第百四十五話
「…でも、ここまでやらなくても、もう少し範囲を小さくできたんじゃないのか? …悪魔ってちっちゃいだろ?」
僕がそんな事をいうと不思議そうな顔をしながら、ウィンディーネは首を傾げた。なにか変なこといっただろうか?
「なにいってるの? だから、最低限の範囲にしてるのよ。なにを勘違いしてるのかわからないけれど…。この大陸自体が悪魔の体なのよ?」
「…はぁあ!? いや、そんなはずないだろ。俺が戦った悪魔は俺とそんなに変わらなかったぞ!」
「…そんなわけないじゃない。はぁー…。元々、この星はね…。悪魔の体の周りに小さな星がぶつかってできたの…。神がわけたっていっても、そんなちっちゃいわけないでしょ?」
衝撃の事実が次々でてくるな…。…でも…どういうことだ? …あれは悪魔じゃない?
「…じゃあ、俺が戦ったのってなんだったんだ?」
「そんなの知らないわよ。見てないし…」
ウィンディーネは両手を広げて首を横に振ると、不服そうな表情をして両手をくんだ。
「…っていうか、なんでそんな大昔の事を知ってるんだ?」
「なんでっていうか…。…ヴォルトどう思う? いっていいかな?」
ヴォルトはくるくると回りぴょこっと跳ねた。声はでていなかったが、精霊達は会話しているようだった。
「……」
「でも…」
「……」
「まぁ、そうよね…。大昔の事だし、今更知ってもどうしようもないか…。私達が悪魔の精神体だなんて…」
「あっ、悪魔の精神体!?」
急に立ち上がったせいで、椅子がバタンと倒れた。僕の反応に精霊達も驚いてるようだが、僕も中々に驚いている。
「……いっちゃった…。まっ、まぁいいか…。神はね…悪魔の体をわけただけじゃなく、精神もいくつかにわけたの…。それが私達ってわけ…」
「はぁ…」
「でまぁ、消滅っていってもいいかもしれないわね…。私達には悪魔だった頃の記憶がほぼないし、この世界を乗っ取りたいとか思わないし…」
それじゃあ、ノームも悪魔の一部ってことなのか…。…っていうかサラッと恐ろしいこといわなかったか? まっ、まあいいか…。
「なっ、なるほど…。よくわかったよ…。精霊は悪魔の魂ってことなのか?」
「いやいや、違うわよ。話聞いてた? 私達は精神の部分、魂とは違うわ…。魂は別にあるのよ…。今はどうかしら…流石に死んじゃったのかしらね…」
「…誰が死んだんだ?」
「勇者よ、勇者!」
「……なんで、ここで勇者がでてくるんだ?」
僕は落ち着く為に床に倒れた椅子を起こして座ろうとすると、ウィンディーネがまたとんでもないことをいいだして、手を滑らしてしまった。椅子は完全に壊れてしまったが、それどころじゃなくなってしまった。
「なんでって……。…勇者が悪魔の魂の持ち主だからよ」
「…ええ!? 勇者が悪魔の魂の持ち主!?」
「ええ、そうよ…。直接本人から聞いたから間違いないわ。ちなみに神様の魂ももってるのよ」
「へぇー…」
……ファンタジー耐性があると思っていたのにそろそろ限界だ…。
「まぁ、そういうわけなのよ。ところで…彼…助けなくて大丈夫なの?」
「…彼?」
「さっきのドワーフよ。そこの扉の前で腰抜けて立てないみたいよ」
扉の前に向かうと山積みのタオルに埋まっているドワーフを見つけた。柔らかいタオルだから問題は無さそうだが、全く動きがないのが気になる。急いでエリックを救いあげると、驚くほど号泣していた。
「…エリック、大丈夫か!?」
「……だっ、大丈夫じゃない! …今の俺の気持ちわかるか!?」
まぁ、そりゃそうだろうな…。仕方ないとはいえ、自分達の国を魔法の使えない国にしたんだ…。恨みたい気持ちもわからないことはない。
「エリック…。でも、仕方がなかっ…」
「俺は…いま…猛烈に感動している!」
「…えっ?」
「…俺は色んな本を読み漁った。でも、本だけの知識には限界があるのは分かってる…。まさか…そんな…そんな歴史があったなんて…。ウィンディーネやヴォルト様に会えて本当によかった」
まぁ、ゲームの裏設定とか死ぬほど好きなやつもいるよな…。
そんな事を思いながらウィンディーネの方をみると、頬を膨らませて明らかに不満そうな顔をしていた。
「なんで私には様がついてないのよ!」
「いや、あのヴォルト様はこの国で神と祀られてるので…」
「ふーん…。…私は?」
「特には…」
「…私…帰ろうかしら?」
「まっ、まって下さい。ウィンディーネ様! すっ、すみませんでした…」
「よろしい…」
僕は山積みになったタオルから一枚取り、体を拭いたあと、神様のバックから尻尾を取り出した。尻尾はグテっとしていたが、ゆっくりとだが少しずつ動き始めていた。
「…じゃあ、この尻尾はどこを指してたんだ?」
「…そもそも、ここなのかしらね?」
「…どういう意味?」
「貴方もわかってると思うけど、ここでは魔法は使えないのよ。…尻尾がこの国に入った時点で活動が止まるの。それなのにここにくるなんて……。いえそもそも…」
「…ん? でも、みてくれよ。この尻尾…ずっと地面をさしてる…。…ほら?」
「確かにそうね…。…ん? んんん!?」
ウィンディーネはガラスのような檻にひっつき、目を丸くしていた。最初はなにに動揺しているのかわからなかったが、次の言葉で僕の背筋が凍った。
「…どうしたんだ?」
「…なっ、なんで、尻尾が動いてるの!?」
「…すっ、少しは動けるんじゃないのか?」
「…そんな事ないわ」
「まっ、まさか、剣が壊れたから!?」
「違うわ…。あれは私達精霊の力を増幅するために作ったの…。発動してしまえば関係ないわ…」
「じゃ、じゃあ…なんで動いてるんだ?」
「…まっ、まさか、復活したの?」




