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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 1

 その頃、俺はすっかり観測所に住み着いてしてまっていた。


 いや、だって学院の寮より居心地いいんだもんよ。


 その学院にはもうあまり行っていない。

 卒業に必要な単位にはまだ届いていないのだが、爵位を得たことで領地経営の勉強や、社交に時間を取られてしまっているからだ。


 そもそも将来貴族家の一員として振る舞うためのお勉強が学院の目的であって、すでに爵位を得てしまった俺が学院に通うのはおかしいということもある。


 まあ、元々は俺に欠けた知識を補わせるためにストラーニ伯が用意した場ではあるのだが、その目的はすでに達したと言っていいだろう。いいよね?


 そんなわけで貴族として務めを果たしていると、部屋の扉がノックされ、入室を許可すると1人の中年男性が扉を開けた。


 執事服に身を包んだ強面タイプのイケオジである。

 王城の筆頭執事であるデルニアンだ。見た目は全然違えど、どことなくジルさんと似た雰囲気を感じるので、もしかしたら暗殺者とか、そういう裏の仕事も請け負っているのかもしれない。


「失礼致します。アンリ様。王城にアンリ様を訪ねて使者が参っております」


「どこの使者ですか?」


 俺を訪ねてくるとは珍しい。使者がやってくるとなると記憶にない。観測所は金属書の内容を差し障りの無い範囲で一部公開し始めたので、それに関するものだろうか?


「リェーネン伯爵家の嫡男を名乗っています」


 リェーネン伯爵家。

 ちょっと覚えがない。

 有力な伯爵家ならば頭に入っているはずだが、流石に王国全ての貴族を覚えたわけでは無い。


 普通に考えれば、覚える価値も無かったような家なのだとは思うが、なにか引っかかりを感じる。

 ただの国内貴族が俺に面会を求めてきたくらいのことでデルニアンが出てくるだろうか?

