第55話 きっと、みつけるから。
「すーちゃん、本当にここで合ってるの?人気が無いっちゃ無いけどさ……」
「……まぁ、合ってるってことを神に願うしかないな」
俺がらしくない皮肉を言うと、仁都は隣で手を組みお祈りをするように、「勝利の女神様〜!俺たちに微笑んでください〜!」なんて夜の公園の中心で空を仰ぎ、懇願していた。
勝利の女神、という言葉をこの場で使うのは些か不似合いではあるが、そうは言ってられない。どんな神様でもいいから、最悪な結果にだけはならないように、二人を見つけてほしい気持ちでいっぱいだった。
それは、俺然り仁都然り、皆が思っている事だ。仁都もふざけているように見えて、かなり内心は焦っているようだ。額には汗が滲み出ている。普段では見られない姿だ。
俺は誘拐の線を考え、ここら辺一帯で人気が無く、広い土地がある場所何点かを、京治さんに教えて貰った。その中には、偶然にも、俺と仁都の近くにある大きな自然公園も含まれており、他の場所は京治さんと坂田にお願いし、俺たちはこの自然公園で捜索することにした。
自然公園は県が保護しているもので、公園の後ろにある山々と一体になっているらしい。そこで催されている行事も多く、また、バーベキューやキャンプ、ハイキング等にも最適とのことだ。
普通の公園と少し違うのは緑の多さだ。緑を楽しんでもらうために、植林活動を頑張っていると、公園入口の掲示板にあるポスターに書かれていた。
公園内は複数のエリアに分かれており、公園入口のエリアは緑のロードとされ、ベンチが等間隔に置かれているだけだった。
入口付近に置かれたマップを眺めていると、小さな湖もあるようで、「白鳥のボート乗り場」、「鳥さんたちの住処」なんて場所もあった。
ナイト営業もしているようだが、京治さんに話を聞いたところ、
「今は祭りだから、ナイト営業はやっていないんだ。みんな祭りに夢中だからね。あくまでも普通の公共物として、この時期だけ無人で開放されているんだ。それでも、訪れる人はいないけどね」
との事だった。人気の無いところという質問に、京治さんがこの公園を挙げた理由がなんとなく分かった。もし、俺が誘拐犯なら、この自然公園は格好の場所だと思う。
怖い話だが、俺と誘拐犯の考えが同じであって欲しいと心の底から願うばかりだった。
しかし、困ったのがここからだった。エリアが多数あるがゆえに、この公園は手分けして探すには広すぎる。それに、いくら仁都と俺に体力があっても、エリア間の距離も相当ある。当てずっぽうで行っても難しいだけだろう。
夜風に吹かれながら、俺と仁都はマップの前で一歩も進まない状況が続いていた。うーん、と首を傾げ、顎に手を当てながら彼は小難しい顔をした。
「どうするの?すーちゃん。ここ全部回るにしても距離が結構あるみたいだよ?」
「だよな。これじゃ埒が明かない。もう少し場所を絞らないと……」
「んー、俺がもし誘拐犯なら、結構奥地まで連れて行くけど……」
「まぁ、一般的に考えればそうなんだけど、安易な考え方だな。五分五分って感じがする」
「そうかぁ……。あ、じゃあ!敢えて入口から近場とか?」
「両極端だけど、それも捨て難いな……」
ダメだ、全くここから想像がつかない。誘拐犯をやった事がないから当たり前ではあるが、人気の無い場所まで連れ込むのはいいとして、そこから先の展開が読めない。
作家志望のくせにここで想像力が働かないとは、情けない話である。これじゃ外堀を埋めただけで中身を全く見出せていない。
生温い夜風が、思考を余計に惑わせる。焦りを誘うかのように全身に入り込み、じわりと汗が流れてくる。
「……馬鹿だな、なんにも思いつかない」
「すーちゃん……」
心の中で留めていたはずなのに、いつの間にか言葉にしていたらしい。心配そうに仁都がこちらを見つめてくる。その表情に、申し訳なさと不甲斐なさが混ざり、思わず唇を噛み締めてしまう。すると仁都が、あっ、と手を叩いた。
「じゃあさ、俺が両極端な方を行くよ。足の速さには定評がある仁都如月ですから!その方がいいでしょ?」
そう言って、いつものように仁都は笑顔を見せた。ヘラヘラしている訳ではない、人を安心させる力強い笑顔だった。こんな時でも、彼は通常運転でいるのだから、不覚にも安心してしまう。「頼もしいな。それじゃあ、頼む……」と言いかけたその時、
「あの男とクソガキィッ!!どこ行きやがったぁ!!?」
と、俺達の背後から罵声混じりの怒号が聞こえた。驚いて顔を見合わせ、振り返ると、大柄な男が、額には青筋を浮き立たせ、バットか何かを手に持ちながら周囲を見渡していた。俺ら以外に人がいないことを確認すると、チッと舌打ちをして爪を噛み始めた。
相当イライラしているのだろう、手に見て取れる。しかも、貧乏揺すりもしている。焦りと不安がその男から溢れ出ていた。少し様子を見よう、仁都は俺に耳打ちして、男を見ないように二人で世間話をするフリをして様子を伺った。
あの男とクソガキ。それがどうも引っかかり、耳を大柄な男の声の方に集中させた。
男は何度かブツブツと呟いたあと、爪を齧りきってハッキリとこう言った。
「あの銀髪野郎……!!やっぱりあん時、殺しときゃ良かった……!!」
そう男が言った瞬間、俺が動くよりも速く、仁都はその男に近づき、その気迫を笑顔で払いのけ、数回ほど肩を叩いた。
「ああん?」という、罵倒にも聞こえるその返事に怖気つくことも無く、表情を変えないで仁都は男に話しかけた。
「……すみません、そのお話、もう少しお聞かせ願えませんか?」
そう、仁都が尋ねた次の瞬間、大柄な男の悲痛の叫び声が空に響き渡ったのだった……。
お待たせしてしまってすみません!




