第33話 ねむい
第33話 ねむい
「……つーか、わざわざ迎え来なくたって良かったのに」
「えー、だって、二駅くらいしか変わんないじゃん?」
「いや、それこそ迎えに来なくていいだろ」
「いーの!俺がやりたかっただけだから〜。すーちゃんは気にしない気にしない」
まあ、それならいいけど、なんかなぁ……。
と、電車に揺られながら呆れにも似たため息をついた。
ガタンゴトン、ガタンゴトンとスピードに乗り心地よいリズムを奏でている。いつも以上に人が多いが、座れないほどでは無い。適当に二人で並んで座る。
小学生くらいだろうか、麦わら帽子を被った女の子と男の子が窓の外の景色を楽しみながら楽しそうにお喋りをしている。
流れゆく街の景色が珍しいのか、バタバタと足を浮かせている。
あれ可愛いねー!と仁都は微笑ましそうに笑うのだから俺も笑ってしまった。確かに可愛い。まるで小さい頃の俺と姉貴を見ているようだった。自分たちにもあんな頃もあったなあと二人で言いながら、眺めていると
「おはよ〜……う〜眠い……」
「おはよう、二人とも」
と、坂田と田本が電車に乗り込んできた。あ〜、死にそう〜。と言いながら坂田は俺の隣にドカッと座り込む。まるで酔っ払ったサラリーマンのように両腕を背もたれに乗せる。どちらかと言うと、キャバクラでおじさんがやるようなポーズだ。しかも、目の下にはクマが出来ている。髪色とと目つきとも相まってかなり危ない人に見える。
「おい坂田、大丈夫か……って寝てる?」
見れば俺に寄りかかるように静かに寝息を立てている。すーすー、と微かに漏れるそれは安堵したものに見えた。
「あれ、ほんとだ。そーちゃん、ぐっすりじゃん」
「みたいだな……起こすのもあれだし寝かせとくか」
「わーいいなあ!俺もすーちゃん枕にして寝たい〜!」
「……全力でお断りする」
「あーごめんね、雀宮くん。ほんとは俺が枕になってあげたらいいんだけど……大丈夫?重くない?」
「あー……別に平気。仁都ならともかく、坂田くらいなら別に」
「えっ、俺ならって何?!どういうこと?!」
「こら、大きい声出すな。起きちゃうだろ」
「うっ……ごめんなさい」
口元で人差し指を立てると仁都はしゅんと、飼い主に叱られた犬のように小さくなった。いや、そこまで怒ったつもりはないんだが……。大人しくしててくれるのなら、喋るくらいはいいから。と言うと寂しそうな顔から一瞬にして嬉しそうに、にっこりと笑った。
コロコロと表情が変わる。お前は怪盗百面相か。
「……まあ、時間はあるんだし、夢の世界に行かせてあげて」
田本はそう言うとニコッと笑った。聞けば、坂田は新曲の作成に手詰まりしていたようだ。曲作りは坂田の趣味のようで、以前、昼食を四人でとっていた時に、自分が作った曲なんだと聴かせてもらったことがある。趣味で作るにしてはクオリティが高く、歌も自分で録音して編集したのだという。動画サイトにもそれなりに上がってるから時間があったら見てほしいと言われた。
シンガーソングライターもどき、などと自負していたが俺としてはそれ以上の才能があるように思えた。
そんな坂田はあまりにも集中していたのか田本が迎えに来るまで没頭していたのだという。カーテンも窓も締め切った暗い部屋の中、パソコンの画面のみが部屋を照らしていたのだとか。話しかけても返事がなく、最初は死んだのかと思ってしまったくらいに固まっていたのだという。
田本の存在に気づいた途端、力が抜けたように目をつぶって眠り込んだのだという。電車の時間があるので、田本は支えるように坂田を連れてきたのだという。
そう言いながら、田本は、座席に置かれていた坂田のボストンバッグを荷物置き場に置いた。
「一点集中型って言うのかな。その世界観に一度でも入り込むと抜け出せなくなるって言うのかな。昔からの癖なんだけどこれが厄介だったりするんだよねー」
