1-10 ナナの誕生⑩、、、エピソード1・最終話
パーティーも無事に終わり、それぞれが帰る中、クラリスは、パーティーにいた会場係員に外で声をかけられた。
「あなた、ちょっと待ちなさいよ。」
「なんですか。」
「あなた、さっきは、なんてことをしてくれたの?私がせっかく作ってきた特製のカクテルを入れていた大きい容器にぶつかって、倒れて全部台無しになってしまったのよ。」
「ああっ、本当にごめんなさい。本当にうっかりしてしまって、全部飲めなくなってしまったわね。」
すると、怪訝そうな顔で、
「あなた、わざとやったでしょ。知ってたんじゃない?」
「いったい、何のことですか?倒してしまったのは、不注意でした。本当にすみません。」
「うそつきなさい。本当は、知っていて、邪魔しようとして、わざとぶつかったでしょ。」
「本当に、何も知らないんです。許して下さい。」
「わかったわ。じゃあ、許してあげるけど、試してからね。もしも、私の言う通りにしたら、許してあげるわ。」
その女性は、バッグから赤い実を一つ取り出した。
「いい?この実を食べたら、信じてあげる。」
「ああっ、いい匂い。美味しそうですね。これを食べたら、信じてくれますか。」
「食べたらね。」
「わかりました。」
そう言うと、クラリスは、実をとって、口に入れた。そして、カリカリっという音がして、
「美味しいわ。」
すると、
「ああああっ!」
そう言うと、クラリスは、いきなり、顔を押さえながら、倒れてしまった。
それを見て、女性は、驚き、
「なんだ。本当に何も知らなかったのね。まあ、仕方ないわ。だけど、この子も、こんなに美人なのに、悪魔の実を食べたから、その顔も今日までね。かわいそうに。」
そして、その女性は、荷物を持って立ち去ろうとすると、ガサッと音がして、クラリスは、ゆっくりと起き上がった。
髪をかきあげながら、ペッと、実を吐き出して、ニコッと微笑むと、さっきとは、全く別人のように、態度も一変した。
「なあんてね。本当は、この実って、まずいのよね。あなたたちは、騙されて、美味しく感じるのかもしれないけど。私は、別に食べてもなんともないけどね。」
あまりの驚きのため、言葉がでない女性。
「この実はね、本当は、味も匂いもしないのよ。まあ、そのことは、あとで、教えてあげるわね。あなたたちは、逆美人の実と言っているんでしょ、この実のこと。この実を使って、カクテルを作るとは、よく考えたわね。まさか、パーティーで、あの実を全員に配って、乾杯の掛け声で一斉に食べて下さい、なんて言うわけにはいかないものね。飲み物にして、乾杯させるなんて、本当によく考えたわ。おっと、ちょっといい?」
そう言うと、クラリスは、人差し指で、その女性の顔を指差すと、とたんに顔全体から、ペリっと美顔のマスクが剥がれて、なんと素顔があらわになった。
「な、なにするの?」
「あなた、逆美人の実を食べて、美貌を失ったのね。それで、自分の国にいるのがつらくて日本にきたんでしょ。だけど、実務さんに失敗させられて、今回、モデルラボに復讐しようとしたのよね、ミ、レ、ニ、ス、、、
ミレニス・ジャクリーン・ペネストリア。」
「な、なんで、私の名前を知ってるの?それも、フルネームを知ってるなんて!私のフルネームを知る人なんて、めったにいないはずよ。あなた、いったい、誰なの!」
「私?、、私は、見た通り、18才のただの女の子よ。見たままよ、誰でもないわ。」
「うそ!うそよ!あなた!な、なんなの、いったい!」
「あなた、あの実を食べて、今の顔、自分の国じゃ、ひどい顔だって恥ずかしかったかもしれないけど、日本ならけっこう普通の顔だから、かくす必要なんてないのよ、大丈夫、安心して。まあ、もちろん、元の顔の方が綺麗なんでしょうから、隠したい気持ちもわかるけどね。
あっ、そうね、ちょっと待って、んーーっ、今、実を食べる前の、あなたの元の顔を、見てあげるわ。
うーん、、、あらあら、そうだったのね、、ごめんなさい。私が思っていたよりも、かなり綺麗だったじゃない、あなたの顔ったら。なるほど、なるほどね、その顔なら、元のその顔から比べたら、隠したくもなるかもね。その顔になって、だいぶショックだったでしょうね。ちょっとだけ、同情してあげてもいいわ。
