(7)
(7)
間違いなく、ここが教会堂の告解室でなければ、ティルは大声でトーマを怒鳴りつけていたであろう。ティルは、単にトーマのことを心配してくれたのであろう…、トーマもまた、素直に頷いた。
溜息をついて、ティルは、ゆっくりとトーマの黒い瞳を覗き込んだ。
呪文と唱える。
ティルは、自分の脳裏に移りこんでくるトーマの情報を、整え、文字化していく。
そして、…絶句した。
姓 (ナカガミ)
名 トーマ
職業 【探索者】、【猟兵】
レベル 100
加護 支援(最高位)、祝福
踏破 【イゼルの大迷宮】
備考 【落人】
「トーマ、レベル100になってる…」
「!!! まさかそこまで…」
「しかも、【イゼルの大迷宮】を踏破したことにもなっているわ。」
「え、俺は【迷宮主】に会った事なんて、一度もないけれど…」
「【大浄化の祝祭】の時、身体強化の術式を加えたパーティが、【迷宮主】を倒した為かしら…」
「ああ…、あのときは…」
額に手を当てるトーマ。
「地下7階に降りた400人全員に、常時発動型の支援を講じてた…」
ティルは唖然とした。
以前に説明したとおり、常時発動型の支援は、通常100の能力を103に引き上げるような技能である。一つの戦闘に際して、【探索者】の能力分が経験に反映されるのであれば、支援者は引き上げ分の3にあたる部分だけ、その戦闘に貢献し、経験を得るという形になるのであろう。
実際には、そんなに単純な仕組みではないが、たとえ話としては分かりやすい。
さて、その引き上げ分の3を、約400人の【探索者】に講じた場合、その支援者は、活性化した【大迷宮】の地下7階・8階の魔獣を殲滅する戦闘に、どれだけの影響を与えたことになるのだろうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2人とも、事の重大性と、ある種の馬鹿らしさ加減のため、黙り込んでしまう。
「ま、まあ、トーマ。誰かの迷惑になるわけでもないし。」
「そ、そうだよね…。」
「…」
「…」
「でもね、トーマ。やっぱり、この力は隠しておいた方がいいと思う。」
「やっぱり、19歳でレベル100なんて異常だよね…」
「それはそれで、そうかも知れないけれど…。400人に身体強化を付与できるって…まるで、【軍】の規模だよ。」
「…!」
「そう、同時に数百名の人間を身体強化できるなんて技能、【軍】が聞いたら、目の色を変えると思う。多分、規模の大小はあるけれど、【支援の加護】について、うちのエイベル司教もそのことに気が付いていると思うの…」
「エイベルさんが…」
「嘘をつくのはいけないことかも知れないけれど、『400人に』身体強化を付したことは黙っていていいと思う。それに、レベルの鑑定もしていない、って言ってもいいと思うの。」
「そうか。鑑定自体は、ほんの2か月前、探索者組合に登録する前に【ファルベーレル】で済ませているし、ずっとこの組合員証の登録レベルでごまかせばいいのか…。」
「でも、タリウスさん達の前での立ち振る舞いとかには気を付けないと。動きとかで、上級レベルに達したことがばれたら、「鑑定してもらえばどうか」って絶対いわれると思うよ。」
(ずっと、自分に身体強化術式を講じていて、トーマの魔力は大丈夫なのかと思っていたけれど…。)
最上位のレベルに達しているのであれば、専門の術者ではないトーマであっても、その保有魔力は常人と比べものにならない量となる。本来、筋力であるとか、精神力等の要素の成長に伴い、レベルは上昇していくのだけれど、トーマの場合、先に枠が拡張し、それに身体や精神が追いかけているような状況なのであろう。
(トーマの【支援の加護】がもっとも活用できる場…それは、【大浄化の祝祭】ではなく、むしろ【戦争】…)
そして、ティルはこのことを決して口外しないことを、神とトーマに誓った。