潤、慣用句に怒る
夕方。広瀬潤(39)は、家のテレビでニュース番組を観ていた。
キャスターが真面目な顔で言った。
「今回の問題は、“人の褌で相撲を取る”ような――」
その瞬間、潤の眉が跳ね上がった。
「……は? 相撲は褌じゃなくてまわしだろ……?」
潤はテレビの前に立ち上がった。
「なんで“褌”なんだよ⁉ 相撲は“まわし”だろ⁉ 褌で相撲取らないだろ!!」
テレビは当然返事をしない。
しかし潤は止まらない。
「全国放送で間違った比喩を使うなよ……まわしの名誉に関わるだろ……!」
◇両親、完全に困惑する
そこへ母が台所から顔を出した。
「潤、どうしたの?テレビに怒ってるの?」
潤は真剣だった。
「母さん!今テレビで“人の褌で相撲を取る”って言ったんだよ!相撲は褌じゃなくてまわしだよね!!」
母はぽかんとした。
「……え、そこ気にする?」
父も新聞を置いて言った。
「潤……それは慣用句だぞ……本当に褌で相撲を取るって意味じゃないぞ……」
潤は聞いていない。
「いや、慣用句でも気になるんだよ!まわしの立場がないじゃないか!!」
母は困った顔で言った。
「まわしの立場って何……?」
父はため息をついた。
「……お前、相撲に妙な正義感持ってるな……」
潤は胸を張った。
「僕は文化を守りたいんだよ!! 褌じゃなくてまわし!! ここ大事だから!!」
両親は顔を見合わせた。
「……潤、落ち着きなさい……」
◇その後も潤はぶつぶつ言い続ける
夕食中も言った。
「褌じゃなくてまわし……」
風呂上がりも言った。
「褌じゃなくてまわし……」
寝る前も言った。
「褌じゃなくてまわし……」
父はついに言った。
「潤、もう寝なさい」
潤は静かに頷いた。
「……うん……でも褌じゃなくてまわしなんだよ……」