 もうひとつは、リェーネン伯爵という聞き覚えの無いその名前だ。なんとなく。本当になんとなくではあるが、王国風ではない気がした。


「まさかとは思いますが、アルブルの貴族ですか?」


 俺がそう問うとデルニアンはにっこりと笑みを浮かべた。こう言うと失礼だが、無理矢理笑ったような不自然さを感じる笑みだった。


「はい。帝国からいらっしゃったそうです」


 となると政治案件か。少なくとも個人的に友誼を結びましょうという話では無いだろう。


「使者ということは誰かの使いなんですよね。一体誰からのですか?」


 俺は帝国に知人がいない。嫡男が来ていることからリェーネン伯爵かな?と思っていると爆弾が落ちた。


「信書の差出人は皇帝のようですね」


 はい。政治案件確定です。

 敵国のトップが個人に連絡取ってくるとか、下手に受け入れたら俺が売国奴になってしまうやつやんけ。


「そのまま客室でもてなしを、ただこちらの内情が知られることの無いように配慮を願います」


「承知いたしました。ご要望についてはすでに達成されているものだと存じております」


「では案内をお願いします」


「どちらへ、でしょうか?」


「決まっています。国王陛下のところへ」


 俺の手に負える話では無い。さっさと責任をおっさんに押しつけるに限る。


「で、何点ですか?」


 王城へと向かう途中で俺はデルニアンに訊ねる。


「30点ですかね」


「マジかあ」


 思わず口が滑った。結構いい線行ってたと思うのに、30点は厳しいよぉ。


「えっと、どこが……、いえ、ちょっと考えさせてください」


 安易に答えを聞くなって言われてるからな。

 学院にいる内は知らないことはすぐに質問するのが正しかったが、貴族の当主となった今は違う。

 問題点に自分で気付き、改善することが必要だ。


「最初のやりとりは問題ない、はず。リェーネンの名に反応しなかったことか? だけど流石に隣国の貴族家まで全部把握はできないよな」


 チラリとデルニアンに目線を向けると、彼は大仰にため息をついて肩を竦めた。


「アンリ様は戦争を知らない世代でしたね」


「戦争? 王国で最近の戦争と言うと……、帝国のピサンリ侵攻? あっ!」


 俺は唐突に思い出す。歴史の授業で習ったヤツだ。


「思い出されましたか?」


「ピサンリ侵攻の一番槍はリェーネン辺境伯だと習いました。しかし辺境伯です。伯爵では……」


「戦後、帝国領土を奪われたとして降爵したようですね。小倅にはあの男の面影がありましたから、まず間違いないかと」


 デルニアンは物騒な気配を漂わせている。戦争経験者が仇に対して発する独特の雰囲気だ。

 そういう意味では確かに俺は戦争を知らない子どもだろう。

 かつて王国に攻めてきたその先鋒だった男の息子って聞いても特になんとも思わないしな。


「そんな人を使いに出すって、帝国は何を考えてるんですか? なんならよく無事にオルタンシアまで来られましたね?」


 だが戦争経験者にとってはリェーネンの名は深く刻まれているのだろう。それはデルニアンの態度で分かる。


「100の騎兵を連れています。シクラメンでは一触即発だったようで、辺境伯の指示で500の騎兵で囲んで移動しました」


「ええー」


 騎兵を連れてくるのもおかしいし、通しちゃうのもおかしい。あと前線から500も騎兵抜いて対帝国方面軍は大丈夫なんだろうか。


「名誉が地に落ちたとは言っても、元辺境伯の跡継ぎを使者に寄越している最中に攻めてきたりはしないでしょう。むしろ藁を敷いてあるところに松明を投げ込んできたような印象を受けます」


「帝国は開戦したいと?」


「そうなっても構わないとは思っていそうです」


「帝国の南部方面軍に動きは?」


「調査中です。最後の報告では特に変わったところはない、と」


「ちぐはぐですね。火種を投げ込むなら、相応の準備があって然るべきでしょう。個人的には帝国には積極的に開戦する意思はないと思いますね。むしろこちらの反帝国感情がどの程度なのかを測っているのではないですか?」


「だとすると、辺境伯の動きはちょっとやり過ぎだったかも知れませんね」


 そう言ってデルニアンは俺に目線を向けた。


「あー、100の騎兵を抑えるために500も騎兵を出した。王国はそれだけ帝国を恐れている、と思われるかもしれないですね。とは言え、実際のところ辺境伯は血の滲むような思いで500を出したのでは? その500は憎き帝国兵を王国臣民から守るという側面もあるわけですから」


「良いですね。アンリ様は軍事関係のほうがお好きなようで」


「好きかどうかはともかく政治や社交は頭が痛くなりますよ」


「その辺はおいおい慣れていけばよろしいかと」


 慣れるのかなあ。


 そんな風に話ながら国王の執務室に到着すると、国王は相変わらず書類と格闘していた。

 この人もっと部下に仕事投げるべきだと思うよ。

 全ての決済に目を通さないとハンコを押せないタイプだな。

 俺なら信用できる部下にハンコを渡しちゃうけどなあ。


 俺は仕事の邪魔をするのも悪いかと思い、早速本題を切り出した。


「帝国からの使者はどう扱えばよろしいですかね?」


「何を言ってくるのかは全く分からないでも無いが、とりあえず生かして帰せ。その他については任せる。使者の回りはガルデニアを配置してあるから、会談の中身は全て見られていると思えよ」


「分かりました。私が対応してよろしいんですね?」


 そう命令したのは貴方でよろしいですね?


「……補助にリディアーヌを付ける。使者には二人で会うように」


「承知いたしました」


 オーケー。これで完全に王国の政治案件だ。

 俺は使者の話だけ聞いて結論をその場で出さなければいい。


「まったく、責任逃れだけは頭が回りますね」


 デルニアンが小声で言った。

 お前それ聞こえるように言ってるだろ。分かってんぞ。

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バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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