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出会い

第4話です。


今回は放課後の美術室での出来事が中心になります。

莉愛にとって、少し特別な出会いがある回です。


静かな場面が多いですが、ここから少しずつ物語が動いていきます。

放課後、教室のざわめきが少しずつ消えていく。


中井は友達に呼ばれて、先にどこかへ行ってしまった。


「じゃあな莉愛、今日も生存確認ヨシってことで」


「なにそれ……」


軽く手を振って出ていく背中を見送る。


静かになる教室。


その空気に、少しだけ落ち着く自分がいた。


――行こうかな。


ふと、そう思った。


美術室。


高校に入ってから、まだ一度もちゃんと行っていない場所。


中学までは、当たり前みたいに毎日通っていたのに。


廊下を歩く。


夕方の光が、床に長く伸びている。


美術室の前で、少しだけ足が止まる。


ドアは、少しだけ開いていた。


中から、鉛筆の音が聞こえる。


静かで、規則的な音。


コンコン、と軽くノックをしてから、そっと中を覗く。


「……すみません」


声をかけると、その音が止まった。


奥の席に、一人。


知らない先輩が座っていた。


長い髪を一つに結んでいて、姿勢がまっすぐで。


そのまま、ゆっくりとこちらを見る。


目が合う。


それだけで、少し息が詰まった。


「……どうしたの」


落ち着いた声。


「えっと……見学、してもいいですか」


自分でも、少しだけぎこちない声だった。


先輩は少しだけ間を置いてから、頷く。


「いいよ」


短い返事。


それだけなのに、なぜか安心する。


中に入る。


石膏像やキャンバスの匂いが、懐かしかった。


先輩の手元を見る。


描いているのは、デッサン。


でも。


その“でも”の先が、うまく言葉にならない。


線が、違う。


同じ鉛筆なのに、全然違う。


迷いがなくて、静かで。


なのに、ちゃんと“見えている”。


「……すごい」


気づいたら、口に出ていた。


先輩は少しだけ手を止めて、こちらを見る。


「そう?」


「……はい」


それ以上、言葉が出てこない。


自分の絵と、あまりにも違いすぎて。


比べるのも失礼な気がした。


「描いてるの?」


ふいに聞かれる。


「……はい。一応」


「一応?」


どこかで聞いたような返し。


少しだけ、言葉に詰まる。


「……美大、行こうと思ってて」


言いながら、自信のなさが滲むのが分かる。


先輩は何も言わずに、しばらくこちらを見ていた。


その視線が、少しだけ怖い。


見透かされているみたいで。


「見せて」


「え?」


「絵」


一瞬、固まる。


でも、断る理由もなくて。


カバンからスケッチブックを取り出して、差し出した。


先輩はそれを受け取って、ページをめくる。


静かな時間。


紙をめくる音だけが響く。


「……」


何も言わない。


それが、少しだけ怖い。


やがて、最後のページまで見終わると、そっと閉じた。


「ちゃんと見てるね」


その一言に、息が止まる。


「え……」


「形、ちゃんと取れてるし」


淡々とした声。


褒めているのかどうかも分からない。


でも。


否定じゃなかった。


それだけで、少しだけ救われる。


「でも」


続く言葉に、体が強張る。


「迷ってる」


図星だった。


何も言えない。


「線が、止まってるから」


静かに言われる。


言い返せない。


自分でも分かっていたことだった。


「……すみません」


なぜか、謝ってしまう。


先輩は少しだけ首を傾げた。


「なんで謝るの」


「いや……なんか」


言葉が続かない。


先輩は小さく息をついて、スケッチブックを返してきた。


「描き続ければ、変わるよ」


それだけ言って、また手元に視線を戻す。


会話は終わり。


なのに。


その一言が、ずっと残る。


――描き続ければ、変わる。


簡単な言葉。


でも、どうしてか。


胸の奥に、強く引っかかった。


「……ありがとうございました」


小さく頭を下げる。


返事はなかったけど、気にしなかった。


美術室を出る。


廊下の空気が、少しだけ冷たく感じる。


でも。


さっきまでとは、少し違う。


胸の奥が、静かに熱を持っている。


あの人の線。


あの人の言葉。


頭から離れない。


――なんなんだろう。


この感じ。


分からない。


分からないけど。


きっと、前とは違う。


そんな気がした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


新しく登場した先輩との出会いが、莉愛にとってどんな意味を持つのか、

これから少しずつ描いていけたらと思っています。


中井さんとの関係や、これまでの気持ちとの違いも、

今後の展開に関わってきます。


よければ次の話も読んでいただけると嬉しいです

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