第23.5話 がんばればできるんだよ
第23.5話 がんばればできるんだよ
ああもう!!うるさいうるさいうるさい……!!
まともに息もできないほどに、心臓の音がうるさい。口から飛び出しそうだ、なんて表現が世の中にあるように今の俺はまさに飛び出そうだった。
教室を出てしばらく、俺は胸を抑えるようにして歩いていた。夕刻の日差しが窓のサッシに反射して眩しい。陽に熱されたコンクリートの熱気が窓から入り込み、体全体に襲いかかり、思わず立ち止まってしまう。
心臓の音がうるさくてたまらない。それなのに、俺はどことなく『嬉しい』という気待ちに心が埋め尽くされた。じっとしていられなくなって玄関まで逃げるように走った。
途中、先生に「廊下を走るな!」と怒られた気がしたが足を止めるとか、そんな余裕はなかった。
顔が異様に熱い。。体全体がじわじわと熱くなっているのも分かる。思わず恥ずかしくなって顔を下に向けた。
口元がふにゃりとにやけているのが自分でも分かる。姉貴が見ればらしくない、なんて馬鹿にするのだろうけれども……それでも俺は嬉しかったのだ。
「……ははっ、あはは、また明日、か」
気づけば、校舎と校舎をつなぐ渡り廊下で足を止めていた。部活動に勤しむ生徒達の声や、吹奏楽部の演奏がハーモニーとなって空に響く。日差しが傾き、俺の後ろには大きな影が伸びていた。
周りに誰もいないことを確認し、呼吸を整えるように深く深呼吸を繰り返した。はーっ、と吐き出したあと、俺は頬を両手でぺチンと叩いた。
……頑張れば出来るじゃんか。
そう、自分の心に言い聞かせた。もう一人の自分がいたら頭を撫でてクシャクシャにしている所だ。
そうじゃなくても誰かを今すぐだきしめてしまいそうなくらい俺の心は舞い上がっていた。
初めてクラスメイトと会話できた。周りから見ればとても下らない事で当たり前の事かもしれないが、俺にとっては大きな一歩だった。
………いつもいつも、一人ぼっちだった。あの日からずっと、中学の時だって誰一人俺のことは覚えていなかった。おはようも、さようならも、また明日って言う言葉を交わす、いや、交わしてくれる相手はいなかった。俺も、彼らも目を背けていたからだ。だから、こんな気持ちになったのは初めてだった。
『ああ、また明日も学校に来ていいんだな』と。
また明日、なんて別れの言葉は学生の中では社交辞令の一つだろう。それでも俺にとっては、自分がまたここに来てもいいよと誰かに認められているようで嬉しかったのだ。単純なことだけど難しいこと。だからこそ俺の心に深く深く染み渡っているのだ。
「……また明日も行かなきゃな」
と、もう一度気合を入れるために頬を叩いた。もう顔は熱くない。心臓の鼓動も通常運転。俺は足取り軽く、踵を翻して玄関へと向かった……。
……しかし、幸せな時間というのはあっという間に過ぎていくもので、俺はまさかあの人の一面を垣間見ることになるとは、この時は何も思わなかったのである。
これも結局収まらなかったので……という感じです。
次からはきちんと区切りのいいお話となっております。




