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潤、カレイの煮つけに吸い寄せられる

 広瀬潤(39)は、ここ数日ずっと焼肉に振り回されていた。


 ホルモンセット誤購入。上長にホルモン屋へ連行。母からはハムステーキを勧められる。


「今日は……佐伯と地元の定食屋に来たんだ……さすがにもう焼肉を食べられるはず……焼肉定食……絶対頼む……」


 潤はメニューを開き、焼肉定食(カルビ)の文字を見つけて胸が熱くなる。


「やっと……やっとカルビだ……!」


 ◇壁のメニュー、運命の出会い


 そのとき、ふと視線が壁に向いた。


 手書きの短冊メニュー。


『カレイの煮つけ』


「………………あっ」


「潤、どうした?」


 潤は震える声で言った。


「佐伯……あれ……絶対……マコガレイの煮つけだよ……」


「いや、ただ“カレイ”って書いてあるだろ」


「いやいやいや、あの字の雰囲気……あの“煮つけ”の書き方……絶対マコガレイだよ……僕は……マコガレイを食べる運命なんだよ……」


「焼肉定食頼むんじゃなかったのか?」


「……いや……あれは……マコガレイだ……僕は……マコガレイを食べたい……!」


「また始まった……」


 ◇注文


「ご注文どうぞ」


「カレイの煮つけをお願いします!」


「俺は焼肉定食で」


(佐伯が焼肉を食べる……でも僕はマコガレイ……)


 ◇実食


 煮つけが運ばれてきた。


 潤は目を輝かせた。


「……この身の厚さ……この照り……これは……マコガレイだ……絶対にマコガレイだ……!」


「完全に思い込みだよ」


 潤は幸せそうに食べ進める。


「うん……これはマコガレイだ……僕は今、マコガレイを食べている……!」


 ◇食後の真実


 潤は店主に声をかけた。


「すみません、このカレイ……マコガレイですよね?」


「ああ、これ?カラスガレイだよ」


「………………え?」


「うちはマコガレイは使わないんだ。カラスガレイのほうが仕入れやすいからね」


「………………カラス……ガレイ……?」


 佐伯は思った。


(やっぱり違ったな……)


「僕……また……マコガレイじゃないカレイを……“マコガレイだ”と思い込んで食べてしまったんですか……?」


「まあ、うまけりゃいいじゃないか」


(確かにおいしかったけど……)


 ◇帰り道


「結局、焼肉食べられなかったな」


「……焼肉を食べようとすると……なぜかカレイに吸い寄せられるんだ……僕は……焼肉に嫌われているのかもしれない……」


「いや、単に潤がカレイを見つけると勝手に頼むだけだろ」


「……次こそ……カルビを……カルビを食べたい……」


 しかしそのとき、道端の定食屋の看板が目に入った。


『本日のおすすめ:カレイの煮つけ』


「………………あっ」


「やめろ」


 こうして潤の“焼肉への道”は、またしてもカレイによって阻まれるのであった。


 

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