第百四十三話
笑いながら僕がそういった途端、エリックの表情は少しづつ真顔に戻っていった。どうやらハメられたようだった。
「はははっ…。まぁ、そんなおとぎ話なんてないんだがな…。どの本を見ても全部、同じ話だ…」
やられたな…。完全にカマをかけられた。正直にいうか…。
「実はさ…。猫の国にいったことがあるんだ。そこで、その青い剣の使い手の子孫がいたんだ…」
「お前、がっ、外国にいったことがあるのか!? どっ、どんな剣なんだ!? やっぱり、俺の予想は当たってたんだ!」
エリックはテーブルをバンッと叩いて、身を乗りだして話に食いついてきた。物凄く興奮して声を荒げていた。
「先週までいて…。傘みたいな剣だったよ…。ところで、予想が当たってたって…。…どういう意味なの?」
「精霊ってのはすごく繊細なんだ…。気に入った相手にしか力を貸さない。名前は忘れたけど、三体の中の一体がヒト型の種族が嫌いだと伝えられてるんだ…」
「なるほど…」
「でも、一つだけ気に入ってた種族があったといわれてる…。霊的な力が強い種族…。それが猫族なんだ…」
「霊的に力が強い?」
「ああ、精霊も霊の一種だからな…。霊に愛されるというか引き寄せるというか…。そういうのに猫族は長けているんだ。まあ、この本の中だけの知識だけどな…」
「そういう事か…」
そうか…。それでシルフィーは猫の宿屋ばかりにいたのか…。もしかすると…他にも幽霊が…。いや、深く考えるのはよそう…。
「なんか、つかれたな…。喋りすぎて喉乾いてきた…」
「俺も頭がパンクしそうだ…。こんなときはコーラでも…。あっ、あれ!? バッグが使えるようになってる…」
おもむろに神様からもらったバッグに手を突っ込むとビンの感触を感じた。だが、一体どういうことなのだろうか。さっきまで、魔法は使えなかったのに今では使えるようだ。でも…なんで急に使えるようになってるんだろう。
「…どうしたんだ?」
「いっ、いや、なんでもない」
まぁいいか…。問題が一つ片付いたんだし…。
僕は魔法でキンキンに冷やしたコーラをテーブルに一本置いた。コーラはよく冷やされ、周りからは白い煙がもくもくと出ている。やはり問題なく魔法が使えているようだ。
「…それは?」
「ふっふっふっ…。これは悪魔の飲み物…。コーラだ…」
「ごくっ…。…あっ、悪魔の飲み物?」
「…飲むか? とっーーても美味しいぞ」
「かっ、体に害はないのか!?」
「ああ…。多量に飲まなければ問題はない。いらないなら飲むぞ…」
「いっ、いる! グラスを持ってくる。ちょっと待っててくれ…」
彼は棚の奥からグラスを取り出し洗ったあとテーブルに置いた。僕は二つのグラスにコーラを半分ずつ入れて一つをエリックへ差し出した。
「ああ、そうだ…。飲むときは一応横を向いといてくれ」
「…なんでだ? まさか…なにかの儀式なのか!?」
「いや、顔にかけられたくないだけだ。慣れないうちは少しずつ飲んでくれ…」
「よくわからないけど…わっ、わかった…」
「じゃあ、乾杯…」
「乾杯…」
「……ああーうまい…」
「大丈夫そうだな…。ごくっ…」
「だっ、大丈夫だって…」
「…なっ、なんだ、この飲み物!? うっ、うまい…。もっ、もう一杯くれ! こんなおいしい飲み物、初めて飲んだ…」
「ああ、いいよ…。…ん?」
僕はバッグに手を突っ込むと変なものにあたったので、コーラと一緒にテーブルの上にだしてみた。なんとなくの感触だが、これは…。
「やっぱり、これか…。さっきイメージしたときにでてきたのかな?」
「…なんだ? その折れた剣は?」
「これがさっきいってた青い剣だ。壊れてるんだけど直せるかな?」
「みっ、みせてくれ! これが伝説の…。…ん? …これが剣?」
色々な角度から剣を見たあと、エリックは不思議そうな顔をして剣を見つめていた。僕はコーラを冷やし終わったので、炭酸を入れながら聞いてみた。
「…どうしたんだ?」
「これ…偽物じゃないのか?」
「…偽物?」
「まず、この剣じゃ刃がついてないからなにも切れない。それに、この形状…。無駄がありすぎる…。うーん…。模造刀かなんかだろうな。一体、誰だこの変な剣作ったやつ…。柄の部分外すけど、いいか?」
「ああ…。大丈夫だ」
「はははっ、見てみろよ。これ、初代ドワーフ王の名前が刻んであるぞ。…ん? うわぁあああ!」
「だっ、大丈夫か?」
大きな声をあげた彼は見事に椅子からひっくり返り床に倒れた。返事がなかったので立ち上がりエリックの様子を見に行くと、彼は不思議なことに天を仰ぎながら震えていた。




