第5章 第3節 その2
「これが最後です! 階段を上りましょう!」
私が声を掛けた。
軽装のガストが弓兵から痛恨の一撃を連続で喰らい、あわやというアクシデントもあったが、どうにか広間のアンデッドどもを一掃した。何せ敵の数が多く、二階に行こうとしても進路が塞がれ邪魔されてしまう。セレスの呪文はほぼ打ち止めとなり、ガストの加速系呪文も効果時間が過ぎたため、地道に対処するしかなかった。魔男爵ほどの難敵はいないためまだ楽だったが、地味にHPを削られるので、それを回復する私のMPもガツガツだ。
フロアの敵を倒した後は、弓兵だ。《風壁》を避けて移動してきた二階右側の弓兵を倒し、魔男爵の鎧やどの所持物が残る踊り場を通って、今度は左側の階段を上る。城壁の上もそうだが、遠隔攻撃する敵はたいてい遠い場所にいるので、倒すのは正直面倒臭い。
左側二階の敵を殲滅すれば、戦闘が終わるはずだ。
攻撃力の高いガスト、防御力の高いセレスの二名が先陣を切り、グースが討ち漏らしにとどめを刺す。精霊ジンは私の近くにいる敵を倒し、私自身は回復呪文を唱えつつ、MPポーションで不足分を補う。
最後のゴミ掃除みたいな戦闘で二階左側への階段を上り、奥へ進んだ。
もうすぐで殲滅できそうだ。
きっと誰もがそう思っただろう。
そこに油断があった。
「おい! 広間を見ろ!」
グースの叫びを聞き、二階部分から見下ろすと、灰色の煙が朦々と立ち込めていた。
「え? 何? 火事?」
私が応じると、セレスはスケルトン弓兵を一刀で切り伏せた後に目を向ける。
「何も燃えていないのに火事なわけはありません! 煙の中に生き物はいない。あれは煙幕よ! グース!」
「おう!」
彼は右手に短剣を握ったまま、バルコニーの柵に左手を付き、柵を飛び越えた。
両足で軽やかに着地すると、煙の中に姿を消す。
セレスから次の指示が出る。
「カリーナ、《風壁》で道を!」
MPは回復したばかり、FPにも余裕がある。
ステータスを開き、呪文を選択する。
「風の神よ。その気まぐれな揺らぎを束ね、壁となれ! 《風壁》!」
グースの着地付近から煙の濃い方向に向かって、《風壁》を立てた。
風壁の中は垂直の風が吹き、煙をまき散らす。
「おおっと! こいつはゴキゲンだな!」
髪やイヤリングを風に揺らされながら、グースが《風壁》の中を駆け抜けた。
私が築いた風の壁は、大広間正面にある一階から二階へ続く階段とその先の踊り場へと続く。階段が左右に分かれた踊り場には、魔男爵の鎧が残っていた。
しかし、それだけではなかった。
そこに人影がある。深紅の鎧を纏った戦士だ。
彼は腰を屈め、禍々しいオーラを放つ鎧を拾い上げた。
フルフェイスヘルメットの視線をグースに向ける。
「……」
視線を向けられただけで、グースは足を止め、立ちすくむ。
「――お、お前……ま、まさか……」
グースが呆けたわずかな間で、赤い鎧の男は鎧を手に煙の中に消えた。
その動きは人間離れしており、一気に向こうの階段を上り、二階の奥へと逃げる。
おそらく彼は煙弾を投げる直前に、《加速》の効果を得ていたのだろう。
もはやグースにも追い付くことはできなかった。
魔男爵は倒したものの、パーティには不穏な空気が漂った。
すべてを奪われたような感覚に陥り、そして、私たちは途方に暮れた。




