第10話 馬鹿野郎どもな幼馴染
父が亡くなって以来のピンチが僕を襲った。幼なじみの来襲! これは使徒どころの騒ぎじゃないから!! 助けて天国の父さん!!
「急に照れたように顔を真っ赤にしてどうしたの? かわいいわよ? 夏海」
姉が座っている僕の顎に手を掛けて顔を覗き込んできた。
「び、美少女同士が見つめ合っているだと!? って、片方が夏海なのかよ!! 返せよ。俺のトキメキを!! ちくしょう!!」
誠、嘆きたいのはこっちの方がよ。なんでこんな姿を知り合いに見せなきゃいけないんだよ。ああ、み、見られてしまった。こんな姿の僕を…
恐る恐る横目でチラッと僕の大好きな女の子であるハルカを見ると驚愕した顔をしている。そうだよね。だって、幼稚園の頃から知っている友人がいきなり女装していたら驚くよね。
…何て説明するればいいんだ!? 僕のそんな悩みなど知らない呑気な姉のアリシアは、
「あの子がいいのかしら? 確かに可愛いものね」
と言って耳打ちしてきた。ああ、アリシア姉でも勘違いするのか。僕はため息を吐いた後に姉の指した方向を見る。確かにかわいい。うん、僕も見た目だけならば大好きだよ。
薄い茶色の長髪の毛先を軽くウェーブさせている。パッと見ると、どこぞのお嬢様風な容姿だしな。ああ、笑顔だけ見るとこちらまで微笑んでしまいたくなるくらいだ。
でもさ、僕は声を大にして言いたい。アリシア姉様、そいつ、実は男なんですって!
「…彼は男です」
「嘘!? それ本当?」
姉が驚愕の表情でカオルを凝視する。そうなんだよ。姉様、奴はあんなに可憐な容姿をしてるけどさ。男なんだからやってられないぜ!!
「夏海、聞こえているわよ。ひどいわ。ぬいぐるみを可愛らしく抱いている人にそんなことを言われるなんて!!」
「そ、それを言うなよ!!」
誰が、好き好んでぬいぐるみを抱くものか!! だが、この姿を見られた後でどんなことを言っても信じて貰えそうにないよな。
…そう考えるとヘコむわ!! でも、言い訳の一つでも言っておかないと心の平穏が保てそうにないからね。僕は無駄だとわかっていて言い訳を口にすることにした。
「僕は好きでこんな格好をしているわけじゃないんだ!! この国が……」
「黙りなさい!!」
凄い目つきで睨んできたよ。国の仕来りの所為で強要されていると言いたい。いや、僕も男だ! 言う必要があることはハッキリと言ってやる!!
「実はこの国には仕来りが…」
「黙りなさい? 夏海、わかってるわね?」
「はい、アリシア姉様」
表情に笑みを作って、優しげな声を出していても目が鋭いです! アリシア姉様、目が笑っていないですよ。
「まぁ、気を取り直して。なぁ、夏海、この国を案内してくれよ」
誠が僕とアリシア姉様の空気を察して、話題を変えるようにそう言ってくれた。ナイスだ! さすが誠だ。僕が通っていた中学でデキる男No.1と言われていただけはあるな。
「そうね。どうしてそんな格好をしているかはあとで細かく聞くとしましょう。それよりも海外に折角きたから観光よね!!」
「夏海くん、案内してくれる?」
誠やカオルはどうでもいいけどさ。ハルカにそんな風に頼まれると二つ返事で答えたくなるよな。僕は快諾するように頷いて、
「もちろん、案内するよ。うーん、どこが良いだろう」
と言って考え込んでいたんだ。
「ごめんなさいね。この子はこの国の言葉がまだ挨拶しかできないのよ。まともに街を案内することなんてできないわよ」
すると、唐突にニヤニヤ笑ってアリシアがそう言ってきた。確かに言葉を話せないのは事実だけどさ。友人の観光を手伝うことくらいはできるよ! 失礼な!!
「ちょ、ちょっと、お姉様!!」
姉が放った言葉に反論するために僕が息巻くと、
「お姉様ですって!! ユリよ! いや、美少女の格好をした男の娘と美女の倒錯ものね!!」
と言って、カオルが喜びを孕んだような甲高い奇声を発してきた。
「…ちょっと興奮する」
ハルカ? 君もなの!? 幼馴染の新たな一面に触れた僕はその衝撃で一瞬フラつくが、
「落ち着け、お前ら!! 重要なのはそこじゃないだろう!」
と誠の声を聞いてなんとか持ちこた。そうだ!! 誠の言う通りで、重要なのはそこじゃないだろ!!
「百歩譲って、この馬鹿が女装好きの変態で、なおかつバカだとしても大きな問題はなかっただろう?」
いえ、それは問題大有りだよ! 確かに僕は学校の成績は低いよ。でも、僕はバカじゃない!! さらに女装好きとは聞き捨てならないよね!?
「このやる気なしのバカは挨拶しかできなんい状態だって? 笑える。コイツがいるから安心して、来たのに実は会話すらまともにできなんてな。予想外だ。俺たちはホテルすら取ってないんだぞ…」
な、なんて無謀な計画を立てるんだよ。両親がよくそれで許してくれたな!? こっちが驚愕だよ!! ああ、そんなことをカミングアウトして欲しくなかったよ。馬鹿野郎ども!!
「そうね。夏海は学業に関して向上心の欠片もない。カードゲームバカとは言っても1ヶ月も経っているんだからといろいろと助けてくれると思ったのに…」
いや、そもそも突然に押し掛けてきた君たちの面倒を見ることが前提なのがオカシイとだれかツッコミを入れてください。
「やれやれね」
おい、カオル! どっちがやれやれだよ。
「本当にバカには困ったものだ。なぁ、カオル」
そうねとカオルは言って頷いた。ああ、散々な言われようだ!! ちくしょう!!




