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デスバトル  作者: 一宮 沙耶


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エピローグ

見渡す限り、荒野が広がっている。

ここはかつて、東京と呼ばれていた場所。

日本の中心だった。そんな面影は、もうどこにもない。


コンクリートの瓦礫が積み重なる。

白く乾いた骨がそこかしこに転がっている。

空気は重い。



この場所だけ、世界から切り離されたように死んでいる。

木々は枯れ、土は痩せ、何も育たない。

少し離れれば昆虫や魚はいる。でも、ここには何もいない。

放射能が、この一帯を完全に殺している。


それでも、瓦礫の隙間から、小さな芽が顔を出していた。

ほんのわずかに、自然が戻ろうとしている。


ここに長くはいられない。頭部の防御カプセルがあっても、限界は一時間。

それ以上いれば、体が壊れる。実際に、そうなった仲間もいる。


私は、人間という過去の生物を調査するためにここへ来た。

危険を冒してでも、知る必要がある。

彼らは、高度な技術を持っていた。



それを理解すれば、私たちの生活を引き上げることができる。

視線を上げる。東京湾の北側に、巨大な穴が口を開けている。

クレーター。小型核兵器によるものだと記録されている。

小型、そんな言葉が嘘のような規模だ。



まるで隕石でも落ちたかのように、地形そのものが抉られている。

どうして、こんなものを作ったのか。理解できない。

私には、この足先の鋭い爪で十分。それだけで、生きていける。

では、人間は何のためにこれを?


他者を支配するためか。富を独占するためか。それとも、ただの恐怖か。

だが、その結果がこれだ。全てを失い、自らも滅びた。意味が分からない。

知識は、確かに私たちより上だったはずだ。それでも、こんな結末を選んだ。


平和に生きるという発想が、そもそもなかったのか。

争い、奪い、満たされることなく破壊し続ける。

そんな存在だったのかもしれない。


理解はできない。だからこそ知る必要がある。

この調査で得るべきもの。それは、おそらく技術ではない。

平和を維持するという意志。それを失った時、どうなるのか。

その答えが、この場所に残っている。


瓦礫の影に、誰かを守ろうとした姿が目に入る。

一人の骨の上に、もう一人が覆い被さっている。

個々人では、愛する人を守る気持ちはあったのだろう。


それが集団になると、こんなに破壊的なことをしてしまう。

その理由は分からない。もっと、お互いに愛し合えばよかったのに。


探索は、そろそろ終わりにして帰ろう。滞在の限界が近い。これ以上は危険だ。

私は視線を周囲に巡らせる。瓦礫、骨、崩れた構造物。どれも、もう十分見た。


その時、視界の端に、何かが引っかかった。

瓦礫の隙間。半分、土に埋もれた黒い塊。

近づく。しゃがみ込み、慎重にそれを掘り出す。


金属片。いや、違う。形状は複雑で、明らかに人工物だ。

表面は焼け焦げ、ひび割れている。だが、一部だけ、内部構造が残っている。


「これは・・・。」


記録装置かもしれない。人間が使っていた機器の一種。

私はそれを持ち上げる。壊れてはいない。

その瞬間、微かな振動が指先に伝わった。


「動いている?」


あり得ない。この環境で、まだ機能しているはずがない。

だが、確かに反応している。次の瞬間、表面に微かな光が走る。



ノイズ混じりの音が、かすかに漏れた。誰かの悲鳴のような声。

途切れ途切れで、意味は分からない。だが、確かに声だった。

私は息を止める。これは、ただの残骸ではない。


「記録?」


そう思った瞬間、断片的な映像が浮かび上がる。

光、爆発、逃げ惑う人影。そして誰かが、何かを叫んでいる。

音は歪み、言葉は崩れている。それでも、感情だけははっきりと伝わってくる。


恐怖、絶望、後悔。私は、動けなかった。

これは、ただの過去の記録だ。



そう分かっているのに、目を逸らせない。


「・・・。」


胸の奥に、違和感が広がる。

理解できないはずの感情が、なぜか、少しだけ分かる気がした。


その時、警告音が鳴る。滞在限界まで、残りわずか。

私はゆっくりと装置から手を離した。光が消える。音も途切れる。

再び、ただの残骸に戻る。


「帰る。」


小さく呟く。

振り返ると、荒野が広がっていた。何もない。何も残っていない世界。

それでも、ここには、確かに何かがあった。そして、それを失った。


私は装置を持ったまま、歩き出す。この場所を後にするために。

風が吹く。乾いた砂が、足元を流れていく。

誰もいない世界。だが、完全に消えたわけではない。


何かは、まだ残っている。

それを、どうするか。それを決めるのは、これからの私達。


私は、今まで体を包み込んでいた羽根を広げる。

久しぶりに砂埃が舞う。破壊され尽くされ、長年生き物がいないこの場に。

羽根を大きくたなびかせる。上空を舞う仲間達の後を追った。


横を飛ぶ同僚の毛並みは美しい。夕日に照らされ、虹色に輝く。

私の自慢は、鋭く尖った爪。小枝のような足から伸びる3本の指の先にあるカギ爪。

この爪で獲物を逃さない。


この爪で、必要最低限の獲物だけを狩る。

それ以上の贅沢をせずに生きることが、この自然を守ること。

分相応の生活が、この世界を維持していくうえで最も重要なこと。


眼下には、ビルが崩れ、コンクリートの瓦礫が広がる。

人間達の破壊の凄まじさを物語る。

でも、しばらくすると里山が多くなる。自然の雄大さに囲まれる。

人間は自然の雄大さの前では一欠片にすぎない。いくら、その力が大きくても。


人間は高速な移動手段を持っていた。

でも、私たちには、この羽根があれば移動できる。

そんなに遠くまで行く必要もない。

生活圏を広げようとして滅んで行った人間のようになりたくない。


強い風を浴びながら放射能を払い落とそう。高速で飛ぶことで。

そして邪悪な人類の考えも振り払おう。

愛妻に歪んだ顔を見せないために。


もうすぐすると、新緑が芽生え始める。山々は活気が溢れる。

鹿や猪が山中を走り回る。セミも鳴き始める。

もうすぐ、私たちの集落に到着する。山腹に造成した広い敷地に。


暖かい家族が私を待っている。

最近、愛妻との間にも娘ができた。

愛らしいくちばしは忘れられない。卵の殻から覗かせた、あのくちばし。


私たちがこの世界をより美しくしていく。

限界はあるけど人間の技術は、一定範囲では学べる。人間が残してくれた書物から。

劣悪な環境でも育つ穀物。これらは、人間の書物からすでに実用化されている。


そんなすぐれた技術があるなら、人と競い合わなければいい。

私は、多くの生き物と共存していく。この貴重な地球をより輝かせていく。

それが私の望みだから。


山並みから見える、暮れゆく夕日は美しい。

すぐに、空は満天の星に包まれる。

目の前には私の集落の光が広がる。私達の帰りを暖かく待っている。


私の心は暖かい気持ちで溢れている。

地面に着地し、明るい未来に向けて自宅へと走る。

この集落の将来は、私が守るのだと誓いながら。

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