殿下っ!』

『お待ちくだされ、殿下ー!』


 がんがん、どんどん。

 鈍い音が響きます。


「勇者ー、なんかテカったオッサン共がこっちに来たがってるっぽいぞ?」

「それ、王宮の忠臣達だ! 絶対に来させないでくれ!」

「………忠臣だろ?」

「今は令嬢達と結託してるかもしれない可能性が!」

 わあ、勇者様が毛を逆立てた猫みたい!

 わかった、わかりましたから!

 怖いのは来ませんよー、だから気を静めましょうねー?


 広めに取られたテラスの、空へと続く領域へ。

 私達が駆けて行く様子を確認して、リリフとロロイが飛び降りました。

 人間の子供だったら、惨劇の予感溢れる光景ですが。


 次の瞬間、空に淡く広がる水色と金色の光。

 

 収まった時、そこには小柄な二頭の竜の姿。

 二人の真の姿が、夜闇の中で堂々と威容を誇ります。

 続けとばかり、私達も飛び降りました。

 ここは空の上ですが、大丈夫。

 二人が受け止めてくれるから、私達は死なない。

 あの子達が私やせっちゃんに怪我を負わせるはずがありませんから!


 リリフとロロイはまだ子供なので、二人乗れれば精々というところ。

 リリフにはせっちゃんとモモさんが。

 ロロイには私と、むぅちゃんが。

 後で落ち着いたらナシェレットさんを壷から出すのでしょう。

 勇者様は未だ黒い翼で空に羽ばたき、まぁちゃんは自力で飛んでいます。

 そして私達を待っていたかのように、空へと飛んでくる異形。

 あ、タナカさんだ。


 全員が揃った。

 周囲を見回して、私はそう思いました。


 サルファのことは気にしません。

 奴のことですから、放っておいてもどうとでもなるというか、どうでも良い。

 その内また呼んでもいないのに、ハテノ村に現れるような気がするし。


 空には煌々と明るく輝く銀の月。

 闇に散りばめられ、煌く星々。

 素晴らしき夜空を背景に、見下ろす私達の前。

 急造された閂を突破して、テラスに溢れ出すのは驚愕の色を浮かべた人々。

 何かわやわや言っていますが、全員が一斉に喋っているようで何を言っているのかまるでわかりません。

 わからなくったって、良いんです。

 だって、私達は気にする気皆無ですから!


 だけどこのまま行く訳には、ってことでしょう。

 勇者様が見下ろす人々に、一方的に宣言を下しました。


「――皆、俺は再び魔境へと行く。今日のような災禍が、二度と再びこの王国を襲わぬように…魔王との決着を着け、一刻も早く人々が安心して暮らせるように!

どうか、いつか帰還する日を待っていてくれ!」


 ………くれぐれも、この王国で、と。

 私にはそんな副音声が聞こえたような気がしました。




 こうして私達は堂々と。

 それでいて夜逃げのように。

 驚き騒ぎ、勇者様を引きとめようとする声を振り切って。


 一路、王宮から離れるために。

 東へ、東へと。

 朝日の差す方向へと首を巡らせ、夜空を一気に駆け去ったのです。


 ――魔境、へと。









 まあ、魔境に向かうのは、確かなんですが。

 人々の目を逃れたところでナシェレットさんを壷から引きずり出し、その背中に勇者様が落ち着いたところで。

 相変わらず反抗心一杯の駄竜の首に、まぁちゃんが座って。

 勇者様がほっと息を吐いたタイミング。

 私はにこっと微笑んで勇者様に言いました。

「まあ魔境に帰るって言っても、真っ直ぐ帰るとは誰も言ってませんよね?」

「え」

「俺も急ぎの事案は全部リーヴィルに押し付けたからな。裁量権的に捌けねぇ奴も、まだ放ってて大丈夫そうだし」

「え…!?」

「確か来年…年明けくらいまでなら時間取れるんだよね、まぁちゃん!」

「おー…最悪、年末までふらふらしていられるぞ」

「きゃー! あに様とずっと一緒ですのー♪」

 手放しで喜ぶ、せっちゃん。

 せっちゃんの後ろに座ったモモさんが、慌ててせっちゃんを掴んでいます。

 モモさんてば、大丈夫だって! 

 手放しで立ち上がったって、せっちゃんなら転落する恐れはありません。

 でもそれを知らないのでしょう。

 モモさんはせっちゃんに「危ない!」と必死な顔を見せています。


「ちょ、ちょっと待ってくれ…!」

 

 何処に行こうか、どんなルートで寄り道しようか。

 相談しあう私達に、勇者様の戸惑いに満ちたお声がかかります。

「君達は何を言ってるんだ!?」

「寄り道計画ですが」

「寄り道って…」

「だって勇者様、折角こんな遠方まで来たんですよ? ただそのまま、何もせずに帰るなんて勿体無い!」

「だからってさっきの言い方だと、半年間ふらふらするって言ってるように聞こえるんだが!?」

「そのつもりですが」

「おいー!?」

「何ごとも経験って言うじゃないですか。折角だから楽しみましょうよ♪」

「た、楽しむって………リアンカ、既に楽しそうだな」

「まずは御先祖様の生まれ故郷ってやつも見てみたいですよね。タナカさん、場所知ってるんでしょ?」

「それならちょっと足を伸ばして北方山脈の向こうにも行ってみるか?」

「まさかの人跡未踏地!?」

「北方山脈の向こうって、古代の神々の末裔がいるんでしたっけ」

「そう、巨人族な」

「…って、人跡未踏地じゃないのか!?」

「勇者、魔境を舐めんな? 挑戦意欲に満ちたチャレンジャーなんざごろごろいるぞ?」

「それに山も一っ飛びで越えちゃう真竜の皆さんがいますからね。前に行った人からの情報は流出してますよ」

「さ、さすが魔境………」



 こうして、私達は空の上。

 頭を抱えつつも、諦めたのか吹っ切れたのか。

 苦笑を浮かべる勇者様を連れまわすようにして。

 私達は半年という期限の中で、存分に空の旅を楽しむことにしました。


 だって人生って、楽しんだもの勝ちって言いますから♪

 だから、みんなで楽しい思い出をたくさん作りましょう?


 毎日最低一回のペースで、勇者様の悲鳴が響いても良い思い出ですよね(笑)





や、やっと終わりました。一応!

昨年中に終われませんでしたが、今日で完結です。

しかし今日から明日にかけてネット環境のない祖母宅へ…

感想の返信は、明日以降となります。


これにて「ここは人類最前線6」は完結となります!

またしばらくしたら「7」が始まる予定ですが、彼らの人間の国編はこんな感じで終了と相成りました。

もしも何か未練的なエピソード、コレを知りたい読んでみたいという要望がありましたら短編、もしくは「7」へのリクエスト含めて感想の方でお願いいたします。

長々となってしまいましたが、最後までお付き合い有難うございました!!

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