第百四十四話
「剣が…剣が喋った…」
「剣が喋った?」
「うっ、うそじゃない! 俺はそういうスキル持ちなんだ」
「じゃあ、別に驚かなくてもいいじゃないか…」
「違う! そうじゃなくて…。いつもはこう…ぼやっとした声なんだ。今のは本当に話しかけられるような声だった。あんなにハッキリした声は初めてだ。それに、名前もいってた…。水の精霊ウィンディーネ!」
「…ウィンディーネ?」
僕もつられてそういった途端、テーブルにおいたコーラの瓶がガタガタ震えだし、バンッと音がなると瓶が裂けた。すると、中から絵本と少しデザインの違う赤い女の姿をした小さく可憐な精霊が宙に現れた。
「まさか…。…せっ、精霊なのか!?」
「みたいだな…。…でも、なんか気持ち悪そうだな…。…おい、大丈夫か?」
「…ぶっーーー!」
「……」
ウィンディーネは僕の顔をみるなり、口を膨らませて一気にコーラを吐き出した。異世界に来て僕は何回顔面にコーラを吹きかけられたのだろうか。エリックの顔をみるとなんだかすごく納得していた。さっき横を向いてくれといった意味がわかったのだろう。
「なっ、納得してないでタオル貸してくれよ」
「ああ、悪い…。すぐとってくる」
エリックは立ち上がり、部屋の奥に向かっていった。僕は顔についたコーラを手で払いのけた。
「…ったく、ひどいじゃないか、ウィンディーネ…。…って、おっ、おい! 大丈夫か!?」
「うっぷ…。うっ、ゔぇろろろ…」
…きっ、きたない。
「…だっ、大丈夫か?」
ウィンディーネはよろよろになり、僕の手のひらにゆっくり落ちた。僕は慌てて背中を優しく擦って介抱した。
「…おっ、おい、この辺でいいか?」
「うっ、うっ、ゔぇろろらろ…」
「……」
そろそろ手のひらに吐くのやめてほしい…。
「はぁ…はぁ…。少し楽になってきた…。ほんと…。ぐすっ…。ほんと、ひっ、ひどいのはどっちよー! なにあの水…。変なもの媒体にしないでよ!」
「しゃっ、喋った!?」
「うるさいわね。こっちは…。…あれ? なんかこの水、爽快感がすごいわね…。なんか体も軽くなった感じもするし…」
ウィンディーネはひらひらと天井を飛び、僕の手のひらに再度降りた。元気になったウィンディーネは赤い色から絵本と同じ青い色に変わっていた。
「…精霊なのか?」
「そうよ! ったくもう…。…ん? この感じドワーフの国よね…。あんたどうやって、私を召喚したの? 魔法使えないでしょ?」
「普通に呼んだらでてきたぞ?」
「そんなわけないじゃない。私の完璧な魔法に…。…ん? なにかいるわね? …誰?」
「誰って、アルだけど…」
「あんたじゃないわよ。…わかった! この感じヴォルトね!」
突然、僕の体から紫色の可愛い球体が現れると、ウィンディーネの周りを子犬のようにクルクルと飛び出した。
「なっ!?」
「わー久しぶり! 千年ぶりかしら! 元気してた?」
「…あれ? よく見たら大当たりの確定演出じゃないか?」
「ふんふん…。…えっ!? そっ、そうなの!?」
「ウィンディーネ、どうしたんだ?」
「はぁー…。これだから人間は嫌いなのよ。少しは見どころあると思ったのに…。この子はね、ヴォルト…。雷の精霊よ…。演出なんかじゃなくて、あなたが召喚したのよ!」
「えぇ!?」
ウィンディーネは僕の周りをクルクルと飛び、しばらくすると僕の手のひらに乗った。こうやってみると、絵本のようなきれいな妖精だが、なんだか豪快な性格のような気がする。そういう意味では、ちょっとアリスににているのかもしれない。
「よく見ると…あの服をきてるのね…。なるほど…それで、ヴォルトを召喚できたってわけか…。…ということは、あの船できたの?」
「…あの船?」
少し考えこんでいると、ウィンディーネは水の粒子をきれいに纏いながら、スッと目の前に飛んできて僕のオデコをチョンとつついた。
「勇者が乗ってた船よ! 城の地下に隠してあったでしょ?」
「あっ、あれ!? …そんな重要な船だったのか?」
「知らないで乗ったの? でも、すごい偶然ね」
「…偶然?」
ウィンディーネは透き通った青い瞳で僕の目をジッとみてきた。そんな瞳の奥には歪んだ僕が映っていた。
「ええ…。あの時の勇者もあなたが今からやろうとしてることをしにきたの…。あの船でね…。まっ…結果は失敗しちゃったんだけどね」
「…なんで失敗したんだ?」
「なんていうか魂も精神もない復活できないものを復活させちゃったせいね…。まっ…他にも理由があるけど…………」
「なんか、ゾンビみたいだな…」
ウィンディーネは目をつむってなにかを思い出しているようだった。僕はそんな姿をみながら、壊れそうな椅子にもたれかかった。
「あの仮の魂と精神体…。あれだけは、ほんとどうしようもなかったわー…。どこにいるのかわからないし、ほんとどうしようもなかったから、この国を魔力のない国にしたのよ。まぁ自業自得よね…」




