はじまり
初めまして、読んでいただきありがとうございます。
この作品は、女子校を舞台にした百合作品です。
少し生きづらさを抱えた女の子が、
人との出会いを通して「好き」や「自分」を見つけていく過程を描いていきます。
重たいテーマも含みますが、日常や会話の中でゆっくり進んでいくお話です。
合う方に、楽しんでいただけたら嬉しいです。
涼しい風が、部屋の中に流れ込んでくる。
ベッドに横たわりながら、窓から入る風に身を委ねた。
私は今、たくさんの悩みを抱えている。
高校一年生、十五歳。 ウォーカー莉愛。
趣味は、と聞かれたらギターと絵と答える。
けれど正直に言えば、ギターは最近ほとんど弾いていない。上手いわけでもない。それでもそう言うのは、その方が少しだけ「まとも」に見える気がするからだ。
私は中学受験をして、中高一貫校に入学した。
けれど中学に入ってから、勉強への意欲はどんどん薄れていった。
原因は分かっている。
人間関係が、うまくいかなかったから。
表向きは何も気にしていないふりをして、ヘラヘラと笑っている。
でも本当は、誰よりも繊細に傷ついてしまう。
苗字で気づく人もいるけれど、私はハーフだ。
父がオーストラリア人で、母が日本人。
私は、日本人が好きで、少しだけ嫌いだ。
「違う」というだけで、からかわれてきたから。
仲の良かった友達と喧嘩したとき、言われた言葉は、今でも忘れられない。
――日本人でもオーストラリア人でもないくせに。
その一言で、過去の記憶が一気に蘇った。
悔しくて、苦しくて、何も言い返せなかった。
中学の頃、授業で「国際結婚のメリットとデメリット」を扱ったことがある。
そのとき、私は泣いた。
理由なんて、うまく説明できない。
ただ、自分が“題材”にされているような気がして、苦しかった。
そういう経験の積み重ねで、私は「違い」に敏感になった。
性別のことも同じだ。
ネットやニュースで見る、女性に対する扱い。
軽く消費される言葉や視線。
それを見ていると、どうしても許せなくなる。
だから私は、多分、フェミニスト気質なんだと思う。
――全部、「傷ついてきた側」だから。
そんな私が、人と深く関わるのは、正直少し怖い。
けれど。
「ねえ、消しゴム落としたよ。てかそれ詰みじゃね?最後の一個っしょ?」
隣の席の子が、急にそんなことを言ってきた。
思わず、顔を上げる。
「……え?」
「いや、その顔。完全に“終わった”って顔してたから。草」
にこにこと笑いながら、彼女は私に消しゴムを差し出した。
それが、中井さんだった。
最初は、変な人だと思った。
やたらネット用語を使うし、「自分インキャなんで」とか言いながら、誰よりも話しかけてくる。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ。
彼女と話していると、少しだけ息がしやすくなる。
「莉愛ってさ、なんか考えすぎじゃね?」
ある日、何気なくそう言われた。
ドキッとした。
「いや、悪い意味じゃなくて。ちゃんと考えてるってことじゃん。普通にえらくね?」
軽い口調なのに、言葉はまっすぐだった。
気づけば、私はよく彼女を目で追うようになっていた。
よく笑うところも。
距離が近いところも。
たまに、やけに優しいところも。
全部、少しずつ気になっていく。
授業中、ふと目が合う。
その瞬間だけ、時間が止まったみたいになる。
――なんだろう、この感じ。
最初は、自分は無性愛なのかもしれないと思っていた。
でも。
この気持ちは、それとは少し違う気がする。
まだ名前のつかない感情が、胸の奥で静かに揺れていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第1話では、主人公・莉愛の背景や考え方を中心に描きました。
ここから女子校での人間関係や、百合としての感情の変化も少しずつ動いていきます。
中井さんや先輩との関係がどう変わっていくのか、
ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。
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