エピローグ
卒業パーティーは、なごやかに行われ……なかった。
断罪こそできなかったものの王子が婚約破棄しようとし、そこに王太子が乗りこんできて、大騒ぎになったらしい。
王太子は二枚の書類を携えていた。
一枚は、王子とフェアリスの婚約が解消されたと告げるもの。
もう一枚は。
これで学園も卒業。
王子とフェアリスの婚約解消が発表され、皆が王太子の次なる発表に注目している中。フェアリスは、周年祭でリーダーだった例の男子学生と、ちょうど二人になったそうだ。
「フェアリス嬢。あなたが階段で、精霊の女の子と楽しそうに喋っている姿。可愛いなと思いました。あなたが私の苦労を理解してくれて、分かち合ってくれたこと、私があなたの苦労を分かち合えたこと、とても嬉しかった。どうか私と婚約してください」
そう真摯に言われて、肯いたフェアリスはとても幸せそうだった。らしい。
おネコ様はどこにでも自由に潜入できて、羨ましいかぎりである。
「あ、でもリーダーの人は、精霊が見える人だったんだね」
「そうだな。声は聞こえないし、話すのも無理みたいだが。……あの男は意外に胆力がある」
「それは、フェアリスにふさわしいってこと?」
「ああ。なにしろ砂時計の精霊が折れて同意するまで粘ってたからな」
渋々頷いた砂時計の精霊は、苦虫を噛み潰したような顔になったらしい。
多くの卒業生を寿ぎながら、さりげなくフェアリスたちに近づいた王太子殿下。
「そなた、首尾は?」
「王太子殿下。フェアリス嬢から良い返事をいただきました」
「それは上々」
ネコの精霊も初めは、王太子とリーダーの男子学生、彼ら二人が何を話して理解し合っているのか、わからなかったそうだ。
「ではここに、もう一つの発表を行う!」
王太子が声を張り、残り一枚の書類を読み上げた。
――かの男子学生の功績を認めて王太子の側近とし、また、類稀な精霊の守護を持つフェアリス嬢の力を次期王の治世に役立てるべく、新たに王太子側近となった者との婚約を王より命じる――
「何か困ることがあれば声をかけてくれ、たしかに以前、そなたにそう約束したが、これで果たせただろうか?」
「はい。王太子殿下には過分なる御配慮、ありがとうございます」
新たにフェアリスの婚約者となった男は、王太子とそんな言葉を交わしつつ、片時もフェアリスから離れなかった。そこまで見届けて、ネコの精霊は不機嫌極まりない砂時計の精霊のそばから脱出してきたそうだ。
私は階段の精霊、フェアリスは友達。
だから、私は持てる力でいろいろやってみたけど、人の世界は人の世界で、フェアリスのことを想って動く人もいたらしい。
階段に差しこむぬくぬくとした日だまりの中、今日もネコの精霊は私の膝の上でくつろいでいる。
「ねえ、そういえば王太子が言ってた、かの男子学生の功績……って、迷惑な王子の対応をしたこと?」
「まあ、……そういうことだろうな」
「……王子の迷惑料、高くついたね」
「うん?あぁ、でも、フェアリスにひっついてる砂時計の精霊の力を考えたら、王族の側もあの男を側近にするのは悪くない話だったんだ、たぶん。……それに」
「それに?」
「フェアリスがお前と楽しそうに喋ってるの、あの男にとっては金額で測れないくらいの価値があったんだろ。お互い納得の取引ってことだ」
ネコの精霊はそっぽを向いて、けれども、二本のしっぽをくるりと私に巻きつけた。
「おれも、お前がフェアリスと楽しそうに喋ってるの、可愛いと思ったよ」
「……私も、ネコの精霊がかわいいと思うよ。モフりたおすの最高」
「ちがう。そうじゃない」
お読みいただきありがとうございました。
相変わらずのジャンル迷子。あと、一話って何字くらいがいいんでしょうね?
個人的には三千から五千かなと思いましたが、ジャンル的にはこれくらいなのかなと思って、細切れ。
(8/26追記)
たくさんのかたに読んでいただき、評価もいただきまして、望外の喜び!
読み手様には感謝です。
誤字報告もありがとうございました。