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第23話 じゃあ、またあした

 第23話 じゃあ、またあした


 ……つくづく、欲望のある人間というものは、一度決めたことにはなんでこうも行動に起こすのが早いのだろう。普段では有り得ないほどの計算の高さと状況把握の高さをほこる。それをある種人々は才能だと言うが、俺としてはあまりそうとは思えなかった。何故ならば、それがロクでもないという事を知っていたからだ。


「……最新作の、乙女ゲーム……だぁ?」


 俺はそう言葉にしながらスマホの画面を割る勢いで握りしめた。


 現在、放課後。ホームルームが終わった直後で委員長がレポートを集めている最中だ。

 中にはレポートを終わらせてないやつが多く、委員長もその本人達も頭を抱えていてうるさい程騒がしかった。


 そんな中、俺は一人スマホの画面とにらめっこしていた。

 画面にはメッセ欄が表示されており、差出人は姉貴だった。滅多に連絡などしてこないため、何が来たのかと恐る恐る開けるとこのような内容だった。


『なーくんへ♡可愛い可愛いお姉さまの代わりに、本日発売の最新作乙女ゲーム「黄昏時に貴方を想ふ」を買って来てください♡期間限定パッケージとノーマルパッケージと二つお願いします♡』


 ……なんなんだこれは。俺に対する殺害予告か何かか?は?乙女ゲームを俺が買ってこい……?は?こいつ何言ってんの……?!送る相手間違えてるんじゃないか……と二度見したが現実はそう簡単に変わることは無かった。


 しかもこのメッセ、ほぼ語尾に♡マークついてるじゃねえか!気味が悪くて仕方ねえ!いつもならテンプレの愛想のない定型文しか送ってこねえくせに背筋に悪寒が走ってしょうがない。

 しかも、この姉、ふざけた文ながら意外とちゃっかりとしているのだ。


『お金に関しては、お店のポイントカードと封筒に同封して、なーくんの鞄の中に入れて置いたので必ず使ってくださいね^^♡

 PS:封筒の金パクったら殺すからな』


 ……やばい、か、確信犯だ。こいつ、確信犯だ。しかもなんだよ笑顔のあとに♡マークとか !

 もう完全に殺しに来てるだろ !最後の文とかやばすぎるだろ!もはや呪いの文にしか見えねぇよ !

 今すぐお祓いしたいレベルだわ !

 つーか、俺の部屋に無断で入ったってことだよな。もう、人の鞄の中開けるとかプライバシーもヘッタクレもないな……。


「……自分の部屋に入るなと言いながら、自分は入ってんじゃねえか」


 気づけば心の声が口から出た。やばいと思ったがここは学校だ。どれだけ姉貴の文句を言おうが本人に聞かれてる訳では無いのだ。

 というか、弟ってだけでなぜこんなにも、姉貴の下僕として働かないといけないんだ?!


 これでも一応、雀宮家の長男だぞ?!なんていうか、もう少しこう!長男としての威厳を発揮(?)させてたたせて頂いてもよろしいんじゃないんですかね?!と、ギリギリと両手でスマホを握りしめていると、「…あのー、雀宮くん?」と声をかけられた。


「え、あ、ああ、委員長……」


 顔を上げればそこには、クラス委員長である瀧本が立っていた。黒髪の黒縁眼鏡でそれなりにイケメン。聞いた話では弓道部のエースとかで他クラスでも話が持ち上がるほどなのだという。

 正直、俺自身、瀧本と交わした会話は五本指で事足りるほど。ってか、クラスの委員長とすら会話してないとか致命傷過ぎないか……?


 そんな彼は片手に数十冊のノートを持ちながら、心配そうに眉を下げてこちらを見ていた。


「大丈夫?なんか、今すごい力込めてたみたいだけど」

「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと知り合いから連絡があっただけで……」

「知り合い? それって、仁都如月のことかい?」

「え”っ?!」


 と、俺が声を上げるのと同時に真後ろの席から「仁都如月?!」と叫ぶような声が聞こえた。両耳を貫くような声に俺は肩をビクッと震わせた。

 恐る恐る振り返ると、そこにはレポートと葛藤しているであろう、クラスメイトの田端が机に伏せていた。何も書かれていない真っ白なノートがまさにそのまま葛藤を物語っていた。茶色のくせっ毛のふわふわとしている。そして、俺と目が合うと、持っていたシャーペンで指さした。


