50話 世界最強と久宝寺最強(自称)
お待たせしました 本日もよろしくお願いします
「くだまき」での宴会から一晩明けた朝……。コバンの栄養ドリンクでしゃっきりする。もうコレなしで生きていける気配がしない。
これが「コバンエナジー中毒」というやつか………。
影の中の猫さん達とゴブリン達を点呼、欠員なし!!素晴らしい!
探索小物に擬態して金物の振りしてしれっと偽装するコバンとシロガネ。イザという時には無敵の盾になるコバンと、変幻自在の武器になるシロガネ……一体俺はナニと戦うつもりなのだ?
久宝寺ダンジョン入口でジョージと合流した。コバンとシロガネは俺の装備に擬態し、牙王とねこねこ忍軍、ゴブリン王国軍団はジョージの影の中に待機している。
「ジョージ!おはよう!今日はよろしくなー!」
「モーニン、アキヲ!まずは基礎体力と、俺が教える格闘術の基本動作からだ!」
「あいよ!師匠!」
「師匠はやめてよ!」
ジョージは笑いながら、突っ込みを入れる。俺たちはポータルをくぐり、いつものように1層へ入った。
「訓練に最適なのは、3層のスライム緑地だね。敵は弱いし、広くて人も少ないからね!」
「せやな、スライムを躱すのはフットワークの練習にもってこいやな、人も少ないし。」
「OK、じゃあロードワークしながら3層まで行こう!」
ジョージはそう言うと、俺に軍隊式の基本の構えとフットワークを教え始めた。1層の石造りの通路を、ジョージは軽やかに、俺は必死に駆けていく。
ジョージの動きは、流れるように無駄がない。実戦で生き残るためだけに磨かれた、美しさよりも実用性を追求したフォームだ。まるで戦場を舞うダンスのように見えるが、その一挙手一投足には殺意すら込められている。
「この構えは、重心を低く保ちつつ、どこからでも瞬時に攻撃にも防御にも移行できるようにするためのものだ。常に不安定な足場、予測不能な状況に対応できるように、体を慣らしていくんだ。」
説明しながらも、遭遇するモンスターは軽く撃破している。片手でオークの首根っこを掴んでポイっと通路の隅に放り投げ、そのままロードワークを続ける。流石世界一の男。俺が変身してやっとできる芸当を、変身前に涼しい顔でやってのける。
言われた通りにやってみるが、変身前だと身体が重く感じる。特にダンジョン特有の魔力的な圧力が身体に馴染んでいないため、全身に鉛が入っているようだ。変身後の驚異的な身体能力に慣れすぎているせいだと分かっていても、情けない。
そんなこんなでスライム緑地に到着。
「変身後の君は凄まじいフィジカルだけど、それを活かす基本が無ければ、ただの暴走だ。まずはこの土台をしっかりと作ろう。さあ、次はディフェンスだ!」
ジョージは立ち止まると、唐突に、だが素早く、俺の顔面に拳を繰り出した。
「はっ!」
反射的に顔を逸らし、腕でガード!
「悪くない!でも、ただガードするだけじゃダメだ。流す!逸らす!そしてカウンターだ!」
3層のスライム緑地は、足元が柔らかく、フットワークの練習にはもってこいだが、同時にスライムが大量に生息している。俺の足元では、フットワークの練習の邪魔をするようにスライムが無邪気に跳ねている。
それを踏みそうになっている俺に、ジョージの容赦ない指導が飛んでくる。
「アキヲ!集中!敵はスライムじゃないよ!君のイマジナリーヒーローだ!もっとキレッキレに動け!」
「スライムが!スライムが俺のフットワークを邪魔しとんねん!避けんの結構テクニックいるやろ!」
ジョージは容赦ない。
当たれば骨が砕けそうな拳を繰り出しつつ、俺の防御の隙をついて、たまにホッペにウインク付きの指先チョップを入れてくる。
「待てや!?なんやそのちょけ倒しのチョップは!技と関係ないやろ!?」
「これはフェイントだよ!実戦では相手の意表を突くのも武器になるのさ!相手に『コイツ変な奴だな?』って思わせたら勝ちだ!」
ジョージは涼しい顔で、さらにキザな流し目をキメながら連続で攻撃を仕掛けてくる。そのエレガントさ(?)が、マジで腹立つ。
「くっそ、めっちゃ腹立つなコイツ!」
腹が立ったおかげで、一瞬動きがキレる。ジョージの攻撃を流し、カウンターで胴体に拳をねじ込もうとするが、フワリと軽く受け流される。
「ワオ!ナイスパンチ!ただし、その怒りのエネルギーは、カウンターに使え!」
3層のスライム緑地では、俺とジョージが「ウホッ!」とか「ヤメロ!」とか、変な声を上げながら飛び跳ねている。周りのスライムたちは、その様子を(この人間たち、面白い遊びをしてる)と言いたげな顔で面白そうに見上げている。完全にスライムたちのエンターテイメントと化している。
午前中はジョージの格闘術の訓練に費やし、昼休憩。コバンエナジーと高カロリーゼリーでエネルギーを補給していると、影からゴブリン王国民が出てきた。
「ゴブ!ゴブ!ゴブ!」と、血走った目でジョージの周りに集まるゴブリンたち。
どうやら一緒に指導を受けたいらしい。奴ら、昨日のジョージの戦闘を間近で見て、軍人式格闘術に魅了されたようだ。
「アキヲ、彼らも俺の訓練に興味があるみたいだね。一緒にやってもいいかい?」
「ええぞ、ただし殺すなよ?」
「オーケー!アキヲ!手加減はするさ!即死じゃなきゃコバンが何とかしてくれるだろ?」
容赦ねえな……。世界最強と万能スライムの信頼関係が、ゴブリンたちの命を担保しているという異常事態。
ジョージは熱心に、ゴブリンたちに「姿勢が悪い!重心を低く!」「動きが遅い!もっと速く!」と、まるで体育会系の熱血監督のように指導を始める。ジョージの格闘術は、もともと軍隊式で容赦がない。ゴブリンたちは、みるみるうちに疲労困憊のゾンビみたいになっていくが、目が血走っていてやめる気配がない。完全にストイックな戦闘狂と化している。
ねこねこ忍軍は、その様子を少し離れた場所から、目をキラキラさせながら観察していた。リーダーのイチゴレッドが、ゴブリンたちのあまりの熱血指導に「さすが、世界最強の訓練にゃ……」と、ぷるぷる震えている。猫さんたちもそのうち参戦するんだろうな。
「ジョージが来る前の、平和な久宝寺ダンジョンはどこへ行ったんやろな……」
俺は遠い目になりながら、コバンエナジーを飲み干した。特訓は始まったばかりだ。午後は、俺の忍術(主に逃げ方)とヒーローアクション(主にポーズ)の指導が待っている。俺の戦闘力アップが先か、俺の精神力が尽きるのが先か……。
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