十針目『赤い空の放課後』
瓦礫を蹴る音が、静かな街に響く。
空木たちは、崩れた道路を必死に走っていた。
後ろから、黒い“ソレ”が追ってくる。
速い。
人間じゃない。
地面を滑るみたいに走っている。
「こっちだ!」
男子生徒が叫ぶ。
空木たちは細い路地へ飛び込んだ。
崩れたビルの隙間。
薄暗い。
焼けた臭いが強くなる。
「はっ……はっ……」
女子生徒の一人が泣きそうな声を漏らす。
後ろから。
ガリッ。
壁を引っ掻く音が聞こえた。
近い。
ソレはまだ追ってきている。
男子生徒が立ち止まり、周囲を見回す。
「……まだ残ってたか」
その視線の先。
路地裏の奥に、小さな店があった。
シャッターが半分だけ開いている。
看板は焼け焦げて読めない。
男子生徒は迷わず中へ入った。
空木たちも続く。
店内は暗かった。
倒れた棚。
散乱した商品。
埃。
まるで何年も放置されていたみたいだった。
男子生徒がシャッターを引き下ろす。
直後。
ドンッ!!
外から衝撃。
全員が息を呑む。
だが。
それ以上、音はしなかった。
静寂。
誰も喋れない。
空木は荒い呼吸を整えながら、店内を見回す。
その時。
彼女が、小さく呟いた。
「……コンビニ」
空木は顔を上げる。
確かに。
崩れた棚には、飲料や雑誌が散らばっていた。
どこにでもあるはずの場所。
なのに。
異様だった。
窓の外は赤い空。
遠くで銃声が鳴っている。
なのに店内だけ、
“普通の日常”が腐ったまま残っている。
空木は、床に落ちた雑誌を拾う。
その表紙を見た瞬間。
心臓が止まりそうになった。
掲載日。
──2036年7月12日。
「……十年前?」
空木が呟く。
その瞬間。
男子生徒が、初めて驚いた顔をした。
「お前……そこ覚えてるのか」
「は?」
「年号」
空木は眉をひそめる。
何を言ってる。
普通に見えただけだ。
だが。
周囲のクラスメイトたちは、困惑した顔をしていた。
「……え、何年?」
「2036……だろ」
誰も反応しない。
女子生徒の一人が、小さく言う。
「今って……何年だっけ」
空気が凍った。
空木は言葉を失う。
思い出せない。
自分たちが、何年を生きていたのか。
スマホを取り出す。
画面は真っ黒だった。
電源が入らない。
その時。
店の奥から。
──カチ。
音がした。
全員が振り返る。
暗いバックヤード。
その奥で。
何かが鳴っている。
カチ。
カチ。
秒針の音だった。
男子生徒の顔色が変わる。
初めてだった。
彼が、はっきり動揺したのは。
「……なんで、ここにある」
カチ。
カチ。
存在しないはずの音が。
暗闇の奥から、鳴り続けていた。