「仁都如月ってあれじゃん?工業科の奴だよな?イケメンで有名だよなあ〜!この前来てたよなこのクラスに、な?雀宮」

「うん、確かに彼はこの前きてたよけどさ、それよりも田端うるさい。喋る暇があるなら手を動かせよ」

「ちょっとちょっと委員長さんよ〜。堅い事言わんといてくださいよ〜!俺は今、雀宮に質問したんですから勝手に答えないでくださーい」

「……あのな、レポートが終わってないお前に発言権が有ると思うなよ」


 と、瀧本が少し睨むと「へーへー」と不服そうに課題へと目を落とした。彼は呆れたようにため息をついてやれやれといった。


「悪い、こいつ情報収集が趣味なんだ。悪趣味だからまともに関わらない方がいいよ」

「悪趣味ってなんだよ!ジャーナリストだってーの!」

「……いい加減にしないとあと五分で職員室行くからな」

「う、うわーい!僕レポート書くのたのしー!!」


 ……なんだかこの二人を見ているとどことなく仁都と坂田に似ているような気がする。当てはめてみるとピッタリだ。それが面白くてクスッと笑った。すると、委員長は軽く咳払いをしてからこう言った。


「いや、ごめん。さっきは聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな?」

「いや、別に……。仁都と知り合いなのは事実だから。でも、今のは姉貴からの連絡だから」

「えー!!なになに?!雀宮泪、姉ちゃんいんの?!え、いくつ?!美人?!良かったら紹介してくれよ〜!!」


 ……その瞬間、ゴッ、という何か鈍い音がした。まさに文字通り一瞬の出来事だった。瀧本の作ったこぶしが、田端の頭上一直線に振り下ろされたのだ。田端は声に出せないほどの痛みで頭を抱え、殴った本人は涼しい顔で袖を直していた。


 あ、あれだ、前言撤回だ。

 坂田と仁都とかって言う生ぬるいもんじゃない。坂田はどっちかって言うと全体的に緩いし手は出ないけど……瀧本の場合は鉄拳制裁。

 いや、面倒見は良いから肝っ玉母ちゃんなのかもしれない。

 ちょっと怖いけど……なんか面白いなあ。


 と、そんなコントのようなやり取りに思わず「あははっ!」と笑うと、「あ、笑われた〜!今のはぜってー、タキのせいだからな〜!訴訟訴訟〜!」と田端は口を尖らせてぷんすかぷんすかと言いながら怒っていた。「はいはい

 不起訴不起訴」と、瀧本は適当に流した。


「つーか、意外と雀宮も笑うんだな!笑ったら結構いい顔してんじゃん!」

「おいこら!バカ田端!言い方に気をつけろ」

「バカ?!」

「こいつの言うこと気にしなくていいからね、雀宮くん。デリカシーのないやつだから……」

「大丈夫大丈夫、こっちこそなんか笑っちゃってごめん。なんていうか……こう、仁都に似てるもんで、つい……」

「えー?!マジマジ?!具体的にどの辺が似てる〜?まあイケメンなのは俺の方だって知ってるんだけどさ〜!」

「お前と仁都じゃ月と、すっぽん以下だよ」

「んだとこんにゃろ!!そういうお前だってなあ!」

「ハイハイ、付き合ってあげるから早く課題終わらせましょうね〜」

「…ぐぬぬぬ」


 と、田畑は解せぬような顔をしながらも渋々真っ白のノートへと向き直った。


「引き止めててごめんね、提出して貰ったからもう下校しても大丈夫だよ」


 そう言うと、瀧本は空いている田畑の隣席についた。付きっきりで見るつもりだろうか。瀧本も部活がある筈なのに、それでもつき合うのはこの二人の仲の良さが出ているのだろう。

 提出が間に合わないのは田畑だけのようだ。他のクラスメイトは悲鳴をあげながらも続々と提出していってる。

 委員長職も大変なんだなあ……と思いながら鞄を手に持って教室を出ようとすると、


「また明日ね、雀宮くん。帰り道に気をつけて」

「じゃあーなー!!また明日ー!!!バイバーイ」


 と二人とも手を振ってくれた。突然のことに戸惑いながらも、俺も小さくながら手を振り返した。


「また、明日」


 ……それは、生まれて初めてクラスメイトと交わした、別れの挨拶だった。


新キャラ、クラス委員長の瀧本と、クラスメイトの田端が出ました。


準レギュラーなのでそこまでキャラデザ考えてませんが、彼らもある程度雀宮に関わってくるので応援して頂けたらなと思ってます。

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