表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風を読む 那須与一宗隆 手塩の弓 全十章  作者: あっちゅ寝太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

風を読む 那須与一宗隆 手塩の弓 十章

第十章:那須の風、再び(エピローグ)

一、那須七騎の結束 ― 黄金の食卓の完成

壇ノ浦の潮騒が遠ざかり、那須の山々に懐かしい土の匂いが戻ってきた。

与一は、縄を解かれた九人の兄たちを連れ、故郷の土を踏む。かつて自分を追い出した兄たちは、今や「左衛門尉」という官位を持つ弟の背中を、畏敬と困惑の混じった目で見つめていた。

「……兄さんたち。ここはもう、戦場じゃねぇ。俺たちの山だっぺ」

与一は兄たちを「那須七騎」として各領地に配し、一族をバラバラの点から、強固な網へと編み直した。

彼は生涯、京や鎌倉の華やかさに背を向けた。左衛門尉という重い肩書きを脱ぎ捨て、泥にまみれて民と粥を啜り、風の中に「次に来る嵐」の気配を聴き分ける。

資隆がかつて夢見た、一族全員が腹を空かせずに笑い合う「黄金の食卓」。それは、与一が握る煤竹の弓によって、那須の地へ深く、深く根を下ろしたのである。

二、天正の嵐と、資晴の述懐 ― 四百年の風

時は流れ、天正十八年(1590年)。

季節は巡っても、那須に吹く風の鋭さは変わらない。だが、時代の風はあまりに荒々しかった。

小田原の空を埋め尽くす豊臣秀吉の軍勢。その圧倒的な「力」の前に、参陣が遅れた那須家は絶体絶命の危機に立たされていた。当主・那須資晴は、没収を告げられるのを待つ静寂の中で、代々伝わる「煤竹の弓」を撫でる。

四百年前、与一が握っていたその弓は、今も微かに煙の匂いがした。

(標的は、名誉じゃねぇ。生き残ること、ただそれだけだっぺ……)

資晴の瞳に、先祖から受け継がれた「職人の光」が宿る。

彼は、京の作法や武士の体面をすべて脱ぎ捨てた。あえて「間抜けな田舎武士」を演じ、泥臭い方言を武器に、豊臣政権という巨大な怪物に食らいついていく。その姿は、かつて安達盛長を「無欲」で黙らせた与一の生き写しであった。

三、結び:しぶてぇんだっぺ

資晴の、なりふり構わぬ弁明と、石田三成らへの執拗な根回し。それは「武士の美学」からは程遠いものだったかもしれない。だが、その「二枚腰」の粘りこそが、那須という大樹を折らせなかった。

秀吉の許しを得て、領地を奇跡的に安堵された夕暮れ。資晴は小田原の海越しに、遥か那須の山並みを想った。

「天下が変わろうが、風が吹こうが、関係ねぇ。那須の人間は、しぶてぇんだっぺ」

資晴は弓を強く握りしめ、かつて与一がそうしたように、小さく笑った。

「……さあ、飯にするべ」

その一言は、八百年の時を超えて、一族を繋いできた魔法の言葉。

一筋の矢が放たれる。

それは屋島の海を越え、戦国の嵐を抜け、まだ見ぬ未来の空へと、高く、高く飛んでいく。

風を切り裂くその音は、いつまでも那須の山々に響き渡っていた。


 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

 那須与一というあまりに有名な英雄を、もしも「英雄になりたくなかった、一人のストイックな職人」として描いたらどうなるか。そんな発想からこの物語は始まりました。

 華やかな源平合戦の裏側で、泥臭く「生存」を追い求めた那須一族の執念を感じていただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。八百年の時を超えて、今を生きる私たちの背中にも、あの「那須おろし」のような力強い風が吹くことを願っております。

【作者からのお願い】

 もし「与一の生き様に共感した」「那須一族のしぶとさに勇気をもらった」と思っていただけましたら、画面下のブックマーク登録や、評価の**「いいね(点数)」**をいただけますと幸いです。

 皆様の一つひとつの応援が、次なる物語を紡ぐ「風」となり、何よりの励みになります。

 また別の物語、あるいは那須の空の下でお会いしましょう!

 ごっつぉさんだっぺ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