ところで、あなた、会場のスタッフにまぎれこんだり、スタッフが用意した乾杯用のドリンクを勝手に、ベリック入りの特製カクテルに変えたりしたら、普通なら怪しまれるけど、それには、デミブレイガスを使ったからなのね。人間の思考力を若干弱めるガス。あなたが作ったんでしょ。これは、何か怪しいことがあっても疑ったりしないようにするための目的で使用するガスね。なんでも、納得して気にならなくなってしまう作用があるガスね、あなたの、その、ガスを作り出す才能は、やはり大したものだわ。
その上、実務さん、じゃなくて、エテリアだったわね、本当の名前、エテリア・フローラル・レオニール。その、エテリアがいたら、カクテルのベリックの香りに気づいてしまうから、電話で呼び出して、乾杯の時だけ間に合わないようにしたのね。一応、手順とか、タイミングなんかも色々と考えたわね。だけど、私がいたのは、予想外で、ちょっと失敗しちゃったわね。」
「あなた、本当に誰なの!何が目的なの!」
「あっ、そうそう、あなたには、特別に、あの実、逆美人の実、ベリックの秘密を教えてあげるわね。これ、皆、知らないと思うけど。あの実はね。本当は、味も匂いもしないのよ。だけど、実は、あの実は生きていて、人の脳の嗅覚と味覚をあやつることができる。そして、人が近づくと、美味しそうな匂いを感じるような信号をだすのよ。その人が1番食べたくなるような匂いを感じさせる信号を脳に送ってね。そして、食べる時には、この世で1番美味しいと感じる信号をね。まあ、でも、今回カクテルにしてたけど、そういう加工なら、ぜんぜんオッケーらしいわよ。カクテルで飲んでも同じことが起こるようだわ。よかったわね、というか、結局は、失敗して残念だったですけど。」
「あなた、なんで、そんなことまで知ってるの!それに、さっき食べてもぜんぜん平気だったわね。信じられないわ!どうして!」
「ごめんなさいね。私には、何も通じないのよ。ところで、今、そこにあなたが持っている、残りの実を全部、私に渡してちょうだい。」
「えっ!」
「それを、全部渡して!言う通りにしなさいよ!」
そのまま、渡さずに躊躇していると、次の瞬間であった。残りの実は、ミレニスのバッグの中から、勝手に飛んでいって、クラリスの手の中に収まった。
クラリスは、それを受け取ると、顔の高さにして、ふーっ、と息をふきかける。すると、たちまち、ものすごい炎と共に、その実は、すべて燃え上がってしまった。そして、その一つをとり、ミレニスに投げた。受け取るミレニスだったが、炭のようになってしまった実を、思わず、投げ捨ててしまった。
「あの木は、ボスのようなもので、この実は全部、手下みたいなものだからね。」
「あなたって、いったい何者なの。私は、あなたの言う通りになんかしないわよ。なぜ、あなたの言うことを聞かなきゃならないのよ。」
「どうしても、私の言う通りにできないっていうのね。それじゃ、仕方ないわ。私はね。まあ、名前を言うわけにはいかないけど、皆からの呼び名だったら、教えてあげてもいいわ。
私は、皆から、「Q」、と呼ばれているわ。」
ミレニスは、あまりの驚きに、心臓が止まりそうだった。
「あ、あなた、、、あなたが、、、、「Q」ですって!聞いたことがあるわ、その名前、、。」
「そう。まあ、よかった。この呼び方は、少しは知られているらしいわね。でも、その呼び名くらいだけでしょ。」
「、、、あなたのことは、もう少しだけ聞いたことがあるわ。少なくとも、あなたには、絶対に逆らえない、、ということと、それから、、、、それから、、、あなたの恐ろしさは、、、。」
ミレニスは、明らかに震えている。
「まあ、恐ろしいだなんて、それは、人聞きが悪いわね。まあ、全部間違いと、までは言わないけど。」
「うわさには、聞いていたけど、実在するかどうかもわからないって、聞いていたけど、、まさか、こんなところで会うなんて、、。」
「そうそう、言っておくけど、私ね、当分の間、モデルラボにいるから、覚えておいてね。今度また、あなたが何かやるといけないから、私のことを覚えておくように、今回だけは、私の記憶を消さないでおいてあげるわ。じゃあ、今度からは、気をつけてね。ああ、そうね、念のため、ロックをかけておくわ。」
すると、一瞬だけ、軽い痺れを覚えたミレニス。去っていくクラリスを、震えながら、ただ見つめていて、しばらく動くことができなかった。




