第百六十六話
「…アル、おきてよ。…ついたよ?」
突然、誰かに揺らされて起こされた。ベッドから起きて寝ぼけた頭で横を見ると、アリスが横に立っていた。
「ああ…」
なんだ…。…さっきのは夢?
アリスに状況を確認しようとすると、僕の体は勝手に立ち上がった。
…えっ? 体が勝手に動いてる…。不思議だ…。…これが消えた未来なのか?
僕と皆はハッチから降りてどこかに向かっているようだったが、どこにいこうとしているのかわからなかった。急にすべての音が遮断されて無音の世界になったのだ。
ここは…どこだ? 人間達が沢山すんでるみたいだけど…神族の国か? どこかの村に入ったみたいだな…。…あれ? この村…人間達がいない? どこかにいったのか?
疑問に思っていると、急に景色がぐるぐると高速で回りだし、ゆっくりとゆっくりと画面が赤くなり静止した。すると、目の前には血まみれになった巨大な赤いドラゴンが無数に切り刻まれて目を開けたまま倒れていた。
…うぉ! びっ、びっくりした…。って、なんだ…このでかいドラゴン…。…こいつ、死んでるのか? 一体だけじゃないな…。何体も…。まさか、魔王に…!?
僕の体は勝手に動きだして、走りだした。そして、牙を向き襲いくる何体ものドラゴン達を次々に容赦なく叩き斬った。辺りには血の湖ができていた。
なっ、なんだこれ…。…俺が殺しているのか? …なっ、なんで? …どこにいくんだ!? おっ、おい、やめろ! なんで、殺してるんだ!?
僕は止めようと思い心の中で叫んでいたが、勢いは増すばかりで全く止まらなかった。数千体のドラゴンを殺し終わった後、また景色がぐるぐると回りだした。
なっ、なんで、俺…あんな事…。
…ん? …なっ、なんだ、扉?
この部屋にきたかったのか?
一体、なにがあるんだ?
僕は自分自身の行動に驚いていると、十数メートルもある見上げるほど巨大な赤い扉が目に入った。重厚な扉を開けようとすると、軋むような音が急に聞こえてきた。身を凍らすほどの風が吹き、心臓の音が高鳴っていく中、この世界の僕は血まみれになった手でゆっくりとそれを開いてしまった。開けても何も変わらない。不変の事実…。そこには綺麗に並べられた死があった。
おい…おい…。なんだよ…。
まさか、これ……。
…うわぁあああああ!
……うっぐっ…。あぁ…。はぁ…はぁ…はぁ…。
地獄のような光景に悲鳴をあげていると、また景色がぐるぐると回りだした。目の前には僕に剣を向け、悲しそうな表情をしながら、皆が立っていた。声は聞こえなかったが、僕を止めようとしているようだった。
おい…やめろ…。やっ、やめろ! やめろって!
必死に止めようとしていたが、僕はすぐに無駄だと気づいた。黒い竜のような姿になった僕にはもう理性の一欠片も残っていない。ドス黒い感情が渦巻く、ただの獣と化していた。一瞬の迷いもなく皆に襲いかかり、怯えたアリスの瞳に映ったその姿は悪魔としか言いようのないものだった。赤く染まっていく剣をただ呆然と見るしかない。容赦ない非常な攻撃は彼らを全滅させるにはそうかからなかった。
みっ、みんな…。みんなが…。おっ、おい、お前…。
そして、僕は想像もしていない…想像もしたくない行動をとりだした。目をつぶっても、僕の頭の中に直接映像が流れ込んでくる。まるで、思い出すかのように…。
……なにしようとしてるんだ…。
……やめろっ…やめろ……。
…やめろぉおお!
俺は…そんな…そんなこと知りたくない…。
…やめろぉおおおおおお!
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「…アル、大丈夫? うなされてたけど…」
「…うわぁあああああ!」
僕はその声に驚いてソファーからバタッと落ちた。アリスは駆け寄ってきて心配そうに見つめていたが、僕は今の状況がまるで理解できなかった。
「…だっ、大丈夫?」
「…アッ、アリスか? …生きてるのか?」
「他に誰に見えるのよ…。…っていうか、寝ぼけてるの?」
「……ステータス…スキルを表示しろ…」
「了解しました…」
床から立ち上がり、ヨロヨロになりながらステータスを開いてスキルを確認した。そこにはただ一つを除いてなにも表示されていなかった。
「夢じゃ…ない…」
「…ねぇ? どうしたの?」
「…近づかないでくれ……」
「なっ、なによ…。…もしかして、さっきの事、怒ってる? ごめん…。さっきのは違うの…。私、本当にアルのこと心配で…」
「いっ、いいから、俺に近づくなぁあああ!」
大声をだして突き飛ばすと、アリスはソファーにぶつかった。僕は色々な感情がごちゃまぜになリ、自分でも訳がわからないくらい混乱していた。
「…きゃっ!」
「はぁ…はぁ…。ごめん…」
「…アッ、アル?」
「うっ…!」
「ちょっ、ちょっと、だっ、大丈夫?」
吐き気がして両膝を地につけて、口を抑えると、アリスは僕を抱きかかえて、やさしく背中をポンポンと叩いた。抵抗しようとしたが、悔しい事に安心してしまい全く力が入らなかった。
「……」
「…落ち着いた? 悪夢にうなされてたんだよ…。大丈夫…。夢だから…」
「……ちがう」
「…えっ?」
「……夢じゃない。夢じゃなかったんだ…」
僕はそこで意識を失い、次に目覚めたのは一週間後だった。