よいっしょっ、と席に座り込み少し困ったような顔をこちらに向ける。
「それが坂田の長所で短所でもあるんだけども。昔から努力家っていうか、頑固っていうか……体壊す限界までそういう事するからほんと心配なんだよね」
そう言う田本の口ぶりはまるで昔から付き合いがあるような言い方だった。なんかこう、仁都が坂田のことを喋っている時よりも詳しいというかなんというか……。
「……この前泊まったときにも思ったんだけど、田本って結構坂田のこと知ってるよな」
「あー……それね。坂田とは親同士が知り合いで、その繋がりでお互いがお互いのこと知ってるみたいな感じかな」
こんな風に喋るようになったのは高校に入ってからだよ〜、と言う。親同士付き合いがあるからと言って、子供同士もそうだということは無いらしい。互いに存在を認知してても関わらなかったのだという。
「へー、そうだったのか。なんか意外だな」
「ふふっ、よく言われるんだよね」
「そうそう!それに、そーちゃんとそうくんは同じさしすせ『そ』の『そ』なんだけど、全く正反対なんだよね」
「学科も違うし……確かにそうかも?」
「これは……そう!まるで似てない双子だね!」
「……ドヤ顔してるけど、その例え可笑しすぎるからな?」
と、仁都を笑いながら3人で適当に話しているといつの間にか、一回目の乗り換えをする駅に着いた。坂田を起こし、田本が支えながら歩く。まだ眠い〜……と駄々を捏ねる子供を宥めるように、俺達は次のホームへと急いだ。
ホームに着くと、既に電車は着いており発車まであと三分前だった。これを逃してしまえば、あと三十分は電車が来なかったので危機一髪といったところだ。
先程よりも席は空いている。俺達はボックスシートに座ったが、またもや坂田は俺の肩を枕にした。何故か分からないが、枕が変わると寝られない現象(?)のようでなかなか離れてくれない。
そのため、俺と坂田、仁都と田本という組み合わせで向かい合うことになったのだが……何しろこの二人はイケメンコンビだ。並べば真夏の太陽に照らされたように眩しく見える。
乗ってくる女子学生や奥様方が艶っぽい目でこの二人に視線をやっている。
黙っているだけでもイケメンな二人なのに、たまに見せる笑いや仕草が女性のハートを射止めるようで、次の駅に着くまでにはかなり視線が刺さる雰囲気となった。
途中、何人か連絡先を聞いてきたが二人は紳士な対応で受け流した。残念そうに肩を落とすものや、それでも喋れて嬉しかったのか喜ぶものやらで色々とこの二人は罪深いなと改めて悟った。
次の乗り換えの駅につく頃にはだいぶ坂田も目が覚めてきたようで、寝ぼけながらも「枕にしててごめんね……」と謝ってきた。別にいいけど、今度からあまり無理するなよ?と言うと、善処する。と言って眠そうな目を擦っていた。
善処する……一番信用出来ない言葉だ。
そう思いながら窓の外を眺めているといつの間にか緑が多くなってきた。大小様々の木々たちが生い茂る森だ。トンネルに入るのかもしれない、と仁都がそう言うと景色はいっぺんに黒くなった。窓ガラスには自分達の表情が鏡のように映っていた。
電車の走る音が大きくなり、段々とトンネルに光が差し込むと……。
そこには、一面、まっさらな青い海と雲一つない空に埋め尽くされていた。町が見え、平地の他にあらゆる場所が坂になっているようでそこに家が建てられ、田んぼも棚田を作り、稲が植えられた水面がキラキラと反射している。
高台を走る電車から見えるそれは、まるで映画のセットかのように美しく、それでいて壮大な景色のように新鮮なものに感じた。
「……見えてきた……!!」
俺は胸を躍らせ、海から薫る潮風を想像したのだった……。
これから始まる俺達の残暑の思い出に期待をこめながら…………。




